第007話 楽しみと虚無感と
(side:日記)
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今日は朝から勉強会。いつもよりも早く起きた僕は昼御飯...今回はカレーにするので、仕込みを始める。今日は僕を含めて四人なのでいつもよりも多く準備する。余ったら、それはそれで二日目のカレーは美味いので有だ。
朝9時になるとインターホンが鳴る。出ると三名の客人だ。僕は部屋に案内すると加藤さんは部屋にあるゲームに目を輝かす。ゲームは休憩時間にと伝えると勉強へのモチベーションが上がった様子だった。
午前の部が終わって、我ながら仕込みバッチリなカレーを皆に出すと思った以上に減ってしまった。二日目のカレーの余裕はあっても、カレードリアやカレーうどんにするには心許ないかもしれない。でも、好評だったと思うと悪くはない。むしろ、嬉しいぐらいだ。
午後の部では15時になると篤人が持ってきたケーキを食べた。そのついでに、休憩時間ということでゲーム大会をする。皆の帰る時間は19時。そんなわけで、一時間ほど、超乱闘を楽しんだ。そんな楽しんだ余韻で残りの勉強を乗り越えたようだった。ちなみに明日はどうするか聞くと皆参加するそうだ。勉強会が終わった僕は明日の昼御飯の買い物に行った。それと飛び入り参加一名の追加が決定した。
(side:リアル)
楽しみすぎて寝れないかなとか思っていたが、すんなりと寝られたので、スッキリとした目覚めだ。僕は朝御飯を簡単に作って食べると、昼御飯と晩御飯の仕込みを開始する。昼はカレーだ。普段は使わない大きめの圧力鍋が大活躍だ。僕は二日目のカレーが大好きだし、その後のアレンジも大好きだ。テスト期間中はほとんどが午前終了なのでカレー週間になるだろう。気分よく作り、大方終わると9時直前だ。机の準備が終わると同時にインターホンが、鳴る。どうやら呼んでいた三人が来たようだ。出迎えると一人が飛び付いてくる。
「キキ先輩、おはよーございます!」
彼女の名前は木島 琥珀(きじま こはく)。加藤さんと同じく中等部二年で、現在はあまり学校に来ていない。来ていないとは言っても、不登校という意味ではなく、俳優活動をしているからだ。学校側からは赤点を取らないことを条件に入学を認められている。何故僕がそこまで知っているかと言えば、お隣さんで、小学生時代からの顔馴染みだ。ちなみに、どうしてキキ先輩かと言えば、わたぬ『き』はる『き』からキキ先輩らしい。
そんな琥珀に対して目を丸くしているのは加藤さんだ。琥珀を同級生としては知っていても、交流関係までは知らない人の方が多い。昔はお泊まりし合った仲だと聞いて驚いているようだ。
中等部時代からの友人の篤人は見慣れた様子で、三時のおやつにケーキを持ってきていた。僕はそれを受け取り、家の中に案内する。勉強のための部屋に送り、ケーキを冷蔵庫に入れたのちに、戻ると加藤さんは目を輝かして部屋にあるゲームに心を奪われている。
「加藤さん、篤人が三時のおやつを買ってきているから、その時間を休憩にしてゲームやろうか?」
そういうと、そそくさと机の前に座る。篤人は苦笑いをし、琥珀は興味深そうに加藤さんを見ている。琥珀からしたら、同級生と話す機会は少ないのだろう。これを機に、話せる同級生を作ってもらいたいものだ。
こうして始まった勉強会。まずは簡単に学校から配られる参考書問題から。どこが苦手で得意かの判別から行う。今回のテスト範囲は年明けからなので、まだ狭い方だ。僕の傾向は数学が少し悪い感じだ。それ以外は特に問題はなく、篤人は英語と国語を重点的にする必要があるようだ。琥珀については家での学習は上手く行っているようで基本的な部分は問題ないようだが、応用問題で躓くらしい。そこら辺は繰り返しが必要だろう。問題は加藤さんだ。おおよその平均は四割。赤点になるかならないかの境目らしい。実態を聞いてみると、一年の頃から前回の試験までも似たようなものらしい。特に数学と英語、理科が苦手なのようだ。そんなわけで、僕は中学の頃に作った篤人のための参考資料を持ってきた。篤人は恥ずかしそうに顔を赤くしているが、後輩たちのためだから、諦めて欲しい。
「うわ、何ですか、これ。四月朔日先輩、これ一人で作ったのですか?」
「キキ先輩、流石ですよね~」
後輩二人組は参考書を前にきゃっきゃとはしゃいでいる。僕は顔を赤くする篤人の肩を叩く。
「まぁ、中等部の頃に比べたら、今の出来ないのは可愛いぐらいなんだから、落ち込まなくても良くない?」
「ダメな頃を見られている気がして恥ずかしいんだよ...」
「まぁ、今のペースを今後も続けていけば、問題ないよ」
