第29話 僕達のお店が目指す場所
たれ焼肉は匂いが強烈だ。森の中だと気づかなかったけど、街の中だと大通りまで匂いが運ばれているようだ。
その匂いに釣られてやってきたお客様も多く、遠くから見るだけの人も多かった。
そもそもたれ焼肉は銅貨十枚もするので、異世界ではかなりの高額商品だ。中々手が出せない人も多いはずだ。
もっと値段を下げても問題ないので、いずれは価格調整をしてもいいかも知れない。屋台【自由の翼】の理念は、腹いっぱい食べてもらいたいから。
そんな中、僕達を遠くから羨望の眼差しで見つめる集団がいた。
「お兄ちゃん~」
僕の後ろで食べ終わった食器を水魔法で洗っているミレイちゃんが声を掛けてきた。
彼女は空中で水玉を作り、そこに食器を入れて洗っている。それを外にも見えるようにやっているので、見る人によっては芸に見えるかも知れない。
「どうしたんだい?」
「向こうからこちらを見ている子供達が沢山いますよ~」
ミレイちゃんが指差す場所には、二十人くらいのボロボロ衣服で小汚い子供達が遠くからこちらを見つめていた。さっきからこちらを見つめていた集団だ。
「どうしますか?」
「もちろん――――ミレイちゃんに任せるよ」
「かしこっ~!」
可愛らしく手のひらを見せながら敬礼するミレイちゃん。
やっぱりこのポーズ癖になっているな。もう公式ポーズでいいかも知れない。
真っすぐセレナに向かってミレイちゃんが何かを伝えると、二人で屋台の
すぐに簡易的な木箱テーブルと木箱椅子を並べる。
完成してすぐにミレイちゃんが子供達の集団に向かった。
「いらっしゃいませ~屋台【自由の翼】です!」
「あ、あの……ごめんなさい。僕達客じゃないです……」
「それは残念……」
当然のことだけど、うちの屋台の匂いに釣られてきた人は多くいるが、その半数はミレイちゃんとライラさんを見ては、帰っていった。獣人族だからだ。
でも彼らはミレイちゃんに対して
その時、集まっていた子供達から勢いよくお腹の音が鳴り響く。こういうのって不思議と連鎖するからみんな同時になるよね。
「ふふっ。お腹空いてるじゃないですか」
「は、はい……でも僕達お金がなくて…………」
「それなら――――実はここだけの話、いま試食会をしてまして、とっても格安で食べることができるんです。ただ、食堂じゃなくて裏の試食場になりますけども」
「!! ほ、本当に食べられるんですか!?」
「もちろんですよ~」
ミレイちゃんが天使のような笑顔を浮かべる。猫耳がピクピクと動くところも可愛らしい。
「あっ! でもごめんなさい。一応商品なので料金がかかってしまうんです。お一人――――――小銅貨一枚もしくはそれ相当の素材で食べれます!」
「こ、小銅貨ございます! 全員分ございます!」
「はいっ! こちらにどうぞ!」
ミレイちゃんの案内を受けて屋台の裏側、厳密に言うと厨房の裏側に設置した木の箱のテーブルと椅子に彼らを案内した。
男の子十人、女の子十人か。
先にプレートを二十個並べて待つことにする。食堂の方が既に満員なので、追加注文が届くのは少し先になりそうだ。
プレートを並べ終えるとセレナがやってきた。
「初めての
「そうだな」
セレナが言うお客様は食堂のお客様のことではない。厨房の裏側にいる子供達のことだ。
「お兄ちゃん~注文入りました~!」
ミレイちゃんが元気よく声を上げてやってきた。手には注文用紙を四枚も持っている。
それから注文通りのたれ焼肉を二十人前と、パン六十個を作る。
次々と完成したたれ焼肉が乗ったプレートを、セレナとミレイちゃんが手際よく運び始めた。
全て運び終えて、厨房の裏側から大きな声で「いただきます!」と子供達の声が聞こえてくる。
お腹が空いていただろうに、全員分揃うまで誰も食べなかったようだ。
それからすぐに「美味しい~!」という声が鳴り響く。
中には泣き出す子までいて、ちょっぴり胸が苦しくなった。
異世界は前世よりも弱肉強食の世界。彼らのような貧困層を救ってくれる国はそういない。この街で少ない方らしいけど、現に二十人もの子供達がいる。
僕は彼らを救うなんて大それたことを言うつもりはない。
ただ……一食だけでもいいから、腹いっぱいに美味しいものを食べられる場所を作りたかった。
無料での提供は他のお客様に失礼に当たる。だからセレナ達と数時間に及ぶ会議の末、貧困層には
名目として、彼らはあくまで料理の試食会ということにしている。
テーブルや椅子も通常のものではなく、あくまで余っている木箱テーブルと木箱椅子だ。といっても実はこれも特注で作ってもらった立派なテーブルと椅子だけどね。
食事が終わったようで、今度はミレイちゃんがアンケート調査を行う。
アンケート内容は「味に満足したか」「量に満足したか」「食べる前にワクワクしたか」など、
最後にアンケート調査に協力してくださったお客様達に――――籠いっぱいのパンをプレゼントした。
「「「ご馳走様でした!」」」
子供達が僕の前で大きく挨拶をしてくれる。
中には少し目元が赤く腫れてる子もいるけど、みんな笑顔を見せてくれた。
「ご利用、ご協力ありがとうございました」
僕も彼らに感謝を伝えた。
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