第010話 好敵手と二人きりの頂上決戦

(side:日記)

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今日は全ての試験結果が出る日だ。今度こそ、学年一位の座を勝ち越す。

そうは思ったものの、勝ち越すことは出来なかった。非常に悔しかったが、テストの結果自体には不満はないので、良しとする。

放課後は土曜の卒パの最終調整となる。土曜まではクラス出店も生徒会活動もあるので、忙しくなるはずだ。


(side:リアル)

昨日と一昨日は先生の試験の採点のために学校が休みだったので、久し振りの登校。まぁ、加藤さんとオンライン対戦したり、篤人とスイーツ巡りと楽しんだのは良い思い出となった。僕は試験はないものの、その結果で学年一位を取って勝ち越したいので気合いをいれる。その瞬間を篤人に見られて少し恥ずかしかったが。


一時間目はLHRとなり、試験結果の返却となる。ちなみに、その時間と同じくして、各学年の試験の総合得点の上位50名の名前が職員室前に掲示される。まぁ、順位だけを知りたいなら、返却される試験結果と一緒に全教科と総合得点の学年順位の書かれた紙が一緒に渡されるので、それで十分と言えなくもない。


「よ、春!結果はどうだった?」


篤人が近付いてくると試験結果を見ようとしてくる。


「取り敢えずは、学年一位は死守したよ」


今回の僕の試験は全教科パーフェクト。少なくとも敗北はない。そして、近付いてくる影。


「流石、四月朔日殿。今度こそはと思っていたのですが...」


そう言って、全教科パーフェクトで学年一位と書かれた紙を見せてくる。彼女こそが勝ち越せない相手、花園 奏。中等部から一進一退な唯一の相手だ。


「仲本殿はどうでしたかな?今回の古文は嫌らしい問題が出ていましたが」


中等部の頃の散々な結果と高等部からの順調な結果を知っている彼女は篤人に確認する。


「あぁ...そこがダメだった。だが、ようやく大台の二十位内には入った!」


篤人の中等部の最初の頃の残念さとそこからの頑張り、高等部から結果が着いてくるようになった姿を知るクラスメイト達は拍手を以て祝福する。


「仲本殿もようやく同じ土俵に入ってこられましたな。めでたいめでたい」


「いやいや...春と花園と戦えるやつっていないだろ?」


そんなことはないと思っていると、他のクラスメイト達は残念そうな目で僕と花園さんを見てくる。


「頑張れば出来る、そう信じよう!」


「ですな。まるで人外戦争のように扱われたくない」


「まぁ、出来る人間には余裕と言うことだろうよ。三位の結果ってどうだった?」


篤人が僕たちの言葉をスルーして外から戻ってきた人に確認する。


「いつもの人が五十五点差だった」


どうやら、風紀委員会の副委員長が三位だったらしい。


「ほら見ろ。各教科10点は外さない奴でもこれだ。お前ら二人は筆記試験の頂上決戦なんだよ...」


僕と花園さんは揃って外を見る。お互い、趣味人なのは知っているので、ただただ頑張れば良いのにとしか思えないのだった。


今日は試験の返却のみなので、一時間目で終了となる。つまりは放課後だ。まずは、クラス出店の最終準備となる。僕たちが使うのは高等部の実習棟にある第三調理室と隣接する学習教室だ。とは言っても、第三調理室は他の出店のクラスも使うので、手を加えることを禁止されている。そんなわけで、学習教室を食事所として準備している。花園さんの指示のもと、リアルなメイド喫茶風に準備していく。そして、僕たち全員メイド服に着替えさせられる。どうやら、最終調整をするようだ。何人かは調整するようだが、ほとんど全員問題はないようだ。数名は壊したり汚したりしたら逃げられるかもしれないと期待したが、超ミニスカメイドになるかと花園さんに聞かれて、撃沈した。なお、僕の知らないところで、逃げようとした別の数名は裏でお話をしたらしく、大人しくメイドをすると言っていた。


昼休憩の後は生徒会側の手伝いとなる。最初は土曜日の卒業式の進行確認となる。小鳥遊先輩は卒業生代表なため、生徒会の挨拶は田中先輩となる。リハーサル段階だが、小鳥遊先輩が卒業すると思うと非常に残念だと思ってしまう。次期生徒会メンバーとして席に座る夏奈が既に泣いていた。僕は僕で小鳥遊先輩にはお世話になったので、泣きそうにはなっている。リハ無しで本番出席なら、本当に泣いたのかもしれない。

卒業式のリハーサルが終わり、卒パの出し物の最終見回りの時間となった。僕は夏奈とコンビと何チームかで高等部の実習棟の見回りを行う。僕らが第一調理室のある階に差し掛かった時、何やら声が聞こえてきた。


