第016話 学生の一年の真の始まりは4月の始業式

(side:日記)

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週の始まりにして、始業式。そして、入学式。気分一新となるだろう学生生活が始まる日。僕は高校2年の初登校となった。春休み中に誰とも会わなかった訳ではないが、新学期の始まりと思うと、少し変わったような気持ちになった。

恙無く、入学式や始業式が済んだので、各自教室に戻る。まぁ、最初の日なので、授業等はなくLHRだけで、各種配布物があるぐらいだった。

そんなわけで、LHRが終われば第二のイベントがやってくる。そう、午後からの部活紹介。僕の心配は当たらずに済んだ。久し振りに落ち着いた部活紹介だった。


(side:リアル)

普段よりも早く目覚める朝。思っていたよりも緊張しているのかもしれない。僕は気分転換のためにジョギングを始める。程よく身体を動かしたからか、落ち着いたようだ。僕は流した汗を綺麗にするためにシャワーを浴びる。そして、弁当の準備を終え、時間を見ると頃合いだった。僕が家を出ると、珍しく琥珀がいた。


「おはよう、琥珀」


「おはよーございます、キキ先輩」


僕と琥珀は一緒になって通学路を進む。いつのも場所には篤人がいた。


「おはよ、二人とも」


「うん、おはよう、篤人」


「おはよーございます、先輩」


僕たちが挨拶を交わして魔の信号の道を歩いていくが、僕の背中を襲う衝撃。くっついてくるのは誰だと思えば、夏奈だった。一緒に苦笑いをしている奏もいた。周囲から凄い視線があると言えばあるが、よくある事なので無視をする。


「おはよう、夏奈と奏。夏奈、唐突に飛び掛かられると危ないからソフトな感じにならない?」


「おはよ、ハルハルとあっくん、ハクちゃん。ハルハルの要求は飲めないかもね~いつもの事だし」


「おはようございます、琥珀ちゃん、先輩方。夏奈さん、私も先輩と話したいことがあるので、場所空けてももらっても?」


何やら盛り上がり始めたので、雑談を提案すると仕方がないとなった。話題はクラス替えだろう。僕としては篤人や夏奈とは同じクラスが良いなって思っている。二人も同じ意見らしくて良かった。特に夏奈は高等部で初めてクラスが分かれたので、微妙に寂しさがあった。琥珀は特に仲良くなった奏と同じクラスが良いらしく、奏も同意していた。色々話しながら進んでいき、無事に学校に着いた。僕達はクラス分けの案内掲示板まで到着して確認すると、1年ぶりに僕と篤人と夏奈の三人組が同じクラスとなった。他にも見知った面々が同じクラスだ。ちなみに、琥珀と奏は同じクラスになったようだ。

僕は他のクラスメイトよりも先に体育館へと向かう。まずは入学式から始まる。入学式に関しては生徒と保護者が入場している。僕が司会進行を行う。田中先輩が生徒会長として挨拶し、そのまま校長の話となる。流石に入学式から長話はしないらしく、ある程度話すと進行の僕にマイクが渡る。


「続いては、各クラスの担任の先生方からの挨拶となります」


そう言って、僕は1年の担任の先生方へマイクをパスする。無事に先生方の挨拶が終わり、進行のタイムテーブルは済んだので、最後に午後からは部活紹介の事を軽く触れて、入学式の終わりを告げる。


「ふぅ...」


「ご苦労、四月朔日 春希。君の進行は安定しているから落ち着いて見ていられる」


「ありがとうございます、田中先輩。先輩こそ、落ち着いた挨拶でしたよ。夏奈なら絶対に噛みますよ」


「ふっ...それは言えているかもしれないな」


「ちょ、ハルハルもたなゆー先輩も酷くないですかっ!?」


「だが、噛むだろう、河村 夏奈?」


「噛むと思いますけど!!」


そんな話をして和んでいると、猛烈に人の字を書いては飲み込む動作をする男子が一人。今期初めて生徒会に所属した生徒会会計の澤島 悠布(さわしま ゆう)。三年の先輩だ。


「澤島先輩、お茶飲みますか?」


僕が声をかけると、ビクッとしてキョロキョロと周りを見て、僕を見つめる。


「わちゃにゅきしゃん(四月朔日さん)、らいにょうぶでふ(大丈夫です)!!」


見ての通り、あがり症だ。生徒会選挙の時はあがり症が限界突破したのか普通に話せていた。しかし、限界突破しなければ、この通りである。今の三年の中では数学にとても強い先輩で八坂師匠と良い勝負をするぐらいに数字に強い先輩で、頼りにはなるが喋りでは心配の多い人でもある。


「澤島 悠布、多少は落ち着け。ここには生徒会の人間だけだぞ?」


「う、うん!!わきゃってりゅよ(分かってるよ)、ちゃにゃかしゃん(田中さん)!!」


僕たちは始業式の挨拶までにどうにかしないとと思いながら、相談するが良い案が出てこない。そうこうしているうちに、始業式のために在校生が入場していく。僕は後は任せて進行係としての役割を全うすると決める。田中先輩の挨拶から始まり、入学式の挨拶の短さから解放されたかのように長話を開始する校長と途中で切ろうとする教頭の戦いは生徒指導の早川先生の一人勝ちとなって、次の人へのバトンが移る。そう、澤島先輩だ。カチコチになって、こちらに向かっているが、夏奈が何かを耳打ちしたら、急に早歩きになった。


