毎日の中で
艦これを始めて10年になる。
正式リリース前のベータ版からだから、ぼくの鎮守府には最初から大井っちがいる。
協力プレイもないし、上位ランカーを目指さなければ自分のペースで好きな時に好きなふうにやれるのがいい。
情報交換も基本的にオンラインのやり取りだから、会話のペースが人と合わないことが多い僕にはやりやすい。
ちなみに年齢制限があるから、いくつの時から始めたのかとは訊かないで欲しい。
幼い頃から「みんなと何かする」のが苦手だった。
歌うのも鬼ごっこで走り回るのも好きだったけれど、好きなように歌うとみんなと合わないし、無理に合わせようとすると楽しくない。
球技系は相手のも味方のもその意図を読み取れず、僕なりに考えたプレイをすると「変なところにパス出すな」といつも言われた。
理解のある両親だったから、相談して高校は通信制にした。
学認も考えたけれど、何か知りたい時は容易に先生にアクセス出来る通信制のメリットを選んだ。
父からはよく武者修行と言って、ひとりで図書館に行かされた。
大学に進学したら、きっとこんな生活を送るから、と。
何度か図書館で中学時代の同窓生と会った。
このへんでいちばんの進学校に行った人たち。彼らから、この高校ならお前ももっと生きやすかったと思うぞ、と言われた。
そして、多分お前の頭なら、大学行ったらもっと話ができる奴が増えるぞ、とも。
それを励みに自分のペースで勉強して、休んで、お腹が空いたらひとりでどこかに食べに行く。食事を抜くのは母が許さなかった。レシートか食事の写真の提出を求められた。
学業の傍ら、艦これをプレイし、絵を描き、プログラムを学び、DTMで音楽を演奏して、歌って、踊って、動画も作って配信したりした。
特に有名ではないけれど、底辺よりは少し上のVtuber になって、SNSのフォロワーもけっこう増えた。
SNSは食事や風景の写真、それに添えたひとことへの反応がいい。
好きなことを好きなだけ、好きじゃないことは最低限学んで、旧帝大に進学してひとり暮らしを始めた。
進学に際して、父からは好きなことを好きなように、ただし徹底的に学べと言われた。
母からは、主に家計のやりくりと掃除、それから初歩的な料理を仕込まれて、図書館通いの昼食同様、食事の写真を都度送ることを求められた。あと最低限1日おきの掃除。
曰く、お前は放っておくと何日も食事を抜いたり栄養が偏ったものばかり食べるから、と。
偏った食事が続くとあれを食べろ、これを食べろと、時には店やメニューまで指定して指図されたし、二四時間通知が途絶えるとアパートに押しかけてきたりもした。
そこで掃除について採点講評され、数日分のご飯を作り置きして母は帰って行ったものだった。
思うに、僕みたいなフリーダムな人間が生きていくための指針を父が、最低限の生活力を母が教えてくれたのだと思う。
大学院に進学し、Vtuber をしながら何か思いついたことがあるとその都度すぐに起業した。
上手く行ったものも失敗したものもたくさんある。
大学院生ともなると、僕にも上手く合わせてくれる人もいて、騙されていないかチェックしてくれる教授もいて、上手く行ったものは早めに実務が出来る人に売却し、そのお金でまた次の事業を起こした。
艦これの補助ツールだけは自分で改修したくて、無料のまま続けているけれど。
リアイベは行きたくなったら行くし、義務感にとらわれてたら楽しくない。行くのはいつもひとり旅だから旅の計画も成り行きまかせだ。
それでもSNSに旅の様子やゲーム中のイベント進行状況をアップすると少なくない数のいいねをもらえるし、ゲームに限らず投稿動画もおおむね高評価だ。現実の会話と違って考えてコメントできるから基本的にもらったコメントには返事をするようにしている。それがまた高評価に繋がっているらしいけど、義務に感じてつらくなったらすぐに音を上げるようにしている。
それでもわりと受け入れてもらっているから、ネットの世界は居心地がいい。
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