第45話 『地獄谷』の魔物たち
「いててて」
あれ、俺たちどうしたんだっけ。
たしか森の中へ突っ込んで……。
「ワフッ!」
「おわっ!」
フクマロのモフい手で叩き起こされ、はっと目を覚ます。
ここは……木の上か。
うまく木に引っかかっているみたいだ。
どうやらあれからびっくりして、数秒ほど気絶していたらしい。
隣にいる美月ちゃんとぽよちゃんも同様だ。
「美月ちゃん! ぽよちゃん!」
「うーん……?」
「ぽよ……?」
「起きて! しっかりするんだ!」
目をぐるぐるさせていた二人だが、俺の声でハッとする。
一先ずは安全(?)に『地獄谷』の森林部へ侵入できたようだ。
だけど、
「ムキッ!」
「ムキャキャー!」
下を見ればサルの魔物の大群。
「なんだあれ!」
俺はすぐに図鑑を確認する。
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ハナビナゲザル
希少度:A
戦闘力:A
ダンジョン『地獄谷』でのみ見られるサル型魔物。
岩を花火玉のようなものな爆発物に変え、遠距離の敵を撃墜する。
単体の戦闘力も高い上、群れで襲ってきた場合はさらなる要注意が必要だ。
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「あいつらが砲撃をしてきていたのか!」
「みたいですね!」
「ぽよー!」
花火玉のようなものを四方八方から飛ばしてくるんだもんな。
そりゃ図鑑にもある通り、厄介なわけだ。
そこに、通信が入ってくる。
『着いたかよ』
「なんとかな」
毎度のサポート役、えりとだ。
高速飛行は通信が乱れるとかで、森林地に入ってから繋げる予定だったんだ。
『あー、そういう状況ね』
「理解が速くて助かるよ」
『配信はこっちが遠隔操作すっから、お前らはそのサル達に集中してくれ』
「さすが!」
俺には理解できないシステムだけど、ダンジョン配信はここまで進化してるらしい!
「じゃあみんな出番だ!
「ワフー!」
「ニャフー!」
「キュルー!」
「プクー!」
四匹がそれぞれ覚醒し、大きくなる。
「美月ちゃんとぽよちゃんもこっちに!」
「はい!」
「ぽよ!」
二人をこちらに呼べ寄せ、俺たちはフクマロの背中に隠れる。
安心安全、モフモフの守りだ。
そして、
《なんだ!?》
《いきなり始まったぞ!?》
《森林に入ったのか》
《安定してから配信するって話だったな》
《待ってた!》
《でもいきなりピンチじゃない!?》
《大丈夫なのか!》
横で飛行型カメラが起動してコメントが流れる。
配信の遠隔操作は、最近システムを開発したとか言ってたけど、さすがうまくいったいたみたいだ。
『はいどうもー。裏方のえりとでーす。今は──』
さらに、先日“天の声”として配信に加わったえりとが状況を説明してくれている。
俺が戦闘に集中する為だろう。
本当にどこまで
「よーし、全員突撃!」
俺の指示で、ハナビナゲザルをそれぞれ倒しにかかる。
「「「ムキャキャー!!」」」
モンブラン・ココア・タンポポが遊撃部隊として、フクマロは避けるのを最優先で戦う。
「キュル!」
ココアが投げた『覚醒ダンジョン
そこからは小さな樹が芽生え、光を灯す。
「ムニャ!」
「プク!」
その光の樹に二匹が触れると、たちまち体が活性化した。
味方を強化する恩恵を持つみたいだ。
《光!?》
《バフか!》
《すげえ!》
《ミニ世界樹?》
《最強のサポーターじゃん》
《ココアちゃん活躍!》
「ニャニャー!」
「プククー!」
モンブランはかまいたち、タンポポは自慢の皮膜の攻撃をする。
だが、二匹の動きが明らかに変わった。
「「「ムキャキャー!!」」」
その恩恵もあり、モンブランとタンポポが次々に魔物を倒していく。
集団なら怖いけど、各個撃破していけば問題なさそうだ。
「ワフ」
「キュル」
さっき苦戦していた花火玉にも全く当たらない。
意思疎通が出来ているのか、互いに距離を取り合って標的を固定させないようにしているからだ。
そうしている内に、
「「「ムキャ……」」」
ハナビナゲザルの群れを一掃。
やはり最強種族の四匹。
地上戦となれば負け知らずだった。
《さすがー!!》
《ペット達最強!ペット達最強!》
《まだ力残してないか?》
《結構余裕だったよな》
《かっこかわいい!!》
《やっぱこれなんよなあ》
配信も大いに盛り上がる。
久しぶりに無双っぷりを見せられた気がする。
それでも、戦闘は続く。
「ムギャ……」
「!!」
奥から、ドシン、ドシン、と大きな足音。
それと共に聞こえてくるのは、先ほどのハナビナゲザルと似た鳴き声。
だけど、明らかに低い。
「ムギャアアァ……!」
「しかもでけえ!」
目の前に現れた魔物は、さっきまでの個体とはまるで違ったハナビナゲザル。
うちでは一番大きな頭身である、覚醒ココアよりもずっと大きい。
『あれは……ボス猿だな』
「群れのリーダーってことか」
『ああ、全身が白いからな』
それはゴリラに見られる特徴だった気がするけど、魔物の場合はそうなのだろう。
えりとの事は全面的に信頼しているからな。
『それにしてもあのサイズはやべえぞ』
「何が?」
『そりゃあ……おい、前!』
「!!」
意識を前に向けると、ボスハナビナゲザルが巨大な岩を持ち上げている。
えりとが言いたかったのはこれのことか。
「なっ!?」
あれを投げるつもりかよ!
この辺一帯が吹っ飛ぶんじゃないか!?
「ムギャアアアァァ!」
「全員退避──って、おい!?」
「ぽよちゃん!?」
「ぽよー!!」
みんなが退避態勢に入る中、ぽよちゃんがフクマロから飛び出す!
まさか、あれを止めるつもりか!?
「ぽよぉ!」
巨大な花火玉をバクンと飲み込んだぽよちゃん。
爆発は……しない!
「抑えたのか!」
「ぽよちゃん!」
《ぽよちゃん!》
《すごーい!》
《四匹に負けてないよ!》
《森を救ったぞ!》
《偉い!》
《でも大変!》
「ぽよ、よ……」
だけど、プスプスと口から煙を出すぽよちゃん。
許容吸収量の限界ギリギリだったのかもしれない。
「ムギャアア……!」
「まずい!」
その隙にもう一発、巨大な岩を持ち上げるボスハナビナゲザル。
ぽよちゃん以外では回避することは出来ない。
「全員退避……って、みんな?」
そんな時、ボスハナビナゲザル、さらにうちの四匹の動きが止まった。
「どうしたんだ……?」
一斉に、ボスハナビナゲザルとは反対方向を向き、視線を逸らさない。
戦闘中に全員の動きが止まるなんてよっぽどだ。
一体何を感じているというんだ。
そうして、
「クォ~~~~ン!」
「……!」
魔物達が見つめる方向から、遠吠えが響き渡った。
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