第006話 寒さと熱気と紅葉柄
(side:日記)
2/22
昨日は夕方から一気に冷え込んでいたのだが、外を見ると雪が降っていた。こういう時、電車通学の日とは大変だろうと思う。
放課後、クラスの卒パ準備を一時間ほど手伝って終了だった。学校から出る前にトラブルがあったけど、大したことはなかった。玄関から加藤さんが合流したので、ゲームの話で盛り上がったが、テストの事が話題になると目をそらしてきたので、試験前のブートキャンプをすることにする。最近は篤人の勉強は順調なので見なくなっていたが、抜き打ちテストでもしてやろうと誓って今日は寝る。明日は土曜。勉強会は朝からやると決定したので、昼御飯は何を作ろうか決めないと。
(side:リアル)
今日、あまりの寒さに目が覚める。外を見ると白い結晶が降っていた。昨日の天気予報では晴れるとやっていたのだが、外れたということだ。仕方がないので、今日は洗濯物は部屋干しにする。いつも通り、篤人と合流すると妙にテンションが上がっていた。話していても空回りしている感じだったが、中等部の時に雪が積もった日も変なテンションをしていたので、問題ないだろう。徐々に落ち着いて話していると加藤さんが走り去っていった。
「あれって加藤だよな?遮二無二で走っていったけどどうしたんだ?」
僕は軽く首をかしげて思い出す。
「七連続の魔の信号効果を狙っているんじゃないの?昨日、メッセージでガチャと一番くじの結果を教えたし」
そう答えると、少し狼狽えた様子を見せたが、いつも通りの様子に戻った。
「あれは確かに驚くほどの幸運を与えてくれるよな...昨日、激しく実感したわ」
「ホント、それ。願掛けする人の本気度を理解したよ。僕もついつい信号の方に意識が持っていかれる」
「みーとぅー!!」
そう言って、笑い合っていると目の前にはラストの信号を前に呆然と立ち止まる加藤さんの姿。
「...敗北者?」
「はぁはぁ...敗北者?」
僕の呟きに反応したのか加藤さんはグルっと首を回してこちらを見てくる。
「取り消せよ、今の言葉!!」
その言葉に篤人が笑う。
「乗るな加藤、戻れ!」
そして、僕が次の言葉を言おうとしたその時...
「あ、信号が変わった」
学校手前の信号が青になった。僕たち三人は顔を見合わせて茶番劇を諦めることにする。
「これは乗れませんね。普通に行きましょうか、先輩方」
そう言って、進み始める。
「やっぱり、最終関門はここだよなー...」
僕の言葉に二人ともが頷く。
「でも、意外と三番目も厳しくないか?加藤がギリギリで追い抜いたのってそこだろ?」
「え、先輩方ってそこに居てたのですか!?それは気づきませんでしたよ...」
「ま、仕方がないだろ。でも、気を付けて走れよ。信号無視する車だっているんだからさ」
篤人がそう警告すると確かに、と反省している。
「やっぱり、たまたまの方が御利益ありそうじゃない?こう...ボックスガチャでたまたま一回で当てるのと全部空にして当てるのなら、たまたま一回の方がラッキー感強くない?」
すると加藤さんは何かに納得した様子で手を叩く。
「その視点はなかったです!願掛けのためなら分かりますが、くじ運求めてだと安っぽくなっちゃいますね。本気で願う時にチャレンジすることにします!まぁ、たまたま通れたら、ガチャとかにチャレンジしますけどね」
僕たちはそんな話をして玄関まで着くと、そこで別れる。
それから時間が経ち、放課後。今日は卒パに向けての最終調整一歩前。月曜から今年度最後のテストなので、卒パの作業も大きな物は今日で終わりとなる。準備自体は2月最初からやっていたので順調だ。我らがクラスはメイド喫茶。男子も女子も全員がメイドとなる。そう、男子もだ。流石に、メイド服がないと抵抗していたが花園さんは男子用メイド服を揃えていた。花園さんの本気度に度肝を抜かれた出し物選びだったと1月のLHRで思ってしまった。一時間ほどの準備が終わり、大きな準備は終わる。後は出す料理の練習やメイド服の調整ぐらいとなる。篤人と一緒に玄関まで行くと知っている声で揉め事が起きているようだ。僕たちは近付くと加藤さんと中等部の男子がいた。
「ほら、こんなところで揉めていたら邪魔でしょ。人通りの少ない場所でしたら?」
