3枚目 ロッコと気取り屋の街


ロッコがアテナイからピラミッドを見るために船に乗ったところ、信じられない大波と巨大なのせいで、地図に載らない小さな島に一時上陸することになりました。


「なんでい!!がなんだってんでい!!」

「お客さん、ただのじゃねえんです、ものすごくんです」


ロッコは仕方なく船を降り、嵐が止むまでその島に滞在することにしました。

海は大荒れだというのに島はぴかぴかに晴れていて、船員たちの心をすこしだけ明るくしました。ロッコはきれいな景色を求めて人々に話しかけます。


「この島でいちばんきれいな景色を教えてくれ」

「そりゃあもちろんあたくしの屋敷ざんしょ!おーっほっほっほ!!」

「話になりゃあしねえ!」


ロッコは自分も変わり者なのに、変なヤツだなぁ、と別の人に声をかけました。


「きれいな景色だって!それはこの僕の家の庭に違いない!わーっはっは!!」

「けっ!!どいつもこいつも気取り屋ばっかりだ!!」

「そりゃあそうさ!ここは気取り屋の街!誰も彼もが気取り屋さ!!」


青年はフフンと笑い、肩をリズミカルに上げ下げしながら去っていきます。

ロッコはあっという間にこの街が大嫌いになりました。



結局ロッコは街に背を向け、嵐の海を描き始めます。

しかし筆は乗らず、ロッコはキャンバスをぐちゃぐちゃのめちゃめちゃのぐるぐるにしたあと一輪の花を上から描き、やがてかばんの中に放り込んでしまいました。


「けっ!けっ!嵐さえなけりゃあこんな街出ていくのによう!!」

「まったくもってその通りさ」

「誰だぁ!?」


ロッコはあたりを見回しますが、誰もいません。

絵の中のレオかと思いかばんからそうっと取り出しますが、ちがいます。

今日のレオは窓の向こうにいました。花を摘んでいるようです。

近頃は絵の中を動き回るだけでなく、話しかけてくるようにもなっていました。

じゃあ一体誰が声をかけたのかと思っていると、再び声が聞こえます。


「もし、すみません、もうすこしだけ視線を下の方へもらっても?」

「なんだぁ!?」


犬です。それも、キャンバスに黒い絵の具をいくつも垂らしたような模様の。


「喋る犬だ!」


ロッコはいままでたくさんの不思議を見てきましたが、喋る犬は初めてでした。

ダルメシアン、というのだったか、貴族がよく飼っている犬です。


「どうも……はぁ、嫌んなりますよね、この街」

「おう、この街に来てやっと話の合うやつを見つけた!」

「あなたは旅の人ですか?」

「そうさ!この嵐さえなけりゃあ今頃ピラミッドを見ていたはずなんだ!」

「いいなぁ、ぼくもこんな街からおさらばして、旅をしてみたい」


ダルメシアンはふう、とため息を吐き、遠くを見つめました。

ロッコは人間は大嫌いでしたが、動物は嫌いではなかったので、そのダルメシアンにカバンから取り出した肉を差し出して、こう言いました。


「一緒に行くか?」

「いいんですか!でも、ぼくのご主人は許さないでしょうね」

「盗んっじまえばいい!!おまえ、名前は?」

「ホワイトフット・コロラトゥーラ4世」

「変な名前だな……コロでどうだ!ロッコとコロ!いいだろ!」

「あなたはロッコというのですね!ぼくそれ気に入りました!」


コロはきゃんきゃんと吠えてロッコの周りをぐるぐると走ります。しっぽをぶんぶんと振り回しているので、よっぽど嬉しかったのでしょう。


「ひとりといっぴきの旅か!!キッキッキ!こりゃあいいや!!」


ロッコはすっかり楽しい気持ちになっています。

生活拠点である家の中、ベッドの上でコロとぐっすり眠りました。



「ロッコ!おきて!おきてくださいロッコ!」

「ん、もう朝か!」


ロッコはばちーんと起き上がり、コロのいる窓辺に駆け寄ります。

窓から入り込む陽の光と、穏やかな波の音が気持ちいいですね。


「晴れたか!!こりゃあいいや!!行こうぜコロ!!」

「はい!」


かばんの中にすべてをしまい、ひとりといっぴきは駆け出します。


「おや、ロッコさん!ちょうど起こしに行こうかと」

「こんないい天気の日に寝てられるか!!船を出せ!!」

「いま支度しているところですよ……そちらの犬は?」

「コロってんだ、新しい俺の相棒だ」

「ぼく、コロ。よろしく」

「喋った!!」


船員は驚いて海に落ちてしまいました。

ざぶざぶと岸へ上がる船員を見て、ロッコとコロはキッキッキ!と笑います。


「さあピラミッドへ出発だ」

「オスマン帝国の占領地ですね」

「フゥト・カァ・プタハだろうがアイギュプトスだろうがピラミッドはピラミッドなんだ!!」

「ロッコさんったらギリシャも全部アテナイって言うんだもんな……」

「ワンコロ、嫌になったら逃げだしていいんだからな」

「ぼく、あの街から逃げ出してロッコと旅するんだ!」


そうかそうか、と撫でられ、コロは満足そうに笑った。

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