第36話 新たな家族の色んな恩恵!

 『新興ダンジョン』から帰って数日。

 家の前にて。


「い~やっふうー!」

「プクー!」


 新しく家族になったモモンガのタンポポ。

 俺は今日もタンポポに乗って空中飛行だ。

 前から強めに吹いてくる風がとても気持ち良い。


「まーたやってんのかー?」

「えりと!」


 下の方から、えりとの声が聞こえた。

 もう約束の時間か。

 タンポポに乗ってたら時間が経つのが早いなあ。


「タンポポ、降りよう!」

「プクッ!」


 指示をすると、タンポポはスイーと滑空して地上へ。

 

「お疲れ様!」

「プクッ!」


 そして、しゅんしゅんしゅんと小さくなった・・・・・・

 今は簡単に抱きかかえられるサイズの小さなモモンガちゃんだ。


 実はタンポポのあの姿は、フクマロ達同様に覚醒していただけであり、ダンジョンから脱出した後にこうして小さくなったのだ。


 それを見たえりとが口を開く。


「まさか覚醒が操れるようになるとはな」

「俺もびっくりだよ」


 さらに、タンポポが家族になったことで、他のペット達にも劇的な変化が起こった。


 その変化とは……あ、ちょうどまたやってる。

 あの遊び・・ハマったのかな。


「プクゥン?」


 ああん? みたいな顔でモンブランを威嚇いかくするタンポポ。


「ニャンコラ」


 対して、あんこらと威嚇し返すモンブラン。


 そして、


「プク~~~!!」

「ニャフ~~~!!」


 ぐんぐん体が大きくなり、二匹は覚醒。

 これが最近ペット達で流行りの『覚醒ごっこ』だ。


 他のペット達への劇的な変化というのがこれ。

 なんと、タンポポというさらに最強クラスの魔物が家族になったことで、お互いの闘争本能を刺激して、自在に・・・覚醒できるようになった。


 通常の小さな形態と、覚醒した大きな形態を変えることができるんだ。

 『新興ダンジョン』での経験も大きかったのかもしれないな。


「ほらほら、そこまでだぞ~」

「プク!」

「ムニャ!」


 俺がなだめると、二匹ともしゅんしゅん……とまた小さくなる。

 お互いに刺激しているだけで、本当に怒っているわけではないので安心してね。


 えりとも定期的に覚醒させた方が良いと言っていたし、遊びで覚醒が出来るようになったのは俺としても助かる。

 四匹レベルにとっての強者に会わせるって結構大変なんだよ。


「でも、ほどほどにな」

「プクゥッ!」

「ニャニャッ!」


 空を飛ぶ要員としても、ペット達のさらなる強化としても、新たな風を巻き起こしてくれたタンポポ。

 最近入ったばかりだというのに、すでに存在感を示している。


「で、やすひろよ。そろそろいいか」

「そうだった! ほら、みんないくぞ~」


 そうして、四匹を連れて家に戻った。





 家のテーブルにて。

 コーヒーを飲みながら、えりとが口を開く。


「分かってると思うが、今日は世界樹関連の件だ」

「だよな」


 『新興ダンジョン』で得たものは、タンポポ以外にもたくさんある。


 頂上の畑の野菜、それらの種、世界樹のさらなる発展のヒント。

 これらを一度えりとに渡して、研究してもらっていた。

 今日はその結果報告といったところだろう。


「結論から言おう。まず野菜たち、あれは『王種おうしゅ』と呼ばれるものたちだな」

「王種?」


 なんか凄そうな名前が出てきたぞ。


「ああ。最難関ダンジョンで数件のみ発見されていた、それぞれの野菜の“王様”たちだ。ダンジョンという特殊な環境で育ったからこそ、あの最高品質になる」

「へえ」

「へえ……じゃねえー! お前、あの価値分かってんのか!?」

「え、いやあ」


 溜息をつきながら、えりとが話してくれた。


「もちろん野菜の種類にもよるが、例えばミニトマト。あれ一粒で一万だ」

「一粒で一万……はいいっ!?」

「お前がパックパク食べてたやつな」

「嘘だろ!?」


 咄嗟とっさに体の胃袋あたりを掴んでしまった。

 もう出てくるわけもないけど。 


「それほど王種というのは特殊だ。それを、まさか種から持ち帰るとはな」

「いやー、それほどでも」


 なんだか思ったより凄いことをしてしまっていたらしい。


「ま、とにかくそういうことだ。警備はさらに厳重にしろよ」

「そうだな」


 いくら職業自宅警備員とは言え、大勢で来られたらきついからな。

 警備を請け負ってくれている目銅佐めどうさオーナーに相談してみよう。


「で、次に我らが世界樹」

「おう」

「あれ以上育つのは難しい。土地が違い過ぎる」

「だよなあ」


 それはなんとなく思っていた。


 『新興ダンジョン』の世界樹があんなに伸びたのは、あの超難易度ダンジョンの環境あってこそだ。

 伸びるための栄養が足りないんじゃ仕方ない。


「だが、一つだけ可能性がある」

「え」

「それがココアの『覚醒ダンジョンだね』」

「あー!」


 ココアの覚醒能力は、持っている『ダンジョンだね』の効果を覚醒させるというものだった。

 世界樹の頂上で見せたような効果があれば、俺たちの世界樹はさらに発展するかもしれない。


「だが、慎重にな。いきなり発展し過ぎても手が付けられなくなる場合がある」

「そっかそっか」


 じゃあ早速、とすでに動き出しそうだった体を椅子に戻す。


「その辺はまた時間あるときにしよう。それより、そろそろあれ・・だろ?」

「そうなんだよね」

「準備はしてんのか?」


 あれとは、美月ちゃんの学校の文化祭のことだな。

 前々より、美月ちゃんのクラスに来て欲しいと誘われていた文化祭が、そろそろ迫っているのだ。

 

