第41話 世界樹の上の温泉大作戦!

 「俺は世界樹の頂上に“温泉”を作りたいんだ!」

『はあ!?』


 俺の堂々とした宣言に、えりとが声を上げた。


『お前、頭大丈夫か!?』

「大丈夫! いつも通り良くない!」

『それは、そうだが……』

「そこは否定してよ!」


 えりとがそう言うぐらいのぶっ飛び発想だったらしい。

 俺は思った事を言ってみただけなのに。


『大体、どうやってそんなもん作るんだよ!』

「そりゃまあ……うちには優秀な頭脳ブレインがいるし?」

『俺任せかよ』


 呆れたようなえりとだったが、やがて笑い声が聞こえてきた。


『あっはっはっは! 気に入った! やっぱお前といると飽きねえな! こうなりゃとことん付き合うぞ!』

「さっすが!」


 えりとからのGOサイン。

 あとはペット達の意気次第だ。

 

「みんなはいけるか! 温泉だぞ!」


「ワフーッ!」

「ムニャー!」

「キュルー!」

「プクー!」


「良い返事だ!」


 みんなが「おー!」と右腕を上げた。

 興味が湧いたのかもしれない。

 

「じゃあ、あのボルケーノダイルを攻略するぞ!」

「ゴアアアアアッ!」


 俺たちの意思を感じ取ったのか、火口から顔を出すワニ型魔物ボルケーノダイルが咆哮ほうこうを上げた。


 ここは正面突破!

 ……といきたいが、タンポポが飛んでいるこの距離ですら熱い。


「どうすればいい」

清々すがすがしいほどのお任せだな』

「頼りにしてるからな」

『ったく、よく聞けよ』


 無茶ぶりにも答えてくれるえりとは、やっぱり最高の相棒だ。


『俺たちの目的は、あくまであの岩のような皮膚だ。何も倒す必要はない』

「お、そっか」


 おそらくあの皮膚が火口かこう岩だという話だったな。

 あれを少しでも持ち帰ればこちらの勝ちだ。


「となると?」

決め手リーサルはモンブランのかまいたちだ。あれで皮膚をぎ取ってさっさと退散しろ』


 えりとが分かりやすく目的を整える。

 

「じゃあ、モンブランが攻撃に集中できるよう、体制を整えればいいんだな!」

『そういうこった!』


 やるべきことは整理した。

 あとは俺とみんなのコンビネーション次第だ。


 だけど、火口付近が熱くてみんなが着地出来ない。

 そんな時、ココアが声を上げた。


「キュル!」

「何か策があるのか?」

「キュル、キュルル!」


 自分のお腹をポンポンと鳴らしてアピールする。


「えと、自分の覚醒姿はモフモフが多いから耐えられる?」

「キュル!」

「分かった!」


 ココアが覚醒すれば、ちょっと太っちょになりモフみが増す。

 確かにあのモフモフボディなら、熱さにも耐えられそうではある。


 もちろん火口に直接ダイブではなく、円形のふち部分に着地させる。

 

「よし、タンポポは火口近くに! ココアは覚醒して、モンブランはその上に乗るんだ!」

「プク!」

「キュル!」

「ニャニャ!」

 

 迅速に動き出す三匹。

 指示通り、ココアは飛び降りて空中で覚醒。


「キュル~~~~!」


 そのぷっくらお腹にモンブランが着地した。

 構えを取り、いつでもかまいたちを放てる状態だ。


「これなら──」

『まだだ。その距離じゃ正確性に欠ける。一度狙いがバレれば、二度と姿を現さない可能性もあるぞ!』

「そうか」


 えりとの言う通りだ。

 いくらモンブランでも、皮膚と皮膚の間を正確に斬るのは至難のわざだ。


「ワフッ!」 

「フクマロ、いけるのか!」

「ワフー!」


 フクマロには何か考えがあるみたい。

 ここは任せてみよう。


「頼んだぞ!」

「クゥ~~~~ン!」


 タンポポから飛び出したフクマロは空中で覚醒。

 そのまま……火口に突っ込んでいく!?


「フクマロー!」

「ウ~~ワフッ!」

「ゴアッ!?」


 そして、ボルケーノダイルに渾身のキック。

 そのままマグマに入ることなく、ぴょーんと反対側のふちまで跳んだ。

 

「ゴアァ……」

「……!」


 今のキックでボルケーノダイルがクラっとしている。

 これは大チャンスだ!


「モンブラン!」

「……ムニャ」


 達人のように静かに繰り出されたかまいたち。

 一瞬の内にスパーン! と皮膚の一部分が打ちあがる。

 あれが目的の火口岩だ。


「プクー!」

「よし!」


 それを空中に居たタンポポがキャッチ。

 これで目的は達成だ。


『やるじゃねえか!』

「ああ、みんなよくやった!」


 えりと含め、ペット達と共にわっと湧いた。

 だが、


「ゴ、ゴアアアアッ!」

「うおっ!」


 我を取り戻したボルケーノダイルが怒りの咆哮を上げる。

 まずい、火口という圧倒的不利な場所で暴れられたら、四匹でも対処できない。


「みんな掴まれー!」


 それぞれが覚醒を解き、タンポポが順に回収。


「ごめんねワニさーん!」

「ゴアアアアアッ!」


 なんとか皮膚の部分をもらい、俺たちは一目散に帰った。







「ふんふふんふ~ん」

「鼻歌を歌うな。まだ出来てねえ」

「お、ごめんごめん」


 えりとににらまれてしまった。


 ここは世界樹の頂上。

 俺はニンマリとした顔でそれ・・を待っている。

 辺りはすっかり暗くなってしまった。


「ったく、素材を採るだけ採って後は俺任せかよ」

「お疲れ様です! えりとさん!」

ねぎらっても何もでねーよ」


 世界樹の頂上は大体円形になっている。

 安全対策でガラスに囲まれた頂上は、五つ・・のエリアに区分できる。

 五つというのは東・西・南・北、中央だ。

 

 中央は「展望台」。

 京風の茶室みたいなのが置かれている。


 さらに北が「畑」、東が「四季のお花見ゾーン」だ。


 そして今回、南のエリアが埋まった。


「楽しみだなあ」


 完全なる思い付きの「温泉」である!


