第34話 世界樹の頂上

 「突然ですが! 僕は今、どこにいるでしょーっか!」


 配信を付けていきなり一言。

 加えて、周りはほとんど暗闇、見えるのはスマホのライトが照らす小範囲のみ。

 

《???》

《どうしたやすひろ》

《ついに狂ったか?》

《てか暗くない?》

《何も見えないね》

《後ろのそれなんだ?》

《木の幹みたいな……》

《木にしては太すぎない?》


 当然、視聴者は困惑する。

 それなら、さっさとネタばらしをするか!


「ここでーす! ここ、ここ! 僕は今、本物の世界樹の中腹にいまーす!」


《は?》

《!?》

《本物の世界樹!?》

《何言ってるんだ!?》

《え、え??》

《開幕からアホだろwww》

《ぶっ飛んでて草》

《もう唯一無二ww》


「ということで、こんばんは。実はですね──」


 さすがに視聴者を置いてきぼりにし過ぎたので、ここらで一度、経緯を説明することにした。


 俺たちが探索している『新興ダンジョン』は、現実と時間軸がリンクしている。


 その為、難易度がすごく高いジャングルのような『新興ダンジョン』を、夜に探索するのは大変危険。

 そこで一度引き返すことを考えたが、いま共に探索をしているモモンガーディアンにどうしても今日・・来て欲しいとお願いされた。


 入口から世界樹のふもとまで、半日は必ずかかるからだ。

 何やら緊急事態らしく、俺たちは泊りがけで世界樹を登ることを決めた。

 この上にある、モモンガーディアンが助けを求める「何か」を目指して。


 そして、今。

 時刻は夜の10時。


 世界樹の中腹あたりまで来たが、さすがにこれ以上探索をするのは困難の為、ここでテントを張って朝を待つことにした。

 それだけでも半日分は早く探索を進められる。


 で、なんか暇なので配信をつけた。

 配信用カメラは持ってきておらず、スマホ配信だけど。

 えりとからは「ここだけなら良い」と配信許可をもらってます。


「そんなところですね」


《相変わらずすごい行動力》

《ダンジョン難しいんじゃないの?》

《先行隊が苦戦してるのにすいすい進むなw》

《だからみんな覚醒してるのか》

《モモンガ可愛い》

《場所は大丈夫なの?》

《風とかは?》


「そうだなあ……」


 スマホを片手に周りを見渡しながら説明をする。


 テントを余裕で張れるだけの巨大な葉がたくさんあるので、場所を確保できると共に、それを盾にすれば風も防げる。

 本物の世界樹のスケールには圧倒されるばかりだ。


 外敵対策としては、三匹に交代で見張りをしてもらっている。

 未だに覚醒した姿ということもあり、歯向かってくる魔物は中々いないけど。

 ここはかなり標高が高いしな。


 そして、ふと上の景色が目に付く。

 そうだった、俺が配信を付けた理由がもう一つあったな。


「これを皆さんと共有したくて」


 スマホを空へと向けた。


 上を見上げれば、全天に広がるのは綺麗な星々。

 星座には詳しくないが、地球のそれとは全く違って見える。

 だいだいに青、赤、黄……と、より色とりどりだ。


 どうしてダンジョンの空に星が、とかは知らない。

 頭の悪い俺に聞かないで。


 星が綺麗だから眺める。

 それだけで良いと思うんだ。


「どうでしょうか」


《きれい!!》

《すっごー!》

《素敵……》

《東京じゃまず見れない》

《いや田舎でもここまでのはないぞ》

《星座や星が全然違う》

《不思議だなあ》


 思い思いのコメントをくれるみんなも見惚みとれているみたいだ。

 これを共有できただけでも、配信をつけた価値があったかな。


 そうして、


「うおっ! なんだ!?」


 葉のバリアから風が抜けてくるのと同時に、後ろから包まれる感覚。

 モモンガーディアンの皮膜だ。

 少し背を預ければ、モフっとした感触もある。


「守ってくれたの?」

「プク!」


 モモンガーディアンは頷いた。


《かわいいー!》

《良い子ちゃん》

《偉いね~》

《あれ、もう仲間?》

《やすひろ好かれすぎw》

《モッフモフや》


 もし、モモンガーディアンの事を解決できたあかつきには……。

 って、まだ考えるのは早いか。

 

 俺はスマホを自分側に向けた。


「では、今日は短めにこの辺で。明日は早朝から登らないといけないので!」


《そっかそっか》

《残念だけど仕方ない》

《ありがとう!》

《綺麗だったよ!》

《星空すごかった!》

《配信者のかがみ

《無事に帰って来てね!!》

《おかえり配信待ってるよ~》


「はははっ。それでは~」


 みんなの温かなコメントを見ながら配信を閉じた。


 やっぱりそうだ。

 視聴者はいつも俺に力をくれる。


 よし、明日は頑張るぞ!







