第19話 セレナの妙案
セレナが綺麗になった皿を手に取り、僕に見せつける。
「ノアッ!」
「お、おう…………き、綺麗だな」
「そうでしょう!?」
急にどうしたのだろうか?
ミレイちゃんの水魔法で皿を洗えるか聞いたセレナが、珍しくドヤ顔をする。
そういや、始めて両手いっぱいにコーンラビットを捕まえてきた日に、ドヤ顔をして「褒めて褒めて~」みたいなオーラを放っていた。
これは褒めておくべきなのか……? でもミレイちゃんを褒めるべきでは……?
ひとまず、そういうオーラを放っているので、セレナとミレイちゃんの頭を優しく撫でてあげる。
「偉い偉い~」
「違う~! そうじゃないの! 嬉しいけど……」
違った!? 僕が……セレナの気持ちを汲み取れなかっただと!? あれか!? 娘の反抗期に娘の気持ちを汲み取れないお父さん的な!?
「ごほん。いいですか? ノアくん!」
「は、はいっ」
セレナが教師風口調で話し始めた。
「いまのノアが一番心配しているのは、ミレイちゃん達がこの先どうやって生き抜くかでしょう? それに、これからも同じような苦境の人々にどう手を差し伸べていいのかってところではありませんか?」
「そ、そうですね……」
……まだ続けるのか?
「それには私にとても良い案があります……!」
「ど、どういう案なんですか! セレナ先生っ!」
「!? え、えっへん! それは――――――ノアがお店を開けばいいのです!」
えっ? お店?
「ノアがお店を開けば、美味しい焼肉をたくさん作れます! きっとお店は繫盛するだろうし、そうすれば多くの人々にご飯を振る舞うことも可能です! そこで足りない手をミレイちゃんとライラさんを雇えば簡単に解決できるんです! 食材はもちろん、私が獲ってくるし、店番は私達の守護神ポンちゃんがいるのです!」
セレナの迫真の提案に、勢いに呑まれて僕達は拍手をした。セレナって実はこういう演者みたいなことがしたかったりするのか……? ちょっと覚えておこう。
「セレナ先生? でもそれだと旅ができないので、ポンちゃんの故郷に行けませんけど……」
「えっ…………あっ…………」
驚いたセレナがその場で肩を落とした。
それにしてもまさかセレナから「お店をやれば解決」という提案があるとは思わなかった。確かに彼女の言う通り、僕がお店を開いてライラさんが店員を、ミレイちゃんが皿洗いを、店番をポンちゃんが、セレナが食材を獲ってくれば、材料費を全く掛けずに料理屋を開ける。
その提案自体はとても素敵な意見だと思う。
家を出てから何となく冒険者になるのかなと思っていた。レベルを上げて魔法使いや剣士などの才能アプリをインストールすれば、僕でもある程度冒険者になれると思う。
でも心のどこかでそれでいいのかと自問自答を繰り返していた。だからすぐに冒険者にならなかった。
生まれて異世界だと気づいた時、せっかくの異世界ならまだ見ぬ食材で美味しい料理を作って食べてみたいと思っていた。
最初こそ【異世界会話】をインストールしたけど、次は絶対に【一秒クッキング】をインストールしてやると意気込んでいた。だから十歳になった時、レベル2になって真っ先に【一秒クッキング】をインストールした。
その目標を久しぶりに思い出した。
「良い案だと思ったのに……」
「セレナ」
「……うん?」
「その考え、凄いいいかも」
「えっ?」
「ミレイちゃんの魔法と、ライラさんの店員としての経験、僕のスキルに、ポンちゃんとセレナがいれば――――お店。やれるかも知れない」
「えっ? で、でも、旅が…………」
「ああ。
僕の言葉に全員がポカーンとした。
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