 周りを囲う木の板や脱衣所、お風呂自体の構造はすでに出来ている。

 上は吹き抜けになっていて、綺麗な夜空を見渡せる「露天風呂」だ。

 ペット達のDIYも慣れたものだね。


 後は温水を通すだけだ。

 えりとがさっきからしている作業だ。


「お。繋がったか」

「まじでー!」


 そうして、ついにえりとが声を上げた。

 

「もしかして、出来たのか!」

「おそらくな。そこを操作してみろ」

「いざ!」


 指示されたのは、温水が出てくる「湯口」。

 言われた通りに操作すると……シャー。


「うおお! あったかい!」

「成功したか」

「すげえー!」

「俺にかかればこんなもんよ」


 えりとの渾身のドヤ顔。

 でも、これは本当に尊敬。


「すご! これどんな仕組みなんだ!」


 えりとは髪をかきあげながら答える。


「世界樹全体に行き渡る膨大な水を、育ちの害にならない程度に頂上に集めた。余計に行き渡っているところもあったからな。んで、この頂上の少し手前に火口岩を配置して、水を温水にしてるんだよ」

「……へえ」

「おう、ビビるるほどピンと来てねえな」


 よく分からなかったけどすごい!

 俺にはさっぱりだ!


 けど、やっぱりえりとはすごい。


 「温泉を作りたい」とめちゃくちゃな事を言い出したのも俺なのに、要望にはきちんと答えてくれるのだから。

 本当に良い相棒を持ったよ。


「ついでに、同じ構造を使って頂上の全体に熱がいくようにした。床暖房だな」

「ああ、なんか暖かいと思った!」

「……元は寒さ対策って話だからな。誰かさんのせいで話が広がったが」

「てへへ」


 話していた寒さ対策の方もしっかりしてくれたらしい。

 こいつ神? うん、きっとそうだ!


「でもま、ほとんどの作業をしたのはペット達だ。大規模すぎるからな。俺の説明を正確に再現しやがるのはさすがだな」

「……」


 じゃあまさか、この中で構造を理解できてないの俺だけ?

 それはそれで悲しい。


「お、見ろ。そんなことを言ってる内に」

「おお、すげえ!」


 世界樹という膨大な水を回しているからか、あっという間に温水が溜まった。

 テンションが再び爆上がりする。


「んじゃ、入るぞー!」


 俺は服を脱ぎ捨ててペット達とダイブした。

 家の温泉だから誰も文句は言うまい!





 それからしばらく。


「ワフゥ……」

「ははっ。フクマロ、おじさんみたいになってるぞ」

「ワフ?」


 タオルを頭の上に乗せ、目が横線になっているフクマロ。

 このまま寝ちゃいそう。


「ニャフー」

「モンブランは大胆だなあ」


 小猫のモンブラン。

 小さな体を仰向けの大の字にして、ぷかーと湯に浮かんでいる。

 フクマロと同じ、目が横線だ。


「キュルー!」

「プクー!」

「あんまりはしゃぎすぎるなよ~」


 そして、水泳大会をしているココアとタンポポ。

 弟属性を持つ二匹は相変わらず。

 どちらも少々ぷくっとしていて、ボールが浮き沈みするみたい。


「可愛いなあ」


 それぞれ思い思いの行動をするペット達。

 みんな初めての体験に喜んでいるみたいで、俺も嬉しい。


「良い眺めだねえ」

「だな」


 そうして、えりとが設置された白椅子でぼーっとしながらつぶやいた。

 俺も釣られて空を見上げる。


 綺麗な星々がキラキラと光る。

 『世界樹ダンジョン』の星空も絶景だったが、地球も地球でやっぱり素晴らしい。

 天然プラネタリウムのようだ。


 それを、仲間で独占してのんびり入る温泉に浸かりながら眺めるなんて。

 なんて贅沢ぜいたく、なんてスローライフだろう。


「頑張った甲斐かいあったわ~」

「ああ、まじでお疲れ~。えりと」

「何言ってんだ、お前もだよ~」


 お互い、若干ふにゃふにゃした話し方になる。

 なんたって、


「ふい~」

「おいおいえりと、何杯目だよ~」

「まだニ杯目だっつの~」


 片手に日本酒を持っているからな。

 おしゃれなおちょこがようやく役立った。

 温泉の中で日本酒、これに勝るものはない。


「こりゃハマるなあ」

「ああ。もう完全にとりこだぁ」


 ぐびっとしながらしばらく。

 ぼーっとする中で、えりとが口を開いた。


「今度、めどさんや桜井さんも呼ぶか~」

「いいよ~。でもあれ、女性用と分けなきゃ」

「……やっぱ今の無しで」


 えりとは顔を引きずった。

 また大変な作業をすることになるからだ。


「おいおい冷たいな。美月ちゃんもオーナーも絶対喜ぶって!」

「……その作業、誰がやるんだよ」

「そりゃもちろん、えりとで」

「だろうなあー!!」


 綺麗な星空の中に、えりとの声が響く。

 後日、えりとくんはしっかり女性用も作ってくれて、二人も大満足して温泉を満喫まんきつしましたとさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る