第40話 初めての野営

 ん……?


 眠い体を横に動かすと、ほのかに甘い香りとぷにぷにした感触が頬を伝う。


 ぷにぷに………………ぷにぷに!?


 目を覚ましたら、視界に伸びるのは健康的な太ももと、膝まで伸びる黒い靴下が見えた。


「ぬわっ!?」


 体を起こすと、目の前にセレナの両足が見えた。


「良く寝た? ノア」


「あ、あっ、そ、その…………ありがとぉ……」


「ううん!」


 まさかセレナに膝枕をしてもらったとは思わず、驚いてしまった。


 ミレイちゃんは既に起きてて、クスクスと笑っている。


 丘に吹く優しい風が気持ち良くて、熟睡していたようだ。


「それにしても、丘の上って魔物はこないのか?」


 ふと気になったけど、魔物の気配はしないし、魔物を倒した形跡もない。


「大きな樹木には弱い魔物は寄ってこないみたいですよ~」


「そうなんですか!? 初耳です」


「獣人族にはそういう言い伝えがあるんです。休息は大きな樹木の下でするのが習わしなんです」


 人族とはまた違う習慣があるんだな。


 どこの本にもそういう話は書かれていなかったけど、あまり気にした人もいなかったのかも知れない。


 お昼寝も終わったので、レジャーシートを片付けて、また旅に出かける。


 街道は相変わらず人の往来も馬車の往来も多い。


 こう見ると何万人単位で人が住んでいるシーラー街って大きかったんだな。そりゃ……冒険者ギルドに常に百人はいるはずだ。


 時々ゴブリンと戦っている旅人を見かける。みんな難なく倒していた。


 そのまま東を目指して数時間歩き、日が傾いてきた。


「暗くなる前に準備しようか」


「「「かしこっ~!」」」


『かしこニャ!』


 最近はポンちゃんまでもが手のひらを見てる敬礼ポーズをする。


 街道から森の中に入っていく。


 ゴブリンや他の魔物もちょいちょい出るが、街道で堂々とテントを張るわけにもいかず、街道に近い森の中にテントを張ろう。


 すぐに【簡易収納】から取り出すのは――――大工屋セビルさんから特注した最後の品。野営テントだ!


 大きさは屋台の食堂より少し小さいくらいで、中は綺麗に並べば大人十人でも眠れそうな広さだ。


 テントは場所を取るので、【簡易収納】に入れている時も折り畳んでいる。取り出して設営すると、すぐに三角テントが完成した。


 これもセレナが成人男性よりも力があるおかげだ。


 テント設営が終わると、テント前に焚火を起こす。


 イデラ王国は常に秋日和なので、夜は少し肌寒いのだ。


 夜番・・のためにも、こういう焚火は大切だったりする。


 焚火の隣にテーブルと野営用椅子を出して、のんびりと準備する。


「水魔法~!」


 ミレイちゃんが水魔法で水を大量に作ってくれる。こういう野営で一番困る一つは水だ。飲み水、洗い水、料理水。その全てを担ってくれるミレイちゃん。一家に一人ミレイちゃんが欲しくなるほどだ。


 鍋に水を入れて焚火の上に置くと、沸々と沸き始めて暖かい湯気が森の暗闇に広がっていく。


 いくつかの野菜を取り出すと、ライラさんが手際よく切っていき、湯気の中に野菜を入れていく。


 パルダと呼ばれている前世には見た事ない野菜は、ものすごく良い出汁・・・・が取れる。冒険者の強い味方で、野営で冷えた体を温める一番のスープとなる。


 スープが完成したタイミングで、皿にたれ焼肉を取り出す。


 僕とライラさんは中辛、セレナとミレイちゃんとポンちゃんは甘口だ。


 たれ焼肉の匂いと、味噌汁に似たスープの香りが混じり合って、すぐにお腹が「ぐ~」と音を鳴らす。


 前世では腹の虫が鳴ったら恥ずかしかったけど、異世界ではわりと普通にあることで、誰も恥ずかしがらない。


「「「「いただきます~!」」」」


『いただくニャ!』


 やっぱり一日一食は焼肉を食べたくなるよね。


 前世では年齢と共に胃に負担がくるものより、寿司とかが好きになっていったけど、今の体ならやっぱり肉が美味い!


 みんなで美味しくもぐもぐと食べていると、茂みがガサガサと音を立てた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る