「任せとけって! 美月ちゃんとは話しているしな」

「ならいいが」

「それに」


 俺はチラっとタンポポを見た。


「とっておきの策もあるからよ!」







<三人称視点>


 ここは美月たちが通う『私立金英きんえい高校』。

 都内の一等地に豪華な建物をいくつも構え、芸能科や芸術科、ダンジョン科など華やかな学科を揃える、いわゆる日本一お金持ちの学校だ。


 そして、今日は金英高校の文化祭。

 日本一盛り上がる文化祭と言われるこの行事には、たくさんのメディアも集まっている。


「やってきました! 金英高校文化祭!」

「今年もすごい盛り上がりですねえ」

「今年は話題のペット配信者も来るとか!」


 まだ開幕前だというのに、凄まじいにぎわいようだ。

 それは当然、生徒たちの方も。


「そろそろ作り始めよう!」

「材料足りないよ!」

「向こうのクラスには負けんなよ!」


 入口から校舎までずらりと屋台が並び、開幕に向けて熱気はさらに増していく。


 そして、体育館。

 ここでは開幕セレモニーが行われている。


『続いては、歌手の「HIRUASOBI」さんです!』

「「「わああああっ!」」」


 次々に登場する有名人達に、すでに高かったボルテージがまだまだ上がっていく。


『そして、狭瀬すずさん!』

「「「おお~!」」」


 紹介されているのは、イベントやクラスに参戦するゲスト達。

 某歌手から芸能人、大人気インフルエンサーまで、今を時めくたくさんの有名人がこの場で紹介される。


 そんなところに元ブラック勤めの一般人、


「す~、は~」


 低目野ひくめのやすひろだ。

 だが、一般人というのは先日までの話。

 

「みんな、準備はできてる?」

「ワフッ!」

「ニャフッ!」

「キュル!」

「プク!」


 小犬のフクマロ、小猫のモンブラン、シマリスのココア、モモンガのタンポポ。

 今や最強の四匹を連れた、ペット系配信者のトップインフルエンサーだ。


 SNSのフォロワーは250万人、チャンネル登録者は200万人を超える。

 その期待度から、ゲスト紹介の大トリを務める。


『そして、最後のゲストをご紹介します!』


 司会の声が聞こえ、やすひろはタンポポに指示をする。


「今だ、覚醒!」

「プク~!」


 フクマロ、モンブラン、ココアの三匹に闘争本能を刺激され、大きくなっていくタンポポ。

 そして、みんなを載せられるだけのビックサイズに変身した。


『今や超インフルエンサーとなった、チャンネル「やすひろとモフモフ達」です!』

 

「行くぞ!」


 バサっと黒幕が開き、その瞬間にタンポポが飛び立つ。


「プクー!」

「皆さんこんにちは~!」


 大きな皮膜で滑空し、体育館に集まった生徒やメディア達の上を優雅ゆうがに舞う。

 制空権を持つタンポポ、その飼い主のやすひろにしか出来ない最高のパフォーマンスだ。


「「「きゃー!」」」

「「「すげえー!」」」

「「「本物だー!」」」


 やすひろの登場に、体育館は今日一番の大歓声。

 さらに、タンポポから三匹もひょっこりと顔を出した。


「ワフッ!」

「ムニャ~」

「キュールル!」


 小さな体のままのフクマロ、モンブラン、ココアだ。


「フクマロくーん!」

「モンブランちゃん!」

「ココアちゃんきゃわ!!」


 歓声はさらに大きくなり、やすひろ達に向けて一斉にシャッターが切られる。


 メディアも高校生も、今日は全てSNSに上げる許可をもらっているからだ。

 もちろん、出演者もそれを了承してここに来ている。


 そうして、


「プクー!」


 ぐるりと体育館を一周したタンポポが再びステージで着地。

 やすひろにマイクが渡された。


「皆さん、改めてこんにちは。「やすひろとモフモフ達」というチャンネルで活動していている、やすひろです!」


「知ってるよー!」

「みんなお行儀良い!」

「ペット達かわ!」


 普段はお上品な生徒たちだが、今日はノリが最高潮。

 この盛り上がり方が、いかに大きな行事ごとかを連想させる。


「今日は桜井美月さんのクラス、三年A組の出し物に協力してます! 場所は食堂ですので、よろしければ!」


「「「わああああっ!」」」


 やすひろの登場により、一気にボルテージが高まった金英高校文化祭。

 ここで名乗りを上げれば今後メディアが放っておかない、と言われる程の行事で、やすひろはいきなり大歓声を浴びた。


 しかし、


「何がやすひろだよ」

「くだらねえ、潰すか」

「それがいいな」


 ステージ側にいない何人かが嫉妬しっとの目を向けていた。

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