「えー...生徒会の会計、澤島です。まずは去年度の会計報告を再度紹介します」


そう言って、パソコンを弄ってプロジェクターに去年度の会計報告書を出す。それを左に置いて、右側には今年度の予算と使い道の予定などを提示する。


「今年度も去年度と同じぐらいの出費を予定していますので、おおよそではありますが、このようになると思います」


一息ついて続きの言葉を出す。


「ただ、今年度からはバレンタインデーとホワイトデーには放課後で学校主催のイベントを行うようになりますので、予定よりも金額は上がる可能性があることを留意していただきたいと思います。各種イベントについては、この後の生徒会書記の河村さんから話がありますので、詳しくはそちらで確認していただきたく思います。生徒会会計の澤島でした」


澤島先輩はその場で一礼して壇上から離れていった。そして、バトンタッチして夏奈の番となる。


「はい、書記の河村です。澤島先輩から言われたように、今年度の各種イベント予定についての発表をします」


そう言って、パソコンからスライドをプロジェクターに出して説明していく。

まず、5月の半ばで一学期の中間試験。

5月の終わりで各学年は別々の場所で二泊三日の課外活動がある。

二年はそれとは別に修学旅行があるが、年度によっては夏と冬のどちらかになるが、今年度は冬の修学旅行となる。ちなみに去年度は夏の修学旅行だった。

そして、6月で体育祭がある。雨なら雨天延期である。

7月の初めに一学期の期末試験があり、7月半ばから8月の終わりまで夏休みがある。

9月の末に文化祭が始まるので、早めの準備を希望するなら、夏休み中も準備可。

10月の半ばで二学期の中間試験。

10月で生徒会の前期が任期満了となるため、末までに生徒会選挙が行われる。

12月の半ばで二学期の期末試験。

12月の終業式の日はクリスマスパーティがある。準備そのものは11月から可だが、教室の使用制限あり。

2月14日に有志のバレンタインデーイベント。

2月末に三学期の期末試験がある。三年生は2月の最初に期末試験がある。

3月の初めに三年生の卒業式があるので、その日が卒パになる。1月から準備可。

3月の半ばで終業式。

3月14日に有志のホワイトデーイベント。


「以上が大まかな行事日程になります。詳細はLHRで、配布されますので、目を通してください」


プロジェクターからスライドを消して最後の報告をする。


「生徒会制作の『校長 vs 教頭』の最新作が完成しました。今日の放課後から販売開始となりますので、購入希望の方は申請お願いします。これを機に、昔の作品も希望する方はバックナンバーがありますので、そちらも是非検討してください。以上、生徒会書記、河村でした」


「はい、これにて、生徒会からの報告は以上となります。他に話す先生はおられますか?...大丈夫のようですので、これにて始業式を終わりとなります」


こうして、無事に始業式が終わった。


「そう言えば、夏奈は澤島先輩に何言ったの?」


夏奈に聞いたら、内緒と言われた。しかし、滑らかに話していた様子を見るに更なるプレッシャーを与えたのは想像できる。僕は余計なプレッシャーを与えないように夏奈に注意して澤島先輩に謝罪することで、水に流してもらうことが出来た。


放課後、いよいよ部活紹介の時間だ。生徒会と風紀委員が集合しているが、これははっちゃけた部活を止めるためである。

野球部はキャッチボールから始まり、バッテリーを組んで実際に投げ込みをする。

サッカー部は篤人が代表としてパフォーマンスを始める。リフティング十回して相手に空中のままパスを出し、一度も地面にボールが触れることなく五往復させて終わる。

バスケ部はダンクとスリーポイントシュートを体育館の両端のゴールを使って実演する。女子バスケと男子バスケの合同演出だ。

バレー部も男女合同でスパイクをそのまま上げてトスをしてスパイクをして、それをそのまま上げるを繰り返した。

徐々に終わりに向かう部活紹介。いよいよ、僕たちが危険視する文化系の部活の登場だ。

まず、最初は映画研究部と演劇部だ。今回は映像と実演のコラボレーションをする。

それを皮切りに、次々に紹介が続いていく。最後は漫画研究部。プロジェクターで紹介の自主漫画を映して、演劇部に頼んで朗読していく。なかなかに引き込まれる内容。そして、今年はどこの部活も問題行動がなく終わる。


「それでは、部活紹介は終わりです。明日から各部も活動し始めますので、各部の見学も可能ですので、どうぞよろしくお願いします」



生徒会や風紀委員も今日はここで解散となる。僕は夏奈と校門を出ようとすると篤人が待っていた。


「よっ、お疲れさん、二人とも」


「あっくん、ありがとーね」


「篤人もお疲れ様。パフォーマンス、意外と気を遣ったんじゃないの?」


僕がそう聞くと食い気味で頷いている。


「流石、春。分かってくれるか?三往復目辺りで集中力が切れかけたんだよなー...」


僕たちは新学期が始まっても変わらない関係のまま進むのだった。

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