第012話 卒業と祝いの12時間-2

(side:リアル)

昼休憩が終わると風紀委員が集まる生徒指導室へと向かう。今年度の卒パの見廻りの協力者は多い。事前通達があったのだが、小鳥遊先輩との見廻り。これに多くの生徒が食いついたのだ。もちろん、僕も一緒に見廻りへの希望を出した。僕の割当ては午後一番だ。僕は生徒会としての権限を利用して、とても良いと思う巡回ルートを決めた。


「小鳥遊先輩、改めて卒業おめでとうございます」


「ありがとうね、春さん」


「それでは、早速ですが、僕の考えた巡回ルートはこれです」


「これって中等部と高等部の実習棟?」


「そうですね。これらは参加式ですので、トラブルも多いと思います。この両者は場所も近く見廻りもやり易いなどのメリットもありますね」


小鳥遊先輩は僕の巡回ルートを眺めて頷く。


「うん、よく練られているね。本音は?」


「先輩も最後の卒パを参加もしながら楽しんでほしいので、食べ物系が多く並ぶ実習棟を選びました」


「よろしい。それじゃ、春さんの巡回ルートで行こうかな」


「はい!」


そうして、僕らは実習棟に向かう。途中、八坂師匠の所で問題は起きたが、卒パが止まるほどの物でもなく、毎年起こる軽いトラブルもまた卒パの華ではある。僕が準備期間中に良いと思った所を紹介しつつ楽しみながら見廻りをする。

そして、僕と小鳥遊先輩の見廻り時間が終わる。


「春さん。君が生徒会に参加して以降、雰囲気も良くなりました。君が参加する前の前期生徒会はなかなか書類仕事が片付かない事もありました。君が入り、仕事の効率化や優先度を考えてくれることで、私のやりたかった生徒会の活動も大きく出来るようにもなりました」


小鳥遊先輩は僕をじっと見る。


「君とは中等部の頃からの付き合いだったね。だから、君が高等部に上がってすぐに特別枠で誘って良かったよ。そして、後期からは正式な役員選挙で君が決まった。本当にありがとう。君が仲間で良かった」


「僕も先輩に会えて良かったですよ。振り回される時もありましたけど、それだけ楽しい日も増えましたし、新しい出会いも出来ました。もう会う頻度はかなり下がるとは思いますが、大学でも頑張ってください。応援しています」


僕と小鳥遊先輩は握手をして別れ、この余韻と共に軽くブラブラして過ごす。軽食を食べて卒パの雰囲気をベンチで眺めていると首筋に冷たい何かを当てられる。僕は驚いて振り返ると缶ジュースを持った篤人がいた。


「よっ。楽しい楽しい卒パで黄昏てどうしたよ?ほい、飲むか?」


そう言って、僕に缶ジュースを差し出す。


「ジュースありがと。今、小鳥遊先輩と別れたところ。良くしてくれた先輩だから色々と思い出していたよ」


「あー...俺も世話になったわ。春との出会いも先輩だったよな?」


「勉強がダメダメで逃げ出す篤人の補講の見張り役の先輩が僕に篤人の勉強の面倒を見ないかって持ち掛けられたのがそうだったね」


ここまでの付き合いになるとは思ってもいなかったと僕は当時を思い出す。


「あの時は他人に勉強を教えることで自身の理解度を深める...って説得を受けたなぁ...結局、今でも同じことをしているね」


「そうだな...」


僕と篤人の間に沈黙が降りる。しかし、それもすぐに終わる。


「まぁ、ここで眺めていても仕方がないし、一緒に行かないか?今日の生徒会としての見廻りは終わったんだろ?」


そう言って、篤人が僕に手を差し出す。


「そうだね、ボーッとしていても勿体ない...か」


その手を僕は掴み前へ進む。


「ま、これで湿っぽいのも終わり!篤人!これからジャンジャンと楽しむよ」


僕が笑顔で振り向くと篤人も良い笑顔をしていた。

僕らは映画研究部の自主映画を見たり、八坂師匠の所で第三部の調理訓練にも参加した。漫画研究部の漫画も気になったから向かったが、学内カップリング漫画という年齢性別制限無しの同人誌が売られていた。そして、何故か僕と篤人をモチーフにした分もあって抗議しようとすると、漫研部の部長である花園さんがニチャァとした笑顔でいた。どうやら、篤人がメイド喫茶のメイドになるのを逃げようとしたペナルティの巻き添えらしい。しかも、クラスの男子の大半が餌食になっていた。僕と篤人は二人揃って腐ってやがると言ってしまった。ちなみに、置いてある物はBL以外にもGLもあれば、NLもある。冒険物やスポーツ物などもあり幅広く置かれていたが、何故カップリング物を一番前にしていた理由を聞くと、趣味と言われた。来客者は全員が遠い目をしていたのは言うまでもなかった。


今日は二人で長く見て回った。そして、空は随分と前に暗くなっていた。僕と篤人は満足そうに頷き合う。


「...やっぱり、楽しかったなぁ...」


「あぁ、そうだな...」


僕たちは校舎の外に出て、校舎の明かりを見る。まだまだ賑やかな校内から熱気は消えない。まだまだ最後の1分まで楽しもうとしているかのような燃えている。しかし、それでも時間はやってくる。


『現時刻を持ちまして卒パを終了します。今、作業している分で出し物は終了してください』


田中先輩の声が学校中に聞こえる。あぁ、これで終わりだなと篤人と話していると別の声がした。


『卒パの準備をしてくれた在校生の皆、ありがとう』


今年度の卒業生にして、生徒会長の小鳥遊先輩だ。


『卒パを最後まで楽しめるように尽力してくださった先生方、ありがとうございます』


小鳥遊先輩の声が聞こえ始めてから熱が引いたかのように静かになる。


『今年度の卒業生は皆、楽しめたかな?私は楽しめたよ』


そして、何かを噛み締めるような雰囲気が出ている。


『そして、最後に、共にこの学校を過ごした卒業生・在校生・先生方...私は最高の六年間だった...だから、ありがとう。そして、またいつの日か会えることを祈るよ。だから、さよならは言わない。だから、こう言うよ...それじゃ、またいつか!』


そして、一息ついた音が聞こえる。


『今年度の後期生徒会長で卒業生代表、小鳥遊陽葵!!最高の思い出をありがとう!』


その言葉と共に学校中が沸いた。


「ズルいなぁ...小鳥遊先輩...」


僕の頬に熱い雫が流れ落ちる。


「確かに...な」


篤人の声も心なしか詰まっているように聞こえる。

こうして、僕の知る中で最高の生徒会長は卒業していった。それを見送る空は綺麗に晴れて星が瞬いていた。


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