第18話 セレナの覚悟(セレナ視点)

 ◇セレナ視点◇


「大丈夫。心配するな。セレナは僕が守る。だから気にすることはないよ。いつか君が――――誰かを好きになって、彼の元に行くまで僕が責任を持って君を守り抜くから」


 その言葉が何を意味するのかくらい、私でも分かった。私はノアの恋人にはなれないんだと。


 勇気を振り絞って「私が好きなのは貴方なの……」と口にしたけど、声に出せなかった。


 もしそれでも拒否されたら、どうしていいか分からないから。だからこの関係性を少しでも長く続けた方がいいと思ったから……。


 一晩、色んなことを考えた。私の存在意義。彼の存在意義。私の気持ち。彼の気持ち。今まで甘えていただけの自分を変えないといけないと思った。


 だから――――自分の気持ちを正直に言うことにした。ちゃんとノアに私を知ってもらうために、言いたいこと、やりたいこと、私を見て欲しいからちゃんと伝えようと決心した。




 次の日から私は彼に今思う気持ちを言葉にして伝えるようになった。


 やってもらって当然じゃない。だから何かをやってくれたらちゃんと「ありがとう」って伝える。そう思うと、ノアはいつも私が何かをやってあげると「ありがとう」と気持ちを伝えてくれた。


 私はその環境にただ甘えていただけだと知った。




 その日の帰り、ノアは二人の母娘を見守った。


 服装もボロボロでやせ細っている獣人族の母娘。でも街の端々には似た人達がいる。いつもならあまり気に留めずにいたのに、その母娘に注目していた。


 残飯を食べようとした母娘に向かって真っすぐ走る彼の背中を見て、やっぱりノアって腹を空かせた子供を見放せないんだと思った。


 ――――私の時もそうだったから。


 きっと彼なら二人を助けようとするだろうから、事前にコーンラビットを準備しておいた。


 やっぱりノアは二人を助ける決心をした。


 それから二人の事情を聞いて、話を聞く事にした。


 宿屋に戻り、二人にシャワーを浴びてもらい、ここまでの事情を聞いた。


 事情を知り、これからどうするべきか悩む彼の姿に、少しだけクスっと笑顔がこぼれてしまった。だって……一度助けたら、また見捨てることなんてできないと、頭の良いノアなら知っていたはずなのに、後先考えず走り抜ける彼が私達と変わらない普通の人だと思えた。


 そこで、私がずっと思っていたことを伝えようと思う。


「ねえ、ミレイちゃん。使える魔法ってどういう魔法なの?」


 私の質問にみんなが注目する。ノアも不思議そうな表情を浮かべていた。


「え、えっと……水魔法が得意です!」


「その水魔法で皿洗いはできる?」


「皿洗い?」


「は、はいっ! できると思います!」


「じゃあ、見せてくれないかな?」


「セレナ?」


「ノア。いいから」


「わ、分かった」


 制止しようとしたノアを止めて、私は一枚の皿を取り出して洗面台に持って行った。


 少し緊張した面持ちのミレイちゃんに「大丈夫。きっと上手くいくよ」と伝えると、顔色がよくなった。


「できるだけ弱くね~」


「はいっ! ――――水魔法!」


 ミレイちゃんの両手に魔法陣が現れて、水しぶきを放つ。少しずつ水しぶきが一本に集まっていく途中で魔法を止めたミレイちゃんは何かを考え始めた。


「セレナさん。皿を洗えば何でもいいんですよね?」


「そうよ。ミレイちゃんなりの方法でも構わないわ。楽な方でいいの」


「分かりました! それなら試したいことがあります!」


 そう話した彼女は、二度目の魔法を発動させる。皿を覆える水玉を発射すると、皿を飲み込んだ水玉は浮いたまま――――皿をぐるぐると回した。


「あ~! 洗濯タライの要領!」


 ノアが声を上げると、ミレイちゃんが笑顔を浮かべて「ですっ!」と答えた。


 これなら……私がノアのために考え付いたあれ・・を提案できると思う。

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