第35話 四匹目!〜豪華な別荘と空の旅〜

 世界樹の頂上。

 作物が枯れてしまっている畑に対して、名乗りを上げたココア。


 一体何をするのかと思えば……。


「キュルー!」


 ひゅ~、ぽとっ。

 ココアは、ずっと握っていた自分の種をいきなりぽいっと投げた。


「えーと、ココアさん?」

「キュンル」


 今のは「ふんす」と言ったのかな。

 両手を腰に当てて、いかにもな「してやったり顔」だ。


「何がしたかったんだ……って、え!?」

『……!』


 ココアの謎行動に戸惑うばかりだったが、種がいきなり光り出す。

 耳元では、えりとが固唾かたずを飲んだ音も聞こえた。


「キュルー!」


 両手を掲げて「いでよー!」みたいな声を上げたココア。

 それに呼応するよう、種から光が広がっていく。


「なんだあ!?」


 そして、


「プク!?」


 モモンガーディアンが反応を示して、急いで作物に駆け寄る。

 種から一番近かった作物だ。


 種から広がった光はその作物に集まり……


「うおっ!」

「プクッ!」


 黄色の花が咲いた。

 まるでトマトになる前の花みたいな形だ。


 さらに、種からの光は広がり続ける。


「お、おお、おおお!」


 今まで作物が死んでいた広大な畑。

 それがココアの種から広がった光で満ちていき、順に作物が息を吹き返していく。


 黄色の花に続き、白、紫、また黄……と、どれも見た事のある野菜の花ようなものを次々に咲かせていく。


 やがて、


「うおお……!」

「ワフー!」

「ムニャー!」


 枯れ切っていた広大な畑。

 それが、一面のお花畑へと変わった。


「なんて綺麗なんだ!」


 近くで照り続ける陽の光に当たり、お花畑はより一層輝く。

 涼やかな風もふんわりと花々をあおり、まるでお花畑全体が合唱しているみたいだ。


 こんな光景、現実ではまず見たことが無い。

 しかも、それだけでは終わらず。


「なあっ!?」

「プクゥ!」


 最初に命を取り戻した花から、ポンっとミニトマトが生まれた。

 あんな瑞々みずみずしいミニトマトは目にしたことがない。

 

 もう花から野菜へと成長したってこと?

 早すぎだろ!

 

 その流れは止まらず、ついにはお花畑と野菜が入り混じる不思議な光景に。

 大体、お花9:野菜1ってところか。

 お花も光景としては惜しかったので、このぐらいがちょうどいいな。


「キュルル!」

「ココア!」


 ここでココアが再びのすごいでしょアピール。

 そうだった、これも全部ココアのおかげだ。


「えらいぞ~」

「キュルゥ~」


 ココアは嬉しそうな声を出した。

 巨大化しているので、頭をなでなで出来ないのが残念だけど、その分お腹を目一杯なでてあげた。


 でも、どうしてこんなことが出来たんだ。


『そういうことかよ』

「お、えりと」


 ちょうど良いタイミングで解説要員きたあ!

 

