第37話 超お金持ち学校の文化祭にゲスト参戦! 前編

 「「「本日はよろしくお願いします!」」」

「お、おお……」


 今回ゲストとして参戦する美月ちゃんのクラス、三年A組。

 その出し物をする食堂にやってきたら、いきなりのそろった挨拶あいさつだ。


 さっきは「ごきげんよう」とかリアルで聞こえたし、高校生の時点から人間力の差を感じる。


「こちらこそです。今日はお呼び頂いて光栄です。少しでも力になれたらと思います。な、みんな?」

「ワフ!」

「ムニャ!」

「キュル!」

「プク!」


「「「きゃー!」」」


 だけど、四匹がペコっとした瞬間にお上品さは崩れた。


「あの、触っても?」

「ワフ!」

「自分で返事した~!」


 それからはしばし騒ぎに。

 いつも通りだなあ、と思っていたところに美月ちゃんが寄ってくる。


「やすひろさん。今日は本当にありがとうございます」

「いいんだよ。あんなことをしてくれたわけだしさ」

「あれぐらいは……当たり前ですよ」


 ちょっと照れた美月ちゃん。

 もちろん「ぽよちゃんに手伝ってもらった件」なのだが……


「あんなこと?」

「一体どんなことだ?」

「おいおい、まさか」


「ちょっとそこ!? 違うからね!?」


 ちゃんと男子高校生の妄想する奴らもいた。

 なぜかちょっと安心。


「じゃあ改めて説明しますね」

「よろしく」


 美月ちゃんが改めて概要がいようを説明をしてくれる。


 今日は『金英高校文化祭 Day1』。

 メディアやゲスト参戦が認められた日で、全三日間ある文化祭で今日だけ各学年ごとに売り上げの順位が出る。

 クラスはA~Hの全8クラス。


 一年は各教室、二年は中規模教室、三年は体育館や食堂などの大規模施設を使って良いそうだ。

 つまり、三年の戦いが最も熾烈しれつになる。


 さっき見ただけでも、歌手から芸能人、男アイドルグループ全員連れてきたところなど、それはもうすごいメンツだった。

 ゲストは一組までなので、そんな貴重な枠に俺を選んでくれたのだから、頑張って期待に応えようと思う。

 

「それと、今回はあえての食堂です」

「あえて?」


 食堂の位置は入口から一番奥。

 客足が伸びにくいと思ったけど、それには理由があるそう。


「わたしたちの出し物は『癒しカフェ』。他と比べて滞在時間が長くなるかもしれませんが、それを許容スペースで補う算段です」

「なるほど」


 校舎群からは少し離れにあるこの食堂。

 場所は少し不利だが、その分広い・・

 一階と二階があるぐらいだからな。


「どのクラスも取りたがらなくて助かりました!」


 美月ちゃんだけでなく、みんなの目が真剣だ。

 ここまで考えられているし、本気で勝ちに行くのだろう。


 俺の高校時代は文化祭を楽しめなかったからな。

 今回は精一杯やるぞ!


「やすひろさんもタンポポちゃんの演出で、興味はかなりこちらに向いていると思います。スタートダッシュから頑張りましょう!」


「「「おー!」」」


 クラスのリーダー的存在の美月ちゃんに続いて、みんなと声を出した。

 文化祭Day1開催だ!







<三人称視点>




「急げ~!」

「早くしないと座れないよ!」

「ほんっと楽しみ!」


 ついに開催された金英高校文化祭Day1。

 先行して取材を許されていたメディアに続いて、たった今、ついに一般向けに入口が開放された。


「場所どこだっけ!」

「一番奥だって!」

「席取らなきゃ!」


 客の足は例年よりかなり早い・・

 若い女性を中心に、屋台などを無視してずんずんと進んで行く人たちの目的地は一つ、一番奥の食堂だ。





 開催から一時間、食堂。


「いらっしゃいませ」

「ワフッ!」


 解放された自動ドアに入ってすぐ、出迎えてくれるのは生徒とウエイトレスの姿をしたフクマロ。

 目銅佐めどうさオーナーが張り切って作った特注品だ。

 ちなみに今は仕事中の彼女も、昼頃に会社を抜け出して訪れるつもりである。


「きゃ~!」

「可愛い!」


 店に入った女性たちはメロメロ。

 早速スマホでパシャリ。


「では、お二階へどうぞ」


 そして、階段の手すりを行き来しているのは


「ニャッフ~」


「きゃー!」

「モンブランちゃん!」


 ウェイターの姿をしたモンブラン。

 一階と二階を行き来するお迎え役のようだ。

 もちろんこれも目銅……以下略。


 さらには、


「キュルッ!」

「プクー!」


 食べ物をせっせと運んできてくれるココアに、呼ばれた席に遊びに来るタンポポ。

 四匹とも賢いので渋滞を起こすようなこともない。


「きゃわ~!」

「もう無理ぃ」

「可愛すぎる!」


 結果、お客さんは大満足だった。


 四匹の他にも生徒のペットや魔物がお手伝いをしてくれているが、やはり人気はやすひろのペット達。


「フクマロ君! こっちこっち!」

「ワフ!」


「モンブランちゃん!」

「ムニャア?」


 圧倒的にファンサービスが良いからだ。

 加えて、賢い最強種族達は疲れもせず、お客さんの気遣いまで出来る。


「すみませんお客様。そろそろお時間で……」


「うぅ、残念!」

「また来ます!」

「てかもっかい並ぼ!」

 

 そんな大盛況ぶりに、一テーブルあたりの滞在時間も設けられているのも関わらず、外までずらりと並ぶ事態に。

 リピーターも多数いるためだ。

 