「もう嫌!お願い、もう止めて!!」


女性の悲鳴とも聞こえる声だ。僕と夏奈は走り出す。


「止めろ、止めてくれ!!これ以上、彼女を傷つけないでくれ!!」


「はっ!!お前らが望んだことだろうがよ!!大体がそんなこと言ったってよォ...口は正直だよなァ?」


「いや...嫌ぁぁ...!!」


そこは家庭科部の出店場所だった。僕は察したが、夏奈は顔を青くしている。


「と、止めないと!!生徒会で...す?」


そう言って、扉を開けると女子生徒は崩れ落ちたように座っており、男子生徒は何かを一心不乱に食べていた。なお、男子生徒の目の前には空となった皿と食べ掛けのチャーハンの皿があった。そして、金髪色黒の筋肉質な男が中華鍋を振るっていた。夏奈は呆然としていたが、僕は金髪の男に声をかける。


「八坂師匠、お邪魔します」


「よォ、ハルキ!!ちったァ待ってくれねェか?料理指導の日だからよォ!」


金髪の男...僕が八坂師匠と呼んだのは、家庭科部の部長で二年の八坂 衛(やさか まもる)先輩だ。金髪色黒で筋肉質な見た目で勘違いされやすいが、気さくな先輩だ。そして、中等部の頃からお世話になっている料理の師匠だ。第一の師匠が木島彼方さんとするなら、第二の師匠がこの人だ。ちなみに、大きく言えないが、料理の上手さは八坂師匠の方が上だと僕は思っている。今年に入ってからはまだだが、時間がある日は料理の指導を受けることも多い。


「...ハルハル、この人は?」


「あれ、夏奈は知らなかった?」


僕がそう聞くと首を縦に振る。八坂師匠は割りと有名なのになっと思っていたが、有名と言われている部分が家庭科部と関係ないことを思い出す。


「八坂師匠は、勉強の出来るインテリヤンキーって呼ばれているよ。ほら、二年の学年一位って、この人だよ」


僕がそう言うと二度見する夏奈。


「おォい、ハルキィ!!聞こえてるぞォ!!」


「あははは...すみません」


二皿目完食目前の男子生徒と崩れ落ちている女子生徒に自身の作ったチャーハンを渡す八坂師匠。男子生徒は二皿目を完食して、三皿目に手を付ける。


「ほら、食えよ。それで納得するなら黙って従えよ」


涙ながらに八坂師匠を睨む女子生徒。しかし、目の前のチャーハンには抗えず、スプーンが止まらない。


「悔しい...悔しいのに、手が止まらない...よぉ...」


そんなやり取りを見ているとドタバタと後ろから大きな足音が聞こえた。どうやら、見回りの他チームが来たようだ。しかし、第一調理室の状況を見て、いつもの事なので問題無しと判断して、通報したらしい生徒に事情説明をするため出ていった。


「ハルキ、元気にしてたか?」


「はい、八坂師匠」


「ま、元気じゃなきゃ学年一位は取れねェか。そっちは...ハルキと仲の良い奴だな。こうして顔を合わせるのは初だろうから挨拶しておくか。俺は八坂衛だ。よろしくな」


「あ、はい。河村夏奈です、よろしくお願いします。ところで、どういう状況なのですか?」


「卒パの準備期間だろうが、料理教室が俺のライフワークなんだがよォ...そこのカップルに美味い家でも作れるチャーハンってのをレクチャーしようとしたが、チャーハンは炒めれば誰でも作れるって、そこの女が宣ったから、チャーハン対決して完膚なき敗北ってのを味合わせてやった」


そして、カップルの方に目をやると、満足そうな笑みを浮かべる男子生徒と、涙を流しながら食べる女子生徒。女子生徒の作ったチャーハンはまだ残っている。


「家庭科部のところから聞こえた段階で問題ないとは思いましたが、忙しそうですね」


「そうだな。だが、弟子のお前と会うのは久し振りだからよォ...ちゃんとまた顔を出せよ?」


「そうですね。次は夏奈も連れて料理教室に参加させてもらいますね」


「あ、よろしくお願いします!」


そう言って、僕と夏奈は第一調理室から出ていく。すると軍隊よろしくな感じのカップルの声が聞こえた気がした。


「何か軍隊でしか聞かないようなのが聞こえたけど?」


「八坂師匠はやる前から文句を言う人が嫌いだから、そう言う人にはスパルタでやるから、料理教室の参加者は軍人と一般人が入り交じるカオスな事が多いよ。さっきのカップルなら、美味しい家でも作れるチャーハンだって言っているのに、誰でも作れるだなんて言えば、教える側は怒るよ。特にそう言う人が嫌いだから、厳しいんだよね」


僕はクスッと笑う。


「だって、中等部の頃の篤人はカレーなんて誰でも作れるとか言って、味のレベルに膝を付いて、今でも八坂師匠に会うと軍人口調になるからね」


僕がそう言うと夏奈は興味深そうにこちらを見てくる。


「何それ、私も見てみたい!」


「それじゃ、次来るときは篤人も連れていこっか...」


そう言って、僕たちは見回りの続きをやっていくのだった。

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