「...おう、春も頑張れよ」
「そうだね、僕は僕で勝ち越したい相手がいるから頑張らないとね...」
僕たちはそう話していると琥珀が驚いた顔でこちらを見てくる。
「え、キキ先輩って学年一位じゃないの!?小学生の頃って勉強で常勝の春って呼ばれてなかった!?」
琥珀の言葉に加藤さんと初耳と言わんばかりの顔で篤人が見てくる。
「ま、小学生の頃のテストの結果は平均したら98点とかで一番悪い点数が97点とかだから、確かにそう呼ばれていたね」
今度は僕が恥ずかしい気持ちになる。
「まぁ、中学一発目のテストの平均は99点で二位だったから、思いっきりショックだったね。次は平均100点で単独一位だったけど」
井の中の蛙、大海を知らず。僕があまりにも狭い世界を生きていたと実感した瞬間だった。
「まぁ、僕の話はこれぐらいで良いんじゃないかな?それじゃ、良い時間になったし、昼御飯の最後の準備をするから、後は頑張ってね」
そう言って、僕はキッチンに行く。そして、諸々の準備をしたら12時の五分前。僕は三人を呼びに行くと真面目に集中している。
「三人とも、ご飯出来たから、こっちに来て」
すると、三人は思いっきりこちらを見て目を輝かす。
「ほら、こっちだよ」
まるで母鳥に付いてくる雛のようだ。案内すると後ろから空腹の音がする。
「カレーだから、食欲をそそるよね。ほら、席に着いて」
そう言って、四人分のカレーを用意して全員席に着く。
「それじゃ、食べようか。お代わりはあるから、気にせずに食べてよ。それじゃ、いただきます」
「「「いただきます!」」」
食べ始めると静かになりスプーンが進む。一番は篤人が食べ終わり、お代わりに向かう。結局、篤人は四皿分で僕を含む残り三人は二皿分となった。僕たち三人はよく食べるよなっと篤人を見る。
「春の料理は美味いから仕方がないだろ...」
僕はその言葉を聞くと結構嬉しかった。他の二人も美味しかったと言ってくれるので、作った甲斐があったと言うものだ。
満腹になったので、少し休むついでに皿洗いをしようとすると篤人が手伝ってくれた。
「篤人、ありがと」
僕がそう言うと、
「春が作ってくれたんだし、これぐらいはするよ」
そう答えた。後輩二人は興味津々にこちらを見てくるが、手伝うかと聞くと、そそくさと同級生トークに戻っていった。まぁ、二人でキッチンは狭くなるので、これ以上増えても困るが。
洗い物が終わった僕たちを後輩たちが迎える。
「それじゃ、これから勉強に戻ろうか」
僕が勉強部屋に誘うと意外とすぐに着いてきた。どうやら、三時のおやつを楽しむために頑張るとのことらしい。後輩たちは中等部の頃の篤人専用参考資料で勉強を開始した。僕は篤人が苦手な部分を教えることで、自身の理解度を上げることにする。僕自身が上手く説明できないなら、篤人と一緒に考えるという形を取っている。そんな風に勉強をしていると加藤さんが立ち上がる。
「先輩先輩、3時ですよー!」
僕が時計を見ると丁度3時を示していた。
「それじゃ、おやつタイムとしようか?」
後輩二人はやったーと喜んでいる。篤人は後輩二人を微笑ましく見ている。
「ケーキを取ってくるから、三人ともやりたいゲームを決めててね!」
僕はケーキを取り出すと、食器類を持って戻る。どうやら、二つにまで絞ったようだが、そこから話が進まないらしい。
「そんなに迷うなら、明日も勉強会する?」
そんな言葉に、それだと反応する。
「それじゃ、明日もするから早めに決めようか?」
というわけで、今日は超乱闘に決まった。僕と同じでゲーム好きなので加藤さんが強い。篤人も琥珀も僕と一緒にするので、それなりにやり込んでいるが、僕とほとんど同じぐらい強い。レートを聞くと、ほぼ同等。篤人と琥珀は勝てないので、チーム戦を希望したので、両者同級生コンビと言うことで、戦うことになった。事前に話していたが、16時になったので、終了。ここから勉強会のラストスパートだ。昼からと同じような勉強方法をし、時折後輩コンビが分からないことがあれば聞くというのを繰り返し、19時となり、今日はお開きだ。
琥珀は隣の家。加藤さんは意外と近く。篤人とはスーパーへ買い出しのために途中まで一緒に歩く。
「春、今日は楽しかった」
「それは良かったよ」
そう言って、スーパーの前で別れる。僕は明日の昼御飯を何にしようか考えつつスーパーで買い物を進める。その途中で電話が掛かってきた。どうやら、迷える子羊がまた一人、勉強部屋に来ることが決定した。そして、眠る前、誰かを呼んだ日にはいつも感じる...この静かな家に寂しさを。
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