怪奇現象の起こる部屋

ねこじゃ・じぇねこ

第1話

 死んだら全てが無になると思っていた。けれど、どうやら違うらしい。

 しょうもない理由でしょうもない人生とおさらばした私は、絶命した自室に居座る幽霊になっていた。

 幽霊になれば生前の陰鬱とした気分も少しは晴れると期待してみたけれど、全くそんなことはなかった。

 むしろ、ネットやゲームのような暇つぶしを能動的に楽しめなくなった時点でマイナスだ。特別な力のある幽霊だったらネットの世界に潜り込めたのだろうか。でも、私は違う。私はただこの狭苦しいマンションの一室に居座るだけの地縛霊だ。

 住み慣れた部屋に居座り続けた私だから思うことだけど、地縛霊なんてなるものじゃない。成仏できるのなら、さっさと成仏した方がいい。なぜなら、私の縄張りだった場所が他人のものになってしまう寂しさを味わわなくて済むからだ。


 それに、幽霊の視線でみれば、人間なんてどいつもこいつもしょうもない。


「……で? 私はいつまで泊ればいいんだって?」

「だから言ったじゃん。怪奇現象が治まるまでだよ」


 私にも気づかずに目の前でキャッキャする若い娘ども。

 女子同士ならば毎日がハートマークの若い男女じゃないだけマシかと思いきや、そんなことはなかった。老若男女、その組み合わせがどうであれ、他人同士がいちゃついていること自体が私にはただただうざいだけだった。


「それっていつまでだよ。除霊でも頼む?」

「失敗しちゃったら大変なことにならない?」

「うーん、分かんね。じゃ、こうしよう。三日間何も起こらなかったら、私は帰る。それでOK?」

「えー……うん……」


 はぁ。

 いっそ引っ越してくれないかと思うのだが、一方でそれではダメなのだと私でも分かる。

 腹を立てるならばその矛先は、家主の気持ちを分からないでいる友人の女だろう。


 しょうもない。

 こんないいわけに使われるなんて。


 舌打ちをしながら、私は今日もポルターガイストを起こすのだった。

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