彼女が言う僕へのいいわけ

一陽吉

一見、普通に見える子なんだけど

「いいわけさせてもらうと、あなたが好きだからです」


「は?」


 僕は思わず素っ頓狂な声をだした。


 だって、予想外の言葉だったからムリもないよ。


 まさかそんな理由で僕につきまとってたとは思わないんだから。


 僕も霧上きりじょうさんも高校一年生の普通科で、同じクラスだけど、いままで接点がなかった。


 部活だって、僕は武術部で詠春拳えいしゅんけんなんかをやってるけど、霧上さんは文術部で小説を書いてることからもそれが分かる。


 でも、僕は霧上さんをよく見かけてたんだ。


 練習が遅くなったときも、寄り道した日も、休日のお出かけも、家族旅行へ行っても、毎日、必ず見かけていた。


 まるで僕の行動を読んで観察するかのように霧上さんを見かけるから、放課後の誰もいなくなった教室で聞いてみたんだ。


 そしたら、その解答だった。


「でも、霧上さん。それだったら一言、声をかけてくれればよかったのに。僕はいろいろと悪い方向で考えてたよ」


「本当にごめんなさい。いざ声をかけようとしても、タイミングが分からなくて」


「気にしなくていいのに」


「ごめんなさい」


 ほっぺを赤くして顔をうつむかせる霧上さん。


 銀縁のメガネをかけて小柄なのに、より強調されたかんじになった。


「それでさ、どうやって僕のことを見つけてたの? 帰る時間だって違うし、家だって別の方向だもんね」


「それは……」


「なになに」


「私が……、忍者だからです」


「ええ!」


 驚いた。


 霧上さん、忍者だったんだ。


 それなら僕を追いかけられるのも納得。


 人は見かけによらないって言うけど、本当だね。


陽木ひのきさんだから言ったんです。これは秘密です」


「オーケー。僕は口が堅いからね。誰にも言わないよ」


「はい。お願いします」


 頭を下げて言う霧上さん。


「ふたりだけの秘密だね」


 僕が耳元で言うと、霧上さん、ボンて音が聞こえそうなくらい、さらに顔が赤くなった。


 ふふふ。


 かわいいね、霧上さん。


 僕も好きになっちゃいそうだよ。


 そうすると、女の子同士ってことになるんだけどね。

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彼女が言う僕へのいいわけ 一陽吉 @ninomae_youkich

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