僕がそう声をかけると男子生徒は驚いた様子で僕を見て、加藤さんは僕の後ろに隠れる。
「人見知りみたいなことしてどうしたよ?」
篤人が割と失礼なことを加藤さんに言っていると
「先輩方には関係ありません!!ボクと奏の問題だ!!」
話を聞くと浮気男らしい。それを聞くと一気に面倒くさくなる。
「あぁ、昨日、加藤が言っていた浮気男か...」
篤人の言葉に男子生徒は反応を示す。
「いや、別に浮気なんて...」
「それじゃ、中等部三年の先輩と腕を組んでマンションから出てきて何だって言うのよ?昨日は一緒に行く約束をしていたのに、直前で無理とか言ってきたと思ったら、目の前のマンションから出てきて浮気じゃないなら何だって言うの?タクの住んでるマンションってそこでもないし、親戚って県外だって言っていたよね?」
アワアワしている男子生徒。そんな態度するなら、言い訳とかしなければ良いのにと冷たい視線になる自覚が出てくる。後ろで篤人に事情説明をしている加藤さんを見て、急に怒り出す。
「だったら、仲本先輩とはどういう仲なんだよ!お前こそ浮気していたんじゃないのか!?」
男子生徒は逆上したかのように支離滅裂な事を口にし始める。それらの言葉にいい加減に怒りたくなった。僕は口を開こうとしたが、スッと前に出る影。そして、大きな音。
「サイテー!!仲本先輩と四月朔日先輩はタクが浮気して勝手に別れを言ってきたのにショックを受けていた私に声かけてくれた先輩なんだよ!そんな先輩に難癖付けるとかあり得ない!反省しているって言うなら友達からやり直しても良いって思っていたけど、そんな考えもなくなった。二度と話し掛けないで!」
そう言って、男子生徒の頬にビンタの跡を付けていた。
「先輩方、帰りましょう!こんなのと同じ空気を吸うなんて耐えられませんっ!」
そう言って、靴を履き替えて、外に出る加藤さん。僕は加藤さんを追いかける。篤人は男子生徒に何か声を掛けて、こちらに来て、男子生徒は膝から崩れ落ちる。追い付いた篤人に僕は何事か聞くが、何でもないらしい。校門まで行くと加藤さんがいた。
「私とアレの揉め事に関わらせてすみませんでした」
加藤さんは頭を下げるが、僕も篤人もあの男子生徒の責任だと思っているので、気にしなくて良いと声をかける。顔を見ると涙を流した跡があった。僕たちは空気を明るくするため色々と話していく。僕たちの笑い話に釣られて笑顔が増える。ホッとしたので、話題転換すると話題が不味かったのか目をそらされてしまう。
「加藤さん...」
「は、はい...」
僕は一度目を閉じて一息付いて確認する。
「テスト勉強...進捗どうですか?」
「今、急にカラオケ行きたくなりました!」
僕はいつもなら乗るところを無視して見つめる。すると、降参したのか目をそらしてくる。
「進捗、ダメダメです...」
僕はため息を吐く。
「仕方がない...一人ヤバいのがいるし、それも連れてくるから、加藤さんも参加してね。ついでに篤人も強制参加」
最近は問題のない篤人は余裕ぶった表情をしていたので強制参加を告げる。二人揃って目を丸くして何やら言っているが、僕にとって大切なことだ。
「最近出来たソシャゲ友達と一緒にソシャゲを楽しめないと悲しいよ...だから、ダメかな?」
僕がそう聞くと加藤さんは顔を赤くして首を猛烈に縦に振る。篤人は関係なさそうな顔をしているが、昼御飯を一緒に食べないかと聞くと一気に賛成に回る。
「よし、それじゃ、明日は朝9時からだね。家の場所は...篤人は知っているから良いとして、加藤さんにはメッセージで場所を送るよ。だから、明日は頑張ろう」
「「おー!」」
二人は僕の言葉に気合いの声で返事が来る。
そう言うことなので、今日は真っ直ぐ家には帰らずに食材を追加するためスーパーに寄って帰ることにする。何を作ろうか...迷いながら買い物をするのも楽しいものだ。
そして、僕は帰って呼ぼうと思っている存在に連絡をいれる。加藤さんとは同学年なのでテスト勉強する時に二人まとめて教えられるし、篤人の復習のためにも良いだろう。僕はそんなことを考えつつ今日は寝る。
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