 翌日、めっちゃ早朝。


「うっしゃあ! 行くぜ!」


 夜空が白けだし、陽が顔を出し始めた時間から声を上げる。

 朝の弱い俺だけど、今日はなんか頑張って起きられた。


 モモンガーディアンが包んでくれて、ぐっすり眠れたおかげかな。


「もう少しだ。行こうモモンガ!」

「プクー!」


 早速、俺は頂上を目指して登り始めた。





「もう少しだぞ、みんな!」

「ワフ」

「ムニャ」

「キュル」


 フクマロのモフモフから振り返ると、まだまだ元気そうなペット達。

 覚醒した三匹はモモンガーディアンに乗れないし、まだ安心感の差から俺はフクマロに乗っている。


 巨大な幹や葉を軽快に登って行き、かつ俺には衝撃を少なくしている。

 本当にすごい魔物だよ。


 それに、モモンガーディアンに乗らない理由がもう一つ。


「キュルー」

「ム、ムニャア……」

「プク……」


 巨大化してちょっとふっくらしたココアを、下から押し上げる役割がある。

 俊敏さという点ではココアは劣るので、下からモンブランとモモンガーディアンに補助してもらっている形だ。


 ま、まあ、世界樹に辿り着くまでもすごく活躍したし、ここはみんなで協力して登ろうじゃないか、ははは。





 そうして、木登りを再開してしばらく。


「見えたぞ!」


 雲の上にまで続く世界樹。

 ついに、その雲の境界が目の前に迫った。


 俺は声を上げる。


「フクマロ! 飛べー!」

「ワフー!」


 フクマロの跳躍ちょうやくで一気に雲を突き抜ける。

 ぼふん、とふんわりとした感触に顔を包まれたが、それも一瞬。


「……! すげえー!」


 辿り着いた、世界樹の頂上。


 陽の光は生きて来た中で一番近い。

 葉の部分と雲が入り混じって出来る白一面の足元は、子どもの頃に夢見たまんま。

 まさに、ファンタジー世界のような圧倒的な光景が目の前にあった。


「まじかよ……!」


 さらに、遠くに見えるは豪華な『天空城』。

 白を基調として、所々に金の線が混じった高くそびえ立つその城は、ロマンそのものだ。


「ニャフッ」

「キュルッ」

「プクッ」


 俺が捕まるフクマロに続いて、三匹も雲を突き抜けて頂上に着地。

 ワクワクのままにモモンガーディアンに尋ねる。

 

「あれが、あの天空城が、君が守っていたのものなのか!」


 何かを守るとされることから、「ガーディアン」の名が付くモモンガーディアン。

 俺は期待を寄せて聞いた。


「プク、プク」

「……え、違うの?」

「プク」


 しかし、答えはNO。

 思わず間抜けな返しをしてしまう。


「プククッ!」

「あ!」


 モモンガーディアンは皮膜を広げて飛んで行く。

 付いてこい、ということか。


「フクマロ、追ってくれ」

「ワフ」


 ここは素直に従おう。




「おおおーっ!」


 そして、目の前に迫ったとんでもなく立派な天空城を


「プクー」

「……」


 軽くスルー・・・・・し、モモンガーディアンはスイーと飛ぶ。

 ちょっと悲しい。


 中には誰もいないのかな?

 あとでぜーったいのぞいてやるからな!

 

 そうして、天空城の裏に回った辺り。


「プク!」

「!!」


 視界を埋め尽くしたのは、


「なんじゃこりゃあ!」


 白くてふわふわな雲の上に、広大な大地。

 もちろん、たくさんの作物の生えている。

 だけど、様子が変だ。


「作物が枯れてる?」


 畑から生えた作物は色が悪く、しぼんでいる。


「プク……」

「!」


 枯れた作物を眺めながら、モモンガーディアンは悲し気な表情をする。

 

「もしかして、君はこれを見てほしかったの?」

「プク」


 なるほど。

 何かを守っていると言われる「モモンガーディアン」。

 

 その正体は……ただの農夫やないかーい!

 

「プクゥ」

「おっと、ごめんごめん」


 のんきにツッコミをしている場合ではないか。

 モモンガーディアンが早く上に俺たちを連れて行きたかったのは、この作物が完全に死んでしまう前に、どうにかしてほしかったからなんだな。


「けど……」


 どうする。

 俺にはそんな知識がないし。


「えりと、何か分かるか」

『急いでサーチをかけてるが……まさかそうくるとはな』

「だよな」


 えりとは生粋の研究者でありエンジニア。

 ある意味、農作とは真反対の人間だ。


「どうしたもんかなあ」

「キュル」

「……ん?」


 そこに、名乗りを上げるのはココア。


「ココア。何か分かるのか?」

「キュルゥ!」


 ココアは元気に手を上げた。


 そういえば、ココアは世界樹のふもとの時点でやけに反応を示していた。

 モモンガーディアンに付いて行く決め手となったのも、ココアだ。


 もしかして、登る前から何かを察知していた?

 種に関連する魔物だし、ココアならもしかしてもしかするのか?


「ココア。任せていいか」

「キュルー!」


 ココアは自分の種を思いっきり畑に投げつけた──。

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