第51話 卵の行く末
「い、いや! や、やめてよ! ノア! お願い!」
『ノア……僕も嫌ニャ!』
「お兄ちゃん……? お願い……それだけは……」
「ノアさん……私も今回ばかりは反対です……」
全力で僕を止めてくるメンバー達。
その理由はとても単純で、
異世界の卵は、前世とは違って食べるか孵化するかが選べる。単純に温めれば孵化するし、割れば料理に使える。
だから運ぶ際には温めるのではなく、逆に冷やせば新鮮な(?)卵が食べられたりする。
それを食べようとしたら、みんなが反対し始めた。
ここまで卵料理なんて普通に食べて来たのに、どうしてこの大きな卵はダメなのか。
「ベアトリって凄く珍しいんだよ? 育てれば、毎日美味しい卵を産んでくれるし、戦いにも参加できるんだよ?」
「いや、うちは番犬がいるし」
『誰が番犬ニャ! 僕はシュゴシンニャ!』
怒るポンちゃんを撫でながら「すまんすまん」と謝る。
「それに大きくなったらミレイちゃんが乗れるかも知れないよ!」
必死に訴えるセレナに苦笑いがこぼれた。
確かに、いくら獣人族で歩き慣れているとはいえ、まだ十歳のか弱い女の子だ。
僕達はのんびりと旅しているが、いつか急ぐ時がくるかも知れない。
ライラさんは成人した獣人族だけど、戦闘要員ではないので毎回抱きかかえて逃げるのは得策ではない。
となると……やはり育てる方向がいいのか? 餌の問題は大丈夫か? トーモロを食べてくれるなら大丈夫だ。問題ない。
「分かった。みんながそこまで言うなら、食べずに孵化させよう」
「「「やった~!」」」
『ノア神ニャマ!』
というかポンちゃん的に、子供が食べられてしまうことに自分を投影しているのだろうか?
「ほいほい~」
『にゃふふふ~くすぐったニャ~』
この猫語の犬は、本当に可愛いな。
「じゃあ、孵化役は――――ミレイ隊員! 君に任せた!」
「!! かしこっ~!」
ミレイちゃんがノリよく返してくれた。
それからティス町の東側に向かい、次の出発までの宿屋を探した。
ブレインさん達と泊まった宿屋でもいいんだけど、向こうは酒場を兼業しているので夜は非常にうるさいのだ。もちろん、酒場だけでなく夜もそれなりにうるさい。
まだ幼いセレナやミレイちゃんもいるので、もう少し静かな宿屋を紹介してもらってやってきた。
ここは珍しく宿屋のみの経営で、飲み物は販売していても、酒や食事は販売していない上に、食べる場所もない宿屋だ。異世界では珍しい宿屋だ。
「こんにちは。部屋を借りたいんですけど」
「…………従魔が暴れたら弁償ですが、よろしいですか?」
少し無愛想にするおじさんだ。
「はい」
「うちは基本的にダブルかツインしかありません」
「!? …………じゃあ、ダブルを……三つ?」
「ノア! 経費は削減しないといけないから、ダブル一つとツインを一つで」
ま、またセレナと一緒に寝るのか!?
意外に本気で睨んでくるセレナ。
「だ、ダブル一部屋とツイン一部屋をお願いします」
「あいよ。前払いで一部屋大銅貨三枚です」
大銅貨六枚を渡して、鍵をもらって部屋に向かった。
ツイン部屋は僕とセレナが、ダブルはライラさん達が利用する。
ダブルの部屋に集まって、早速【ベアトリ】の卵を取り出した。
ベッドの中心部に置くと、ミレイちゃんがベッドに上がり、温風の魔法を周囲に放ち始めた。
「あ。ミレイちゃん。それちょっとまずいかも」
「うん?」
「もしここで生まれたら、弁償させられるかも」
「確かに……!」
今度はみんなの分の毛布を取り出して、ベッドの上に敷いて、卵に優しく包んだ。
「よし、これなら孵化してもベッドは汚れないな!」
「うん!」
それから魔法で温風を送るミレイちゃんとライラさんを残して、僕達はツインベッド部屋を確認した。
「…………セレナさん?」
確認が終わって出ようとしたら、入口の前で両手を開いたセレナ。
「不満があります!」
「えっ……?」
「ノアは私と寝るのが嫌ですか!」
「い、いや……そういう訳じゃ……」
「じゃあ、これからも別部屋にしないと誓ってください!」
「誓いまで!?」
「わ、私はノアと同じ部屋がいいです!」
顔を真っ赤に染めたセレナが、僕を真っすぐ見つめて来る。
知らない地で一人で眠るのはまだ怖い年ごろかも知れない。
十二歳で成人になる異世界だが、十二歳はやはり十二歳。
ここはセレナの言い分を聞いてやるのは、僕の役目かな。
「分かった。セレナがそうしたいなら、今後からはそうするよ」
「!? ほ、ほんと?」
「ああ。約束だ」
ようやく、ムッとしていた顔に満面の笑顔が咲いた。
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