第七話「別れ」

 ユウが目を覚ますと、人間の体に戻っていた。

 そして、そばには巨大なクマが心配そうに顔を覗き込んでいた。

「く、クマァァ?!」

「ボフッ! ボフボフッ!」

 クマは「オイラだよ、ボフさん!」と言わんばかりに、ボフボフアピールする。

「お前……もしかして、クマか? 俺の体に入ってた?」

 クマは「ボフ!」と嬉しそうに頷く。元クマも、無事に本当の体へ戻れたのだ。

 女神もテレパシーで喜んだ。

「成功です! やりましたね!」

「あぁ。長かったけど、あっという間だったな。今まで悪い夢を見ていたような感覚だぜ」

「それでは、私はこれにて失礼させていただきます! ユウさん、クマさん。残りの人生、楽しんできてくださいねー!』

 その言葉を最後に、女神からテレパシーは来なくなった。

 本来、女神は死者の転生を助けるだけで、生者の人生にまでは関与しない。今回のことは異例中の異例だったのだろう。

 女神がいなくなると、クマも「ボフ」とユウに背を向けた。

「どうした? どこへ行く気なんだ?」

 クマは寂しげに振り返った。

「ボフォレストクマ」

「ボフォレ……なんて?」

 クマでなくなったユウには、クマ語は通じない。

 クマはスッと森の奥を指差した。

「便所か?」

「ボフボフ(首を振るクマ)」

「川の水を飲みに行くのか?」

「ボフボフ(首を振るクマ)」

「またシカがいたのか?」

「ボフボフ(ヨダレを垂らし、首を振るクマ)」

 ユウはひたすら外す。

 だが、本当は分かっていた……クマが、森へ帰ろうとしていることに。

 ユウは散々外した末、寂しげに目を伏せた。

「……分かってるよ。森へ帰るんだろ? 一緒に魔王城をクライミングした仲だ、クマ語が分からなくたって、お前が考えてることくらい分かってる」

 クマはフッと目を細め、別れを告げた。

「ボフボフ……ボフ、ボフボフ。ボフクマ、ゴーヴィレッジクマ。ボフゥ……ボフボフ、ボフボフクマ(訳:クマは森で生きる者……だから、ここでお別れクマ。ボフさんはオイラが最初にいた村へ帰るクマ。大丈夫……離れていても、オイラ達の心はつながっているクマ)」

「うん……なるほど、わからん」

 クマはのっしのっしと、森の奥へ消えていく。

 ユウもクマに背を向け、はじまりの村へ向かった。

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