『おい、今失礼なこと考えなかったか?』

「いいえまったく」

『そうかよ』


 やべ、なんでバレてんだ。

 そんな事を言いながらも、えりとは仮説を話してくれる。


『気になってたんだよな。ココアの覚醒した能力』

「ふむ?」


 首を傾げながら続きを聞いた。


『覚醒すれば、フクマロはさらなる攻撃力と跳躍力。モンブランはかまいたちの本来の力を取り戻すだろ』

「あーそういう」

『だが、ココアだけは覚醒しても特に強化点が見られなかった。言ってしまえば、大きくなって、ただちょっと太っただけだ』

「……」


 これは可哀そうだから、ココアには聞こえない様にしよう。


『で、ここにきて強化点がようやく見えた』

「それって?」

『おそらく、“種の方を覚醒させる”んだ』

「種を?」


 そういえばココアが巨大化した時、種も一緒に巨大化してたな。

 あれは俺が定期的にあげている『ダンジョンだね』。

 そうなったのも覚醒能力の表れってことか。


『ココア、もといシマリスクイーンはダンジョンだねを食って成長する。覚醒能力が種に関連していても不自然じゃない』

「たしかに」

『そして、さっき投げたのが「覚醒したダンジョンだね」。覚醒したらそれだけ影響力を持つってことだ』

「おお~」


 これは納得がいった。

 さすがえりとだ。


 俺はココアにもう一度寄った。


「ココアは分かっててやったの?」

「キュル!」

「おーそうかそうか! えらい!」

「キュルゥ!」


 フクマロとモンブランが優秀すぎて、どうしても末っ子属性が抜けきらないココアだけど、思いがけない所で役に立ってくれる。

 最近はこういう場面を何度も見かけるなあ。


 みんなが活躍して俺は嬉しい!


「キュル……」

「ん?」


 だけど、ちょっと手元が寂しそうにするココア。

 あれ、これはもしかして。


「種が恋しいの?」

「キュゥ……」

「はははっ。また家に帰ったらあげるからな!」

「キュル!」


 せっかく頑張ったのに最後に可愛らしいところを出してきた。

 本当に愛くるしいなあ。


 でも、自分の宝物をあんな風に躊躇ちゅうちょなく他の為に使えるって、すごいことだと思う。


 俺はココアをまたぎゅっと抱きしめてあげた。

 ああ、モフい。


「プク、プクゥ……」

「はははっ」


 モモンガーディアンも嬉し泣きをしている。


「良かったな」

「プクゥー! プクック!」

「おーおー、どうした」

 

 声を掛けると、モモンガーディアンはてってってと走り出す。

 そして、いくつかの作物を手に帰ってきた。


「プクク!」

「これをくれるの?」

「プク!」


 持ってきてくれたのはミニトマト、キュウリ、パプリカ、トウモロコシなどなど。

 生でも食べられそうで、新鮮で瑞々みずみずしい野菜たち。


 新鮮すぎてもはや輝いているというか、この環境あってこその野菜たちに見える。


「じゃあお言葉に甘えて!」


 ミニトマトをパクッ!


「うまー!」


 さらにキュウリ、トウモロコシもがぶりっ!


「なんじゃこりゃー!」


 甘さや味が食べたことないほどに濃く出ている!

 なんだこの美味しさは!


 俺も日本人だ。

 食べ物にはそれなりにこだわる。


 でも、ここまでのは口にしたことがない。

 もうポテンシャルそのものが違う。

 同じ野菜とは思えなかった。


「ワフフー!?」

「ムニャア!」

「キュルー!!」


 三匹たちもこれには大喜び。

 目を見開いてパクパクいっている。

 

「ありがとう!」

「プクー!」


 モモンガーディアンも嬉しそうに皮膜を広げた。

 自分の野菜が「美味しい」と言ってもらえて嬉しいのかな。

 ますます農夫さんみたい。


『頼む。絶対に持ち帰って来てくれ』

「えー、どうしよっかなあ?」

『おい!?』


 えりとからの通信だ。

 とぼけたフリをすると、珍しく取り乱した。


「冗談、冗談。ちゃんと聞いて持って帰るよ」

『ったくよー。てか、あっちはどうなったんだ?』

「あっち? 天空城のこと?」


 俺は後ろを振り返る。


 全体的に白色の芸術的な造りに、金色の縦筋。

 高くそびえ立つ壮大な天空城だ。


「ねえねえ、あそこって入っていいの?」

「プクッ!」

「おお!」


 モモンガーディアンは首を縦に振った。

 てことで早速、中へ潜入だ!





