第26話 三匹目!~生命の神秘~

 「キュル……キュル……!」

「!」


 シマリスクイーンの息遣いが荒らい。

 これ、もしかして……?


「ワフ」

「ムニャ」


 フクマロとモンブランはお互いに頷き合って、それぞれ違う方向に歩き出した。

 

 フクマロは俺たちがやってきた側。

 ここに辿り着くまでの道方面を気高く眺める。

 敵が来ない様、見張っているのだろう。


 一方で、モンブランはシマリスクイーンに寄り添う。

 近くに居座り、シマリスクイーンを落ち着かせているみたいだ。


 二匹は二匹なりにするべき事を考えたらしい。


「やっぱりそうか」

「ワフ」

「ニャ」


 俺の予想は当たっていた。


「キュル、キュル……!」

懐妊かいにんしているのか」


 シマリスクイーンは子を宿している・・・・・・・

 それも、出産寸前だ。


「どおりで……」


 俺はやってきた方を振り返る。


 シマリスクイーンの咆哮によって、『まあまあの密林』の中ボス達はおびえていたように見えた。

 シマリスクイーンが荒立っていたからだ。


 けど、それと同じぐらい俺たちを通したくなかったのかもしれない。


 この密林のボスが子を産む瞬間に。

 生命の神秘の瞬間に。


「ボアァ……」

「グオオ……」

「!」


 ポイズンフラワーにネイチャーゴーレム。

 さっきまでやり合っていた中ボス達も姿を現した。


 だけど敵対心はない。

 俺たちが邪魔する存在じゃないと分かったのだろうか。


《なんだこれ……》

《なんかいいな》

《魔物ドキュメンタリー?》

《ちょっと感動してる》

《貴重な資料映像》

《映画化してもいい》


 コメント欄もさっきまでとは違って穏やかだ。


「……」

 

 俺たち人間は日々魔物を狩っている。

 それで生活している人もいるし、否定しようとは思わない。

 俺も魔物を狩って魔石を獲っているわけだしな。


 ただの綺麗事かもしれない。

 でも、今日ぐらい良いじゃないか。

 ボスが新たな命を産む瞬間ぐらいは、手を取り合って見守ってもいいじゃないか。


 そう思えた。

 そして、時は来る。


「キュ、キュルゥ……」


 疲れた親シマリスクイーンの声。

 その代わりに辺りに響いたのは、元気な声。


「キュルルー!」


 小さなシマリスクイーンが生み出された。

 子シマリスクイーンの誕生だ。


「可愛い……」


 モンブランが大きな葉で隠していた下腹部から、ひょっこりと姿を現した子シマリスクイーン。

 

