第33話 いたずらっ子なモフモフ

 「なあ、フクマロ」

「ワフ?」

「もう、あれ捕まえるの無理じゃね」

「ワフ」


 わかる、と言ってくれた。


 眩しい光が照り付ける中、周りではザパーンと音がしている。

 湖の近くでごろんとしているからだ。


「モフい」


 中でも、俺は覚醒フクマロを枕にしている状態。

 モフモフと涼しい風がマッチして気持ちが良い。


「ここでのんびりしよう」

「ワフゥ」


 俺はゆっくりと目をつむった。

 

 どうしてこうなったかって?

 それはな……って、来た・・


「プクー?」


 俺はカッと目を開く!

 あの飛ぶ魔物だ!


「フクマロ! 今だ!」

「ワフー!」


 フクマロはそばの木を蹴って飛翔。

 飛ぶ魔物に思いっきり飛びつく。


 さすが覚醒した姿の跳躍力!

 これなら今度こそ!


「ワフ~!」

「プククッ!」


 しかし、ギリギリのところで届かず。

 フクマロはポテっと地面に落ちてくる。


「プック〜」

「ちくしょー!」


 そうして、魔物はまた飛んで行ってしまった。

 大きな手を横に広げて、モフモフが滑空していったようにも見える。


「“諦めたフリ作戦”もダメか!」

「ニャフゥ」

「キュルゥ」


 そう、さっきのぐーたらはあくまでフリ・・

 作戦の一つだったのだ。


「逃したのは三回目だ。くぅ~!」


 あのモフモフを追いかけて三千里……ではないけど、とにかくおちょくられた借りを返すべく追いかけ続けてきた。


 覚醒した三匹の最強ペット達なら容易に捕まると思ったが、ことごとく失敗している。


 あの魔物が飛んでいるからだ。

 うちで一番の跳躍力を持つフクマロでもあの高さには届かない。


 それほど制空権というは絶対だ。

 

『今回も失敗か』

「ここまでうまくいかないとは……」

『俺としてはデータが集まって助かってるけどな』


 えりとの通信だ。


 あの魔物を追うためには、ダンジョンを進む必要がある。

 俺は夢中になって追いかけていただけだが、難所ポイントはいくつかあったらしい。


『まじで頼もしいやら、先行隊を思うと悲しくなるやらだな』

「俺、なにかやっちゃいました?」

『その主人公ムーブをやめてくれ』


 軽口を叩いてるあたり、えりともペット達の心強さに安心感を覚えているみたいだ。


『やっぱり、あれ・・を目指すしかないんじゃないか』

「そうかもなあ」


 えりとが言ったであろう物を見つめ、俺も返事をした。


『世界樹を目指そう』

「だな」


 ダンジョンの最奥にそびえ立つ一本の木。


 あの飛ぶ魔物も、さっきからあそこへ誘っているように見える。

 ……ずっと俺たちをおちょくりながらな。

 あのいたずらっ子め。





 そうして、


「辿り……着いたぞ……!」


 俺たちは世界樹のふもとまでやって来た。


『いや、着くなー!』

「え?」


 そこに、えりとのツッコミ。

 俺は思わず間抜けな声で返事をする。


『そこまで誰も到達してねえんだよー!』

「そうなの?」

『まじでお前、いつから主人公なったんだよ』

「そっちの方が展開早いじゃん」


 まあ、覚醒ペット達もいるし多少はね?


『しかもちょっと演出してんじゃねえ。結構余裕で辿り着いただろ』

「てへへ」

『ったく。もうツッコみ疲れたぞ』


 えりとの話を聞きながら、俺は見上げた。


 軽口を叩けるのもここまで。

 ここからはいよいよ・・・・だ。


「……ッ!」

 

 これが世界樹か。


 たしかに畑に生えたものとすごく似ている。

 木の感じ、枝の生え方なんかそっくりだ。


 でもやはり、サイズが圧倒的に違う。


「上が見えねえ……」


 畑に生えたのはせいぜい35メートル。

 それでもめちゃくちゃ大きいんだけど、目の前の『世界樹』はもうそういう次元じゃない。


「さて──」

『ダメだぞ』

「えりと!」


 だけど、いざ登り始めようとした時、えりとに止められる。


「どうしてだよ」

『時間だ。周りを見てみろ』

「ま、まあ……」


 俺は後ろを振り返った。


 辺りは夕方。

 探索を進めていく内に、このダンジョンは現実世界の時間とリンクしていることが分かった。


 つまり、帰りの時間も考えるとここで引き返さなければならない。

 ただでさえ危険なのに、夜のジャングルの怖さは知れたものではないからだ。


「そうだな。じゃあみんな帰──」

「キュルル!」

「ん? ココア?」


 俺が帰ろうとすると、ココアが声を上げる。


「あ!」

「プクー!」


 俺たちが追っていたモフモフだ!

 今まで一番近い!

 今だったら!


 俺は魔物図鑑をかざした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

モモンガーディアン

希少度:EX(規格外)

戦闘力:S

 

あしと後脚の間にある「皮膜ひまく」を利用して、空を自由に飛ぶモモンガの魔物。

滑空だけでなく、魔物ゆえの筋力を生かして自ら浮上することも出来る、魔物界における空の支配者。


一説には何かを守っている・・・・・・・・とされることから「ガーディアン」の名が付くが、詳しい生態は不明。

動物のモモンガより体型がふんわりとしており、見るからにモフモフだが、飛行高度からそれを味わった者はいない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「モモンガ!」


 俺は思わず声を上げた。

 素晴らしい響きの名に興奮したからだ。


「プクッ!」


 そして、モモンガーディアンは枝に着地した。

 さらに俺たちとの距離が縮まったのだ。


 ここまで接近して、ようやくその姿があらわになる。


 白に若干茶色みが混じったモフモフな毛並み。

 尻尾は長く、体と同じぐらいの長さだ。

 くりんとした瞳と真ん丸な体型はリスのようで、モモンガの中でも日本に住むような生態に近いかもしれない。

 

 ただ、サイズは覚醒した三匹と同じサイズ。

 自慢の皮膜を広げた時は、三匹よりさらに大きいだろう。

 あちらも覚醒しているのだろうか。


「プクッ!」

「俺たちを呼んでいるのか?」

「プクー!」


 モモンガガーディアンは「上へ行こうよ!」と誘ってくる。

 ようやく世界樹まで辿り着いてくれたことが嬉しいのか、可愛らしい顔は喜んでいる様にも見える。


 だけど、


『ダメだ。引き返そう』

「えりと……」


 えりとは耳元でこう言う。

 ここまで来て、とは思うけど命には変えられない。


「ごめん。また今度に──」

「プク! プクゥ!」

「え?」


 気まずいながらも視線を逸らしたが、今度は「お願いだよ!」と懇願こんがんしてきたように見えるモモンガーディアン。


「まさか、上で何かが起きている?」

「プクク!」

「……!」


 モモンガーディアンは頷いた。


 今までのいたずらっ子の雰囲気じゃない。

 ここにきて、本当に俺たちを頼っているみたいだ。


 もしかして、おちょくっていたのは俺たちをさっさとここに招くため?

 案外すんなりと進んでこれたのも、こいつが安全なルートを誘導してくれていたからなのか?


「キュル!」

「ココア! 行くべきなのか?」

「キュルル!」


 さっきからココアが過剰に反応を示している。

 モモンガーディアン同様、どこか焦っている様子だ。


 俺は拳をぐっと握りしめる。


 たしかにこの先は危険だ。

 でも、行くしかない。

 そう直感した。


「えりと」

『……分かったよ』

「わるいな」


 えりとが椅子から離れる音がした。

 言う事聞かなくてごめんな。


 俺は通信を切ろうとする。

 しかし、


『残業代は出るんだろうな』

「え!」


 再びえりとの声が。

 なんだよ、気合を入れて座り直しただけかよ!


『最後までサポートするに決まってんだろ!』

「えりと!」


 やっぱり頼りになるぜ! 相棒!


『だが最後に警告だ。正直、世界樹を登るなんて未知の世界にも程がある。それでも行くか?』

「もちろんだ!」

「ワフ!」

「ニャフ!」

「キュル!」


 俺に続いてペット達も気合いを入れ直した。

 準備は万端ばんたんだ。

 

「プクゥ……」

「はははっ。そんな顔すんな!」


 泣きそうな顔をするモモンガーディアン。

 俺たちが来てくれると分かったからかもな。


「上まで案内してくれ!」

「プクゥ!」


 こうして俺たちは、暗くなるのが分かっている中、未知の世界「世界樹」の攻略を開始した──。

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