「お、おお……」

「ニャフゥ……」


 正面に回り、大きな入口から入ってみた。


 第一印象は豪華な教会。

 入口からレッドカーペットが敷かれており、何やら紋章が刻まれた大きな柱が左右に四本ずつ並ぶ。

 左右の上部にはガラス窓があり、陽の光が入ってくるおかげで中は明るい。


 そして、


「なんだこれ」


 入口から真っ直ぐ行ったところに講壇こうだん

 神父さんが、ここに本を置いてお話ししているイメージのあれだ。

 だがもちろん、教本は無い。


 代わりにあったのは「種」。

 ココアの持つような種ではなく、野菜の種。


「これ、もしかして畑に生えてる野菜の?」

「プクク!」

「やっぱり!」


 モモンガーディアンが頷いてくれた。

 となれば、ダメ元でも聞いておきたい。

 

「あのー、これって持ち帰ったりは……」

「プク!」

「やったー!」


 グッドサインをくれたモモンガーディアン。


 俺はそそくさとバッグに入れた。

 別に悪い事はしてないんだけどね。

 帰ったら育ててみよう。


 と思ったところで、ふと嫌な事を考えてしまう。


「城の畑が荒らされるのは嫌だなあ」


 ダンジョンの物に何を言ってるんだ、と自分でも思う。

 でも、モモンガーディアンが悲しむ顔が見たくないとも考えてしまう。


『それなら話は簡単だ』

「というと?」

『天空城をやすひろの所有物にすればいい』

「ええっ!?」


 えりとがとんでもない事を言ってきた。


『ダンジョンにおいて、建物は主張すれば第一発見者の物になるんだ』

「まじで!?」

『ああ。そもそも建物がほとんど存在しないが、そういう決まりだ。そうなれば、畑もやすひろの物ってことだ」


 それは知らなかった。

 俺は恐る恐るモモンガーディアンに聞く。


「この城を僕の物にすることって……」

「プクッ!」

「やっぱ軽い!」


 またしても「いいよ」のグッドサイン。

 おこがましいけど、なんとなく分かってた!


 そうなれば!


「モンブラン!」

「ニャフ?」


 モンブランを呼んで俺は耳打ちした。


「頼めるか?」

「ニャッフー!」


 快諾してくれたモンブランは早速入口へ。

 そして、


「ニャフフフ! ムニャ!」


 高速のかまいたち。

 入口付近の壁に文字が刻まれた。


『やすひろ城』


 これで完璧!

 もう完全に俺の別荘だね!

 後でギルドにも正式に申請するけど!


『ぶっ、あっはっはっは! お前天才だろ!』

「そう?」

『ああ、今世紀最大のバカだ』

「どっちだよ!」

『バカと天才は紙一重ってな。あー面白え』


 むう、好き勝手言いやがって。

 とにかく城はこれでよし。


「さてと」


 世界樹の頂上でやることは終えた。

 あとは帰るだけなんだけど。


「プク……」


 モモンガーディアンは寂しそうな顔をした。

 俺はすでにそう・・だと思っているけど、正式に言った方が良いよな。


「俺たちと一緒に来ないか?」

「……! プクー!!」

「ははっ。可愛いなあ!」


 モモンガーディアンは抱きついてきた。

 皮膜で覆われてとても気持ち良い。

 よっぽど仲間になりたかったみたいだ。


「それに、実は名前はもう決めてたんだ」

「プク?」

「君は今日から『タンポポ』だよ!」

「プククク!」


 白くてふわふわ、モフモフな体毛。

 真ん丸なそれがふわっと飛び立つのは、まさにタンポポのようだったからだ。

 

「よろしくな! タンポポ!」

「ワフ!」

「ムニャ!」

「キュル!」


 みんなもすでに仲間だと思ってたみたい。


「プク……プクゥー!」


 モモンガーディアン、改めタンポポは嬉しくて泣き出してしまった。


 いたずらっ子でちょっと泣き虫。

 もしかして、ココア以上に末っ子ちゃん?


「じゃあ早速だけど、一つ良いかな?」

「プク?」

「後ろに乗せてほしい!」

「プクー!」


 タンポポは皮膜を横に広げた。

 初仕事にワクワクしているみたい。


「行っくぞータンポポ! それ!」

「プクゥー!」


 俺はタンポポに乗り、雲の上の世界樹の頂上から気持ち良い空の旅を満喫して帰った。


 こうして、新たな別荘『やすひろ城』に、新たな家族『タンポポ』を加えて、俺たちは優雅に帰るのであった。

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