 体は50cmほどで、控えめに頬とお腹がぷくっとしている。

 体の色は親ゆずりで、焦げ茶色のモフモフな毛並み、縦に入った黒い線は健在だ。


「キュルキュル?」


 まだ状況が理解してきれれていないのか、可憐な瞳をきょろきょろとさせて健気な鳴き声を出す。

 めちゃくちゃ可愛い。


「良かったな」

「キュルゥ……」


 親シマリスクイーンも安堵あんどの表情を浮かべた。

 だけど、何やらそれだけじゃないみたい。


「キュル」

「え?」


 親シマリスクイーンは子シマリスクイーンの背中を押す。

 さらに俺と目を合わせて、ゆっくりと頷いた。


「受け取ってほしい、ってことか?」

「キュル」

「いや、でも……」


 いま生まれてきた子を受け取るなんて。

 そんなこと出来るわけがない。


 だが、耳から情報が声が届いた。

 えりとの通信だ。


『受け取ってやってくれないか』

「何を言ってるんだよ!」

『……シマリスクイーンの生態上、子はすぐに森へ出させるんだよ。やすひろが受け取るか否かに限らず、親とはここでお別れだ』

「えっ」


 えりとは続けた。


『それが生態ってもんだ。生まれた子も遺伝子的に理解している。何ら不思議なことではないんだ』

「そうなのか……」

『ああ』


 えりとは少し悲しそうな声色だ。

 色々と研究をしているがゆえの感情なのかもしれない。


『さらに言えば、子を森に送り、ボス並みに強くなって帰ってきたものだけがボスの座につける。個体が少ないのはそういう理由だ』

「その確率は……?」

『ほぼゼロだ』

「なっ!?」


 せっかく子を生んだのに、ほとんど帰ってこないって言うのかよ。

 ボスになるというのはそれだけ大変なことなのか。


『それが弱肉強食の世界だ。だが』

「?」

『お前が受け取れば、その子は確実に育つ』

「たしかに……」


 その言葉で、俺の気持ちはほとんど決まっていた。


『そいつは近年でも明らかに一番強い個体だ。本来より知能も発達して、その内に母心も芽生えたのかもな。子に長く生きてほしいと思っているのが見える』

「なるほど」 


 シマリスクイーンは体がデカいほど強いって、図鑑に載っていたな。

 俺は親シマリスクイーンと目を合わせた。


「いいのか?」

「キュル」


 親シマリスクイーンはゆっくりと頷いた。

 俺やフクマロとモンブランを信頼して任せたような表情だ。


「こっちへきな」

「キュルッ!」


 そして、子シマリスクイーンを手で招く。

 小さな体はひょいっと持ち上げることができた。

 毛並みのモフさは、フクマロとモンブランに全く劣っていない。


「俺と来たいか?」

「キュルー!」

「ははっ、そうかそうか!」

 

 最後に本人にも確認を取って、頭に浮かべていた“名前”を口にする。


「今日から君は『ココア』だよ」

「キュルルーッ!」

「お~嬉しいのか! 可愛いなあ」

「キュルッ!」


 焦げ茶色のモフモフな毛並み。

 見た時から、なんとなくその単語が思い浮かんでいた。

 

《名前はココア!》

《ココアちゃん!?》

《やばー超かわ!》

《モフモフだよお》

《またまたモフい~!》

《リスちゃん良いなあ》


 視聴者さん達も受け入れてくれているみたい。

 また、中には違うコメントも。


《最強クラスペットきたーw》

《しれっとボス魔物で草》

《また初のペットwww》

《将来有望》

《フクマロ師匠とモンブラン師匠の修行編開始》

《また頂点連れててワロタw》


 そう言われればそうかも。

 でも、強さもだけど可愛いからペットにするんだもん!


 この瞬間には、


「クォ~~ン!」

「ムニャ~~!」


 フクマロとモンブラン、


「ボアアァァ!」

「グオオォォ!」


 中ボス魔物達も鳴き声を上げる。


 気のせいかもしれないけど、遠くからは他の魔物達の鳴き声も聞こえた。

 もしかしたら、新たな命を祝福しているのかもな。


「よろしくな、ココア!」

「キュル!」


 こうして、俺は新たにシマリスの『ココア』をペットにした!







 ダンジョンから帰り、夕方。


「さてと」


 新たな家の畑を前にして息をついた。

 疲れているけど、今日はもう一仕事。


「種を植えていきますかー!」


 手に持つ……いや、体で支えるのは『ダンジョンだね』。

 俺の胴体より少し小さいぐらいの種は、持つだけで精一杯だ。

 軽いからまだ良いけど。


「せーのっ!」


 地面に投げると、ポスンと土に沈む。


「ごめん。後は頼んだ」

「ワフッ!」

「ムニャッ!」


 種はそれなりに深く埋めた方が良いとのことなので、二匹に任せる。

 俺はもう一匹の方に目を向けた。


「あれで良かったんだよね? ココア」

「キュルッ!」


 いくつか持ち帰った『ダンジョン種』。

 親シマリスクイーンが譲ってくれたのだ。

 

 親シマリスクイーンが自ら選んだのでハズレはないだろうが、その中でもココアは一つにすごく興味を示した。

 それが今、フクマロとモンブランが埋めている種だ。


 シマリスクイーンの「良い種を見分けられる」という特性は、子も持って生まれるそうなのでココアを信頼した。

 何が実るか本当に楽しみだ。


「ギャンブルではなくなったけどなあ」

「それも良いじゃねえか」


 呟きに返してくるのはえりと。

 急に後ろから現れやがった。


「ギャンブルもいいが、見えてる希望もアリだろ。まだ何が実るかは分からねーわけだし」

「まあな」


 なんか場をