第三話「ジャイアントスイング、からのヘッドロック」

 やがて、小さな村が見えてきた。


 前世のユウに似た青年が甲冑の騎士の両足をガッチリつかみ、ジャイアントスイングしている。他にも魔法使いや賢者らしき数名の人間が民家の壁や屋根、畑にめり込み、ぐったりしていた。


 村の人間は遠巻きに眺めているだけで、止めには入らない。巻き込まれたくないのだろう。ユウもなぎ倒した木の裏に隠れ、様子をうかがっていた。


(な、なんだアイツは? 俺に似てるけど、俺はあんなに怪力じゃないぞ?)


 答えはすぐに判明した。

 青年は甲冑の騎士を肥溜めへ投げつけると、勝利の雄叫びを上げた。


「クマァァー!!!」


「ボフゥゥゥー!!!(訳:アイツだぁぁぁー!)」


 ユウは木の裏から飛び出すと、青年の首に腕を回し、ヘッドロックした。クマ語で話す人間など、元クマと自称クマの物書き以外ありえない。


 突如ヘッドロックをかましたクマに、観衆はどよめいた。


「クマだ!」


「クマがヘッドロックしたぞ!」


「クマがヘッドロックするなんて……新種のモンスターか?!」


 ユウは青年をヘッドロックしたまま、ずるずる引きずる。


 一人と一匹は村中から注目を浴びながら、森の奥へと消えた。




「ボーフーフー!(訳:おーまーえー!)」


「クマクマ(訳:言い訳させてください)」


 村から十分離れたところで、ユウは青年……もとい、元クマを解放した。


 元クマは道中、女神に今の状況をテレパシーで説明されていたらしく、ここまで大人しく引きずられていた。


 元クマは人語でクマクマ話していたが、ちゃんとクマ語になっているようで、ユウには元クマが何を伝えたいのか理解できた。


「クマクマ! クマクマ!(訳:オイラは人間の体を使ってみたかっただけクマ! 信じて欲しいクマ!)」


「ボッフ……(訳:意訳の語尾までクマなのかよ……)」


 ユウは元クマの行動に呆れ、ボフゥとため息をつく。


 とはいえ、彼(?)の気持ちが分からんでもない。クマに転生してさほど時間は経っていないが、先ほど村人達から向けられた奇異と恐怖の入り混じった視線を思い出すだけで、不快な気分になる。


 元クマも、前世ではこんな気分だったのかと思うと、あまり責められなかった。


「フンス……ボフボフ(訳:分かったよ。体を返してもらえるなら、それでいい)」


「ク……クマー! クマグット! クマッシュ!(訳:あ……ありがとー! 君はいい人で良かったよ! さっきの連中みたいな極悪人だったら、即刻マッシュにしてたクマ!)」


 元クマは笑顔で、グッと拳を握る。この場合のマッシュとは、マッシュポテトと同じ意味のマッシュだろう。


 ユウは村の惨状を思い出し、「これ以上の不満は口にしない」と心に決めた。


「ボフ?(訳:で? 俺達はこれからどうすればいい?)」


 ユウはどこかから聞いているであろう、女神に尋ねる。


 女神はテレパシーで答えた。


「イイワケ、という薬草を探してください。煎じれば、魂が元の体に戻る飲み薬になるはずです。魂が他の体へ移らないよう、必ずお二人同時にお飲みになってくださいね?」


「ボフボフ?(訳:その薬草はどこに生えているんだ?)」


 女神はユウと元クマの脳内へ、地図を送った。

 この世界の地図のようで、最果てにある城のイラストのてっぺんに、大きく丸がついていた。


「イラストの城……魔王城のです」

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