 ちなみにペットと言えばもう一匹。


「ぽよー!」

「ぽよちゃん、こっちも頼める?」

「ぽよっ!」


 美月のスライム「ぽよちゃん」は、その特技を生かして裏方で仕事をしていた。

 たまに表に出て来た時は軽い騒ぎになり、SNSで拡散され、姿を見れなかった者がまたリピートしたという。





 そうして、昼休憩。

 文化祭Day1では、生徒やゲストの疲労、出し物の再準備なども考えて、屋台等を除いて昼休憩が設けられる。


 客がいなくなった食堂では、笑顔の三年A組が見られた。

 そこにさらなる吉報が。


「みんな、午前の結果が出たよ!」


「おお!」

「どうだった?」

「緊張する!」


 美月は笑顔で報告する。


「午前は圧倒的一位だよ!」

「「「おおおー!」」」


 まさに他を寄せ付けないほどのダントツ一位だった。

 そして、それを一番驚く一般男性。


「まじかよ!」


 低目野やすひろだ。


「やすひろさんのおかげです!」

「みんなもありがとう!」

「モフのおかげだよ~!」


 馴染みやすさから、すでに下の名で呼ばれるやすひろ。

 周りのゲストのメンツを見た時は自信喪失そうしつしていたが、何か貢献できたかと思うと嬉しくなる。


「午後も頑張ろう!」


「「「おー!」」」

「おー!」


 この調子なら一位は間違いない。

 誰もがそう思ったところに、厄介な奴らが来る。





「あれ?」


 昼休憩が終わり、美月がふと口を開いた。


「もう13時になってるよね」

「なって……るね」


 午後の部開始時刻である13時になったにもかかわらず、誰一人客が来ないからだ。


 SNSでエゴサした時は「昼から行く!」のようなツイートがたくさん見られた為、少し不自然に感じた。


「まあ、ちょっと遠いからかな」

「それもそうかも」


 美月たちはそうとらえることにしたが……


「あれ、やっぱりおかしくない?」

「もう10分経ってるのに」


 開始から十分経っても誰も客が来ない。


(たしかに妙だな)


 やすひろがそう思っていたところに、スマホの着信が。


「ごめん美月ちゃん、ちょっと連絡が」

「あ、どうぞどうぞ」


(相手は、お、目銅佐オーナー)


「もしもし。どうしました?」

『ちょっとやすひろさん! まだ休憩は明けないんですか!』

「え?」


 休憩はとっくに明けている。

 オーナーの不可解な言葉には首を傾げるやすひろ。


「いや、もう明けてますよ。なんなら誰も来なくて──」

『え、じゃあ! これは!?』

「これ?」

『写メ送ります!』


 ひと昔前の言葉を使いながら、オーナーは写真を送ってきた。

 やすひろはメッセージのそれを確認する。


「なっ!?」


 そこには『休憩延長。再開の目途は立っておりません』との看板。

 さらには、ボディガードのような黒スーツ黒サングラスの男達が並ぶ。


「なんだこれ!」

『食堂に続く一本道にいますけど、もしかしてやすひろさん達がやったのではないのですか?』

「こんなことやってませんよ!」


 突然の事に取り乱すやすひろ。

 さらに、生徒たちにも次々に友達からメッセージが届いたよう。


「なんか入口が塞がれてるって!」

「どういうこと!?」

「誰かが邪魔してるの!?」


『やすひろさん! SNSもおかしなことに!』

「え?」


 やすひろは急いでSNSを確認する。

 今回の為に付けられた『#やすひろと癒しカフェ』だ。


『癒しカフェ中止だって』

『まじかよ楽しみにしてたのに』

『午前の売り上げも不正じゃね?』


 そこにはありもしない事実がツイートされている。


「なんだこれ!」

『やすひろさん、これ買収アカウントかもしれない!』

「買収?」

『はい! 私の経験上の特徴と一致するものばかりです!』


 オーナーはSNS戦略にも強い。

 経験上、そうだと分かるらしい。


『やすひろさん、このままだと──って、きゃっ!』

「オーナー!? どうしました、オーナー!」

『プー、プー……』

「切れた……」


 そして突然着信が切れる。

 

(何か男の人の声が聞こえたような)


「やすひろさん! どうしよう!」

「美月ちゃん……」


 振り返った先では混乱が広がる生徒たち。

 その場で顔を抑える生徒たちも見える。


(誰がこんなことを……!)


 今すぐにペット達を派遣すれば黒服なんてボコボコに出来るだろう。

 しかしその様子が拡散されれば、あわや炎上する事態まで発展することが分かっているやすひろ。


 ましてや、相手は大量の買収アカウントまで使う厄介さ。

 ここは迂闊うかつに動けない。


「ねえ、どうするの!」

「ちきしょう!」

「頑張って準備したのに!」


「くっ……!」


 悔しくても解決策が思いつかないやすひろ。

 そこに一件の着信が。


『おいおい、面白えことになってんな』

「……!」


 頭脳担当、えりとだ。


『SNSが妙なことになってんなと思ったら、そういうことかよ』

「事情を知ってるのか!」

『めどさんが黒服に連れられそうになってたからな。先に確保して話を聞いたんだよ』

「……!」


(さっき急にオーナーの通信が切れたのは、えりとだったのか!)


『めどさんはとりあえず大丈夫だ。だが、問題はそっちだな』

「そうなんだ! どうしたらいい!」

『指示をする。五分待ってくれ』

「ああ、ああ……!」


 こんな時に頼りになる男、えりと。

 ただやすひろは、えりとにゾクっとする何かを感じていた。


『相手に俺がいてこんなことをするとはなあ。どこのアホかは知らねえが、絶対に後悔させてやるよ』

「えりと……!」


 それを言い残して、えりとの通信は切れる。


 そして、ちょうど五分後。


「これは……!」


 えりとから送られてきたのは逆転の一手だった。

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