第四話「イイワケ探して、魔王城へ!」
森を出た、数時間後。
ユウと元クマは魔王城の壁をクライミングしていた。
「ちょっとー! うちの城はクライミング禁止なんですけどぉー!」
魔王城の主・魔王エクスキューズ(ゴスっ娘ロリババァ)が、地上から一人と一匹を怒鳴りつける。
ユウと元クマは「ボフボフー!」「クマクマー!」と言い訳したが、
「ボフとかクマとか、訳分かんないんですけど! 言い訳なら、人語でしろ!」
エクスキューズはクマ語を習得していなかったため、彼らの言い訳を理解してくれなかった。
「ボッフボフゥ(訳:やれやれ。これだから最近の魔王は困る)」
「クマックマァ(訳:クマ語はクマ界共通の言語クマ。覚えておいて損はないクマよ?)」
「言ってる意味は分からないけど、なんかムカつく!」
女神によると、イイワケは「呪い岩」という岩にしか生えない「苔」らしい。
呪い岩は魔界原産で、人間界にはほとんど存在していない。唯一、所在が明らかになっている呪い岩が、魔王城の屋根の建材として使われているものだけだった。
と言っても、魔王城の全ての屋根に「イイワケ」が生えているわけではない。生えているのは、掃除が行き届いていない一番高い屋根の上のみだった。
女神の権能をもってすれば、すぐに手に入れられそうだが、
「申し訳ありませーん! 生者への過度な干渉は禁じられているのですー!」
だそうで、ユウと元クマが自力で取りに行かざるを得なかった。
ポンコツそうに見えても、エクスキューズは魔王。勇者候補の元クマと勇者候補になるはずだった現クマが頼んだところで、即刻断られるか、無理難題を吹っかけられるに決まっている。
そういうわけで、強引に屋根までよじ登ることになってしまったのだった。
「ボフボフ?!(訳:なんで異世界に転生したのにフィジカル?!)」
「クマクマ……(訳:ヒトのカラダ、スグ疲レル。モウ、ノボレナイ)」
元クマはぜーぜーと息を切らす。壁に張りついたまま、一歩も動かない。
いくら隠れチート底辺勇者の体とはいえ、ガチクマの肉体には劣るらしい。
「ボッフッフー!(訳:頑張れ、クマ! もうちょっとで着くんだぞ?!)」
ユウはボフボフと励ます。
しかしタイミングの悪いことに、エクスキューズが地上からビームを打ってきた。威嚇目的で、ユウと元クマのすぐ近くの壁に大穴を開けた。あまりの威力に、ユウと元クマは呆然と大穴を見つめた。
「降りて来い! 次は当てるわよ!」
「ボ、ボフフゥ……!(訳:も、もうダメだ。完全に魔王を怒らせちまった。こんなことなら、大人しくドラゴンをレンタルすれば良かった……!)」
ユウがフィジカルで押し切ろうとしたことを後悔していると、「ボフクマ(訳:ボフさん)」と元クマが何かを決心したような顔で、ユウを見上げた。
「クマ、タゲラレクマ。ボフクマ、タッチダウンクマ(訳:オイラが魔王を引きつけるクマ。ボフさんは、その隙にイイタケをゲットするクマ)」
「ボ、ボフ?(訳:く、クマ?)」
戸惑うユウをよそに、元クマは壁から手を離した。彼の体は重力に従い、落下していく。
「クマっ(訳:じゃあの)」
「ボフー!(訳:クマー!)」
ユウはとっさに手を伸ばす。が、元クマはその手を取ってはくれなかった。
元クマの姿はみるみる遠ざかっていき、遂には見えなくなる。魔王は元クマだけでも仕留めるつもりなのか、彼に向かってビームを打ちまくっていた。
「ボフッ! ボフボフッ!(訳:クソッ! 俺、ボフさんじゃねーのに! 勝手に名前つけてんじゃねーよ!)」
元クマの死を無駄にするわけにはいかない。
ユウはあふれ出る涙を必死にこらえ、魔王城の屋根からイイワケをむしり取った。
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