第53話 誕生したベアトリ

 宿屋で食事が取れないので、僕達は空地を見つけて屋台を召喚した。


 今日はオープンではなく、僕達の食事のための屋台だ。


 厨房を閉めて、みんなで食堂に集まってテーブルを囲んだ。


「ミレイちゃん。疲れてない?」


「うん! 大丈夫だよ~お兄ちゃん」


「そか。偉い偉い~」


 ミレイちゃんの頭を優しく撫でてあげると、可愛らしい猫耳がふにゃふにゃと動いて、とても可愛らしい。


 前世でも子供はいなかったというか、独り身だったので…………子供を持つと、こうして毎日頭を撫でたくなるのだろうか?


「今日は新しいレシピを試すよ!」


 銀貨二枚で課金した新しいレシピ。


「――――蒸し煮ブレゼ!」


 こちらのレシピは少し特殊で、作物限定で単純に蒸すだけ・・・・・・・である。


 でもこれがいいのだ。特に蒸し料理は時間がかかるのに対して、こちらはたった一秒で終わり。


 それにその真髄はここに調味料を追加・・・・・・できることにある。


 大皿に現れた黄金色に輝くトーモロが湯気を立てる。


 そして広がる――――香ばしいバター・・・の匂い。


「この匂い! バターだ!」


「ああ。名付けて【バターまみれのしトーモロ】だ」


 トーモロを手に取り、緑色の葉っぱを開いて、光り輝く身に――――かぶりつく!


 昨日食べたトーモロ焼きとはまた違う、バター風味と本来の甘さより何倍も増して口の中に広がっていく。


「「「「美味すぎる~!」」」」


『か、神の食べ物ニャ……』


 ポンちゃんもいたく気に入った様子。


 ――――その時。


 ミレイちゃんがずっと温めていた卵がバリッバリッと音を立てて、ひびが入っていく。


「卵が!」


 みんなで蒸しトーモロを置いて、卵に集まった。


 ひびはどんどん増えていき、パコッと音が響いて卵が上下に分かれた。


 そして、中から現れたのは――――――


『美味そうおおおお!』


 …………やっぱりお前も声が聞こえるのだな。


『ママああああ! お腹空いたああああ!』


 こ、声が……大きすぎて耳に響く…………。


「「「可愛い~!」」」


 元気に卵の兜をかぶった巨大な――――ひよこ。


 卵だけでも五十センチくらいあったけど、中から現れたのはポンちゃんよりも大きく、一メートルくらいある。ちょっとした大型犬だ。


『ママああああ!』


「僕をママと呼ぶな!」


『えっ……ママ…………』


 ガーンという音が聞こえて、一瞬で萎える巨大ひよこ。


「ノア!? ひ、酷いよ! この子が可哀想だよ!」


「えっ!?」


「お兄ちゃん……この子にも優しくして欲しいです……」


「ううっ……」


 二人の可愛いお願いなら…………でも凄いうるさいんだよな。


「大声を出すなよ?」


『分かった! ママああああ!』


 う、うるさ……い。


「それよりお腹空いたから卵から出てきたって、何を食べるんだ?」


『それが食べたいよおおおお!』


 ひよこの視線は蒸しトーモロに向いた。


 ポンちゃんが器用に二つ持ってきてくれる。


『お兄ちゃん、ありがとうおおおお!』


『クフフ。僕はお兄ちゃんだからニャ』


 まさか……生まれながらメンバー全員の扱い方・・・を知ったのか……!?


 渡したトーモロはもちろん――――丸呑みだった。


 ひよこって前世でも激しかったけど、まだ小さかったからいいが、一メートル級になるとこんなにも迫力が凄いんだな。


 急に生まれた【ベアドリ】は無事に生まれた上に、元気この上なく、とても活発な巨大ひよこだった。

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