第40話 世界樹にも寒さ対策って必要だよね

 とある平日のお昼前。

 家横の世界樹頂上。


「寒くね?」

「分かる」


 えりとの言葉にぶんぶんと首を縦に振った。


 今は11月。

 金英きんえい高校文化祭からはそれなりに日が経ち、じきに冬に差し掛かる。

 高さが40メートル近くにまで伸びるこの頂上は、かなり寒い。


「そういえば、寒さ対策は全然考えてなかったな」

「えりとにしては珍しいよな」

「ああ。らしくねえミスだ」

「……自分で言うのか」


 ココアが自在に覚醒できるようになり、『覚醒ダンジョンだね』が容易に手に入るようになった。

 その甲斐かいあって、世界樹の頂上は「展望台」、「四季折々の木々」、「畑」を作ってなお余るスペースがある。


 でも、寒い!

 季節だけはどうにもならん!


「これは早急に対策が必要だな」

「激しく同意」


 そんなこんなで、俺たちは対策を練ることに。





 場所は変わっておうちの中。


「確かに寒さ対策は必要ですね~」

「めどさんもそう思うだろ」


 えりとは、目銅佐めどうさオーナーが用意してくれたお昼をモグモグしながら彼女と話している。

 彼女を「めどさん」と呼ぶのはえりとぐらいだ。

 オーナーがどうして居るかは省いていいだろう。


「えりとさんにしては珍しいミスで──」

「そのくだりはもうやったからいいよ」

「ええっ!」


 というか、最近この二人仲良くない?

 なんてふと思ってみたり。


 おっといかんいかん。

 俺も会話に参加せねば。


「えりとは何かアイディアないの?」

「まー……あるっちゃある」

「あるのか!」


 さすが、我らの頭脳えりとくん。


「『世界樹ダンジョン』を浮かべてくれ」

「ふむ」


 『世界樹ダンジョン』とは、つい最近まで俺たちが『新興ダンジョン』と呼んでいたあれだ。

 先日、晴れて名称が付けられた。


「東の方に火山があっただろ」

「あー、あるある」


 『世界樹ダンジョン』は一言で言えば、恐竜が生きていた時代のような風景。

 その代表とも言える火山も当然あった。


「あそこで面白いものが見つかったんだよ」

「なにそれ」

「『火口岩かこうがん』」


 花崗かこう岩ではなく、火口岩。

 ギャグみたいな名前だな。


「『世界樹ダンジョン』でしか発見されていない、熱エネルギーを持つ岩らしい。最近研究所で見たんだが、研究用に取られちまってよ」

「そりゃ仕方ない」


 俺んちでぬくぬくする為に使うより、研究で使ってもらった方が有意義だ。


「だから市場にも出回っていない。獲得できたのは一つだからな」

「ん? うん」


 あれ、気のせいかな。

 段々と誘導されているような……。


「てことで、頼むわ」

「やっぱりな!」


 絶対こうなると思った!







 ここは『世界樹ダンジョン』の入口。

 話の後にすぐやってきた。

 思い立ったが吉日、というやつだ。


 そして、


「おお……やっぱすげえな」

 

 遠くにそびえ立つは、ダンジョンのシンボルである世界樹。

 

「プクー!」


 故郷に帰って来て嬉しいのか、タンポポがさっきから反応を示す。


 けど、今日の目的地は火山。

 世界樹に負けるとも劣らない迫力のそれは、東側の森林を抜けた先にある。

 相変わらず圧倒的な景色だ。


『じゃあ行こうか』


 聞こえてくるのはえりとの通信。

 すっかりサポート役がハマってんな。

 

「これでも結構大変なんだぞ?」

『分かってるって。いつも助かってるよ』

「お、おう。別にいいってことよ!」

『……ちょろ』

「このやろっ!」


 冗談はここまでにして、早速探索開始だ。

 といっても、かなり楽なんだけど。


「タンポポ、頼めるか?」

「プククク……プク〜〜〜!」

「よーし!」


 ペット達お流行りの『覚醒ごっこ』の効果か、随分と覚醒までがスムーズになった。


「では、失礼してっと」


 大きくなったモフモフの毛並み。

 低反発で沈み込むので、横になったら気持ち良くて寝てしまいそうだ。


 俺にならって三匹もタンポポに乗ってくる。


「ワフっと」

「ニャフっと」

「キュルっと」


「……ん!?」


 今、みんな喋らなかったか?

 さ、さすがに気のせいか……あははー。


『どうした?』

「……いや、なんでも。と、とにかく、頼むぞタンポポ!」


 タンポポは両腕を広げて皮膜を展開。

 そのままバサっ! と大きく一振りをして、高く舞い上がった。


「プククー!」


 滑空しながた進む空の旅は快適だった。





『そろそろだな』

「うん」


 本来は木々を掻き分けながら進むはずの森林を上から超え、火口の近く。


「ちょ、デカすぎねえ!?」

『ああ、俺も結構ビビってる』


 近づくにつれ感じていたが、目の前にするとよりその迫力が伝わってくる。

 それほど高さがあるわけじゃないが、横に広く、巨大な穴のようだ。

 

『ちなみに、そこは休火山だと判明している。安心していい』

「そ、そうなのか」


 火口を上から見てもグツグツ言ってなかったのは、そういうことか。

 それでも迫力で手足が震えそうだけど。


『おい待て。あれを見ろ、火口の入口!』

「入口?」


 俺は図鑑のズーム機能で火口を覗く。


「なんだあれ!」


 図鑑で姿を捉えると共に、図鑑機能が反応した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ボルケーノダイル

希少度:S

戦闘力:S


火口に住むと言われる希少なワニ型魔物。

そのゴツゴツで分厚い岩のような皮膚で、熱さを耐えていると言われている。

討伐報告は未だなく、生態系が不明。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「まじかよ!」

『まじかよ!』


 とんでもない魔物が出てきやがった。

 図鑑情報はリアルタイムでえりとにも送られるため、驚いたのだろう。


『待てよ! あの岩のような皮膚! 間違いない、あれが火口岩だ!』

「火口岩って魔物の皮膚だったのか!?」

『入手した物は火山付近に落ちていたらしいが、何かの拍子にあいつから剥がれたのかもな。それなら熱エネルギーを持つのもうなずける』

「な、なるほど!」


 よく分からないけど返事をした。

 実物を見ているえりとの言葉は信頼できる。

 

「じゃあ今すぐに──」

『いや』


 だが、えりとはGOサインを出さない。


『悪い事は言わねえ。引き返せ』

「なんでだよ! フクマロ達なら──」

『冷静に考えろ。相手がいるのは火口。あまりにも不利だ』

「……っ!」


 それは言えてる。

 今この瞬間だって何をしてくるか分からない。


「じゃあ諦めるのか?」

『それでいい。ストーブでも買えばいいだろ』

「俺は……」


 それでも諦めたくなかった。

 もちろん決めるのはペット達だ。

 だけど、これを言ったらペット達も賛同してくれんじゃないか。


「俺は世界樹の頂上に“温泉”を作りたいんだ!」

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