第39話 お昼寝(セレナ視点あり)

「「美味しかった……」」


 満足したのか、腹を擦るライラさんとミレイちゃん。


 初めて食べたうどんは満足してくれたようだ。


 フォークを器用に使って食べていたけど、自作箸で食べる僕を不思議そうに眺めていた。


 そんな中、セレナが少し恥ずかしそうにしている。


「セレナ。遠慮なんてしなくていいからな」


「う、うん! お、おかわり!」


『! 僕もおかわりニャ!』


 両手で大事そうにどんぶりを前に出すセレナと、大皿を前の足で押し込むポンちゃん。


「はいよ~うどん!」


 二人の皿に新しいうどんが現れる。


 香ばしいつゆの匂いが周囲に広がる。


 完成したうどんを二人に渡すと、美味しそうにパクパク食べ始めた。


 ポンちゃんは器用に舌を使って食べていて、火傷の心配をしたけど、どうやら異世界ならではのそういう耐性・・・・・・を持っているらしく、あつあつでも楽に食べていた。


 セレナも同様で、【暴食】はあらゆる食べることに対する耐性を持つらしく、あつあつでも美味しそうに食べていた。


 たこ焼きの時も気になっていたけど、パクパク食べられるのはそういう体制があるからなんだな。


 ポンちゃんはおかわりを三回、セレナは十回おかわりした。


 新しいメニューで昼食を食べて満足している僕達の視界に、ひと際急ぎ足で走り去る馬車が見えた。


 貴族にはそれぞれ爵位を示す模様があって、その馬車には子爵紋が描かれていた。


「シーラー街から子爵家の馬車か~」


 ふと一人の貴族を思い出した。


 ふくよかで横暴な態度を取りながら、でもちゃんと料金を支払ってくれた子爵様。


 その利益で新しいレシピも購入できたけどね。


「そういや、あので……こほん。あの子爵様は今頃何しているのかな~」


「あの馬車に乗って、私達を探していたりして」


 えっ……? まさか…………。


「まあ、満足してくれたとは思うけど、銀貨五十枚もの食事だったからね。もう来ないんじゃない?」


「それもそうね。銀貨五十枚の食事を毎日食べられるとは思えないもんね」


「ああ。それにしてもこの丘は見晴らしがいいな」


「うん!」


 食べ終わったどんぶりは、ミレイちゃんが魔法で綺麗に洗ってくれた。


 最後にテーブルを拭いて【簡易収納】に入れたら、暫くボーっと景色を眺める。


 少しして寝息が聞こえるなと思ったら、ミレイちゃんがライラさんの膝枕で眠っていた。


「僕も少しお昼寝しようかな……」


 昨晩は眠れなかったからな……。


「少し寝ていいよ? 守りは私とポンちゃんに任せていいからね」


「ありがとう。セレナ。ポンちゃん。ライラさんをよろしく……」


 満腹もそうだけど、凄く安心してしまって一気に眠気に襲われた。


 僕は倒れ込むように眠りについた。




 ◇セレナ視点◇




 いつもなら元気いっぱいのノアが朝から眠そうにしていて、ようやく眠りについた。


 ポンちゃんに守りをお願いして、眠ったノアの頭を私の膝に乗せる。


「ふふっ。お兄ちゃんと妹みたいですね」


 そう話すライラさんは、優しい笑みを浮かべた。


「はい。ノアもミレイちゃんを妹のように慕っていますから」


 まだ出会ってそう長い期間は経過していない。でも私達はノアを中心に団結していて、毎日一緒に過ごしている仲だ。


「今日のノアさん。あまり寝てなさそうでしたね」


「!? そ、そ、そうですね……」


 その原因を私は知っている。


 実を言うと私もあまり眠れていない。


 私は【暴食】の力で、短い睡眠でも十分に力を発揮できるのだけれど、眠ろうと思えば眠れる。なのに、昨晩は眠れなくて、ずっと高まる心臓の音に耐え続けた。


 ノアの寝息も聞こえてこなくて、朝までずっと起きているのも知っている。


 昨晩はとんでもないことをしてしまったんだなと反省していた。


 でも…………私のことをノアにちゃんと伝えられたのなら…………嬉しい。


「里に住んでいた頃は、こういう風に旅に出るなんて想像もしてなくて……娘が魔法を使えると知った時は絶望してました。ノアさんにもセレナさんにも本当に感謝しています」


「いえ……私はなにも……」


「きっとセレナさんがいなかったら、ノアさんは私達に手を差し伸べてはくれませんでした。セレナさんのおかげです。ですから――――これからノアさんとの関係は応援させてくださいね」


「!?」


 あたふたする私を見て「若いっていいわね~」と笑うライラさんに、顔が熱くなるのを感じた。

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