第50話 大口仕入れ
次の日。
宿屋で朝食をご馳走になった。
ミルクとパンと目玉焼き。
ティス町の東に続いている街道を進むとエンガリスアという大きな街に着く。
イデラ王国の王都の次に大きな街――――その名を【貿易街エンガリスア】と呼ぶ。
名前の通り、エンガリスアからはイデラ王国だけでなく、隣国に繋がる街道を持つため、貿易の中心地であり、多くの商人にとっては夢のような街でもある。
僕達の次の目的地はエンガリスアだが、距離はシーラー街の四倍もある。
途中に町はあるものの、街道を通る町は存在しない。
なので、ティス町で調達できるものは調達していきたいと思う。
「短い間でしたがありがとうございました」
「こちらこそ、ノアくんの美味しい料理を食べられて本当に助かった」
僕とブレインさんが握手を交わして、みんなで挨拶をした。
少し寂しそうにするセレナの横顔が見えた。
旅をすると、仲良かった人とも必ず別れの時がくる。シーラー街でもあったように、今回は特にセレナがそれを体験する形となった。
ブレインさん達は冒険者ギルドに向かうとのことで、先に出発した。
「さて、僕達も仕入れに行こうか」
「うん!」
反対側にあるという商店に向かう。
ティス町は程よい都会で、建物も二階建てが多いが、それは商業地区だけのようだ。
商業地区は西入口と東入り口に別れていて、どちらにも差はあまりないと宿屋の主人が教えてくれた。
ゆっくり回りを眺めながら、商店にやってきた。
「いらっしゃいませ~」
好青年の店員さんが出迎えてくれる。
時間帯が良かったのか、他のお客様はいなくて僕達だけのようだ。
商店内には、食材となるものが多く並んでいて、肉から野菜、果物がいくつも並んでいた。
中でも一番目立つのは、特産品でもあるトーモロだ。
「こちらのトーモロって一ついくらですか?」
「小銅貨五枚でございます! エンガリスア街だと四倍はするので、とてもお得ですよ!」
確かにそれはお得だな。
ここで運ぶだけの仕事でもお釣りが返って来そうだが、そういうのは販売許可を持つ者しかできない仕組みになっている。
「じゃあ、二百個くらいもらいます」
「二百個!?」
「それと、こちらの果物をこれくらいと、この野菜と、あと卵も補充しなくちゃな…………ああ! ミルク! ミルクを大量にください」
ポカーンとする店員に、銀貨を十枚出すと我に返ったかのように、準備してくれた。
ブレインさん達も驚いていたけど、この世界でモノを運ぶ能力に【アイテムボックス】は最適だったりする。
厳密に僕が持つのは【アイテムボックス】ではないが、似たものだ。
あまり大っぴらにはしたくないが、手に持つわけにもいかないので、計算が終わった食材を片っ端から【異空間冷蔵庫】に入れた。
「おお! 【アイテムボックス】をお持ちの方だったんですね! 珍しいものを見ました!」
「そうみたいですね。ありがたいことに、とても素敵な才能を授かりました」
「おお~女神シルス様の導きがあらんことを~」
女神シルス様というのは、世界を作ったとされる女神様のことで、人族が最も多く崇める存在だ。通称【光の女神様】とも呼ばれている。
「ん……金に余裕がありますね。やっぱりトーモロをもっとください」
「かしこまりました。それでしたら当店の在庫もこれくらいありますが、どうなさいますか?」
「その量なら買えますね。全部ください」
お金を支払って、倉庫に案内を受けてトーモロを大量に仕入れる。
こちらも商品になるので、ここで大量仕入れをしておくことで、屋台のメニューが充実する。
というのもトウモロコシは調味料ではないので【無限調味料】で作ることができない。
トウモロコシ風味の調味料はあるけど、直接使いたい時のために大量に仕入れておきたかった。
それとミルク。これは色んな料理に使えるし、そのまま飲めるしで、大量に仕入れたかった。
「大量購入ありがとうございます。こちらは気持ちばかりですが、サービスとしてどうぞ」
そう言いながら、珍しい大きな卵を一つ渡してくれた。
「こちらは【ベアトリ】の卵になります」
「ええええ!? そんな貴重なものをくださっていいんですか!?」
「はい! それに実を言うと処分にも困るくらいの品なんです。食べてもいいですが、量が多すぎるのと、
「なるほど。僕達にはたくさん食べてくれる
「はい! ご利用ありがとうございました!」
シーラー街ではお金があまりなくて少量しか仕入れできなかったが、初めての大口仕入れに笑顔がこぼれた。
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