第011話 卒業と祝いの12時間-1
(side:日記)
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今日は土曜日だが、朝早くから学校に向かった。小鳥遊先輩を含む先輩方の卒業の日だ。6日の時のリハでもそうだったが、泣きそうになった。
卒業式が終わり、卒パの開始が宣言された。午前中の僕はメイド喫茶の店員だ。...一部の生徒が指名制のように呼ばれ始めた。僕や篤人も呼ばれるので、珍しい格好に惹かれてだろうと思いたかった。
昼休憩後は生徒会側の見廻りとなる。今年の生徒会側は楽だ。何故なら、小鳥遊先輩が見廻り側を有志で求めたからだ。何か、有志の生徒とペアの見廻りデートのようなものに見えたのは僕だけだと思いたい。まぁ、僕もお世話になった先輩と最後に二人っきりで話す良い機会となったのは事実だ。本当にお世話になったなぁ...
生徒会の見廻りを終えたので、一生徒として卒パを楽しむ時間となった。僕は最初にクラスの出店に顔を出すと歓迎された。ちょっとした間食を楽しんでいると篤人と合流した。中等部の頃と同じように遊んだ。
そして、卒パは熱気は時間と共に最高潮となり、終わりを迎えた。終了案内の放送は小鳥遊先輩が務めていた。卒業式は大丈夫だったのに、本当に最後だと分かる挨拶に僕は泣いてしまった。一人だとキツかったと思うが、篤人がいてくれたのは助かったと思ってしまった。
今日も色々あった。しかし、本当に良い1日となった。僕らの学校生活はまだまだ続くが、先輩達の旅立ちを祈って今日は終わり。
(side:リアル)
今日、三年の先輩方は卒業する日。卒業式の進行は生徒会が行う。念入りに最終確認を行い、緊急時のマニュアルチェックも忘れない。今年度後期の生徒会メンバーが進行。来年度前期の生徒会メンバーが記録を行う。今年度と来年度重複する人は今年度を優先となるが。そして、とうとう時間となる。卒業生が入場して、本来ならば生徒会長の挨拶から始まるが、当人が卒業生のために副会長が行うこととなる。
「ただいまより、32年度卒業式を始めます」
一息ついた田中先輩は進行を続ける。
「卒業証書の授与」
「小鳥遊陽葵殿」
小鳥遊先輩は校長のもとに向かい卒業生代表として卒業証書を受け取る。卒業証書授与式が終わると校長のありがたい話から地元の名士のありがたい話まで長々と行われる。
そして、在学生代表として、田中先輩が卒業生への送辞が。それに続いて、卒業生代表として小鳥遊先輩が答辞を。送辞と答辞については、校内全域に聴こえるようにしている。他の在学生がどうかは分からない。しかし、僕は寂しさを感じた。僕の隣で夏奈が大泣きしているから泣きそうになった涙は引っ込んでしまったが。こうして、32年度の卒業式が終わった。卒業生の先輩方には今しばらく待機してもらい、来場のお客さんの退出から始まった。そして、来場のお客さんが全員出たところで、小鳥遊先輩が前へ出る。
「さて、みんな。思う存分に泣きましたか?私は泣きました。でも、ここからはみんなで笑顔で行きましょう。だって、32年度に卒業する私たちを祝う祭りが始まるのだから。さぁ、生徒会長としての最後の仕事を宣言します。32年度卒業パーティーを10時から開催します!それじゃ、在校生の皆、楽しみにしているね!」
卒業式を行った体育館からも、離れた校舎からも歓声の声が鳴り響く。この学校の最後にして最大に盛り上がる祭典...卒パの始まりだ。
僕の卒パの午前中はクラス出店の手伝いから始まる。僕も含むクラスメイト全員がメイド姿だ。約一名涙を流し握りこぶしを作り感無量と言わんばかりの様相を見せているが、概ね全員が緊張している。篤人が僕の隣に来ているが、緊張のあまりか口数が減っているようだ。僕は篤人の脇腹を摘まむとギョッとした様子を見せた。僕は篤人の様子に思わず笑ってしまうが、篤人はムッとした表情となっている。
「篤人、緊張しすぎじゃない?お客さん来たら、暴発するんじゃないの?」
僕がからかうと篤人は僕の髪をくしゃくしゃしてくる。
「あー!!髪のセット面倒なのにー...」
「ふん、普段の方がお前に合っているわ」
「へぇ...そうなんだ。早川さんはどう思う?」
僕は近くにいた早川さんに聞いてみる。
「あー...た、確かに、メイド服に合わせようとしているのは分かるけど、いつもの方が似合っている...かな?」
その意見を聞いて、周囲を見ると首を縦に振る人の方が多いようだ。
「む...普段し慣れない事をやってみたけど、必要なかったか...」
「ま、いつも通りが良いって事だよ」
いつも通りの会話に戻り、周りの空気も落ち着いてきたようだ。そして、僕と篤人がクラスメイトの前に立ち、最初の挨拶をする。
「あー...時間的には後少しで卒パの開催だ。一応、在校生も来るが、一番の客は卒業生ご一行様だ。存分にもてなしてやれ」
篤人がそう発破をかけるとクラスメイトは歓声を上げる。
「篤人の言う通り、存分にもてなすのは良いけど、トラブル等には適宜対応するようにお願いね。緊急時マニュアルを読んでない人はちゃんと読んでよ」
僕と篤人は声を合わせる。
「「1-A、メイド喫茶、頑張るぞ!!」」
「「「「おぉーーー!!」」」」
そして、時が来る。
『あー...風紀委員顧問の早川だ。午前10時になったから、卒パの開始を宣言する。諸君、怪我なく楽しむように。それと何かあれば必ず教師や風紀委員に、生徒会役員にも声をかけなさい。以上だ』
『あ、早川先生、開始宣言は私の台詞ですよ!えーっと、早川先生が宣言しましたが、改めて生徒会長、小鳥遊陽葵より、卒業パーティの開催を宣言します。皆、よろしくねー!』
こうして、校内放送で早川先生と小鳥遊先輩によって卒パの開始が宣言された。
あれからしばらく時間は経つ。僕たちのクラスのメイド喫茶は...
「お帰りなさいませ、お嬢様」
大盛況だ。出し物宣伝部隊も同じメイド服だが、どうやら思っていた以上に評判が良いみたいだ。クラスの男子をからかいに来る者。クラスの女子に鼻の下を伸ばしに来る者。様々だ。一部の女子はメイド服体験をしに来る者もいる。そして、特別価格でメイドさんとのツーショットもある。
「くっ...何で俺が...」
「おーい、篤人!二人でハート作るポーズでツーショットを頼むわ」
篤人はサッカー部の先輩達に引っ張りだことなっていた。僕は机の片付けをしようとしたが、顔馴染みの先代家庭科部の部長に携帯片手に呼び止められた。
「四月朔日、ツーショットを頼む」
「了解です。ポーズは何にします?」
「ピースで頼む」
「ぶい」
そして、シャッター音。
「オッケーですか?」
「おう、さんきゅー。これ、お代な」
そう言って、ツーショット料金を受け取る。僕は続きをしようとするが...
「わ、四月朔日先輩!写真良いですか?」
中等部の卒業生の女子がやってきた。
「大丈夫ですよ。カメラは携帯で?」
「は、はい!」
「ポーズは何にしたいかな?」
「二人でハートのポーズを!」
そうして、二人でハートを作ったツーショット写真を撮る。
「これで大丈夫?」
「はい、ありがとうございます!」
そう言って、お代を置いて去っていった。これは中々に大変だと思いつつ昼休憩まで頑張るのだった。
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