閑話 お給金(セレナ視点)
◇セレナ視点◇
「ノア~今日もみんな来てくれたよ~」
私の言葉に、すごく嬉しそうに笑顔を浮かべる彼。
彼が笑う時って、自分が作った料理を誰かに食べて貰える時だ。
何度も作ってくれた焼肉を食べる私を見て、いつもニコニコと笑みを浮かべて見守る。
最近は貧困民の子供達が毎日昼食を食べに来てくれる。二十人とも最初の頃とは違って表情がとても明るい。
アンケートに協力してくれたら小銅貨一枚。でも対象はあくまで私達の中の誰かが選んだ人だけ。
ノアの想いから貧困民や孤児など、困っている人達が対象だ。もちろん、子供だけでなく、働けなくなった人や身寄りがなくなった老人も対象になったりする。
そんなノアが夢見た【自由の翼】は、まだミレイちゃんとライラさんを快く思わない人達はいるけど、匂いに釣られて連日満員だからか、毎日凄い額を稼いでいる。
初日が終わった日の出来事だった。
「「「乾杯~!」」」
宿屋ホワイトテールで、私達はテーブルを囲って美味しそうな料理を並べて乾杯をした。
ホワイトテール自慢の果実水も料理もとても美味しい。
「今日のお客様。数百人もいて、ものすごく稼ぐことができたよ」
「これもノアの料理が美味しいからだね!」
たれ焼肉は大好評で列に並んだお客様達はずっと食堂を見つめていた。
私が知っている中でも、このたれ焼肉を超える料理は食べたことがない。ホワイトテールのご飯も美味しいけど、やっぱりノアの料理には勝てない。
「では、先にこれを渡しておくよ」
そう言いながら私達の前に、それぞれ大銅貨十枚と銀貨二枚を出した。
「ノアさん? これはなんですか?」
「なにって、みんなのお給金だよ?」
「「「お給金?」」」
私達が首をかしげると、ノアが大きな溜息を吐いた。
「いやいや、君達。ちゃんと働いているんだからお給金を貰って当然でしょう? 貰えないとでも思ってたの?」
「あ、あの……! ノアさん。これは頂けません。娘の分もです」
すぐにライラさんがお金を押し返して、ミレイちゃんもそれを真似て押し返した。
「私達は食事を頂けるだけで十分です!」
「ライラさん。それとこれは別です。僕のお店で働いてくれる人には
「ノア……? 私も貰えないかな……」
「セレナ……」
悲しい表情を浮かべたノアに、私の気持ちをちゃんと伝える。
「ご飯ってお金を出せば買えるかも知れない。でも私は大食いで、いつもノアにご飯を作って貰ってて、でもそれが当たり前じゃないと知ってるから。私にそれ相応の支払える能力はないけど、せめてノアのために働きたいの。だから報酬は貰えない」
「それは誤解だ。セレナ。そもそも僕がセレナから貰ってるものも多い。セレナが気づいていないだけで、僕は多くを貰ってる。いつも僕が作るご飯は、セレナのためでもありながら、僕のためでもあるんだ。だから屋台のお仕事は別。ライラさんもミレイちゃんも」
ノアはお給金を再度私達の下に押してきた。
「みんな。よく聞いて欲しい。僕達は【自由の翼】の仲間なんだ。仲間というのはお互いが背中を合わせて生きていくものだと思う。みんなが言ってるように僕はご飯が作れる。でも僕だけじゃ無理なんだ。セレナが狩りをしてくれて、ミレイちゃんが皿を洗ってくれて、ライラさんがお客様を案内してくれて、ポンちゃんが店を守ってくれて、みんながいるから【自由の翼】なんだ。だから僕達は対等であり、一人もかけてはならない。このお給金はみんなが貰うべきお金。ちゃんと自分のために使って欲しいんだ」
そして、ノアは【簡易収納】から三つの袋を取り出した。
チェーンが付いている財布だ。
私には赤色の財布を、ミレイちゃんには水色の財布を、ライラさんには緑色の財布をくれた。
「これからお金がいっぱいになるから、ちゃんと財布を持っていないとね」
本当はお給金なんていらない。ノアの隣にいるだけで感謝だと思っていたけど、ノアの想いを受け止めるのも仲間として…………うん。仲間として必要なものだと思った。
「分かった。お給金、ちゃんと貰うね?」
「ああ。ぜひ貰ってくれ」
私が受け取ると、ライラさんも少し辛そうな顔でお給金と財布を受け取ってくれた。
「ノア? 一つ確認するけど、お給金は自由に使っていいんだよね?」
「もちろんだよ。それはもう僕のお金じゃないからね。僕の顔色なんて伺う必要もないし、みんなの頑張りに対する報酬だから」
「分かった」
そう話すと本当に嬉しそうに笑ってくれた。
いつだってそう。ノアは何もかもが私よりも上手くて、考え方も私では考えも付かないことを考えてくれる。
ほんの少しだけ、私がノアの隣に立っていいのかなと心配になった。
ノアに貰ってばかり…………私が彼にしてあげられることは何があるのか……その日から大きな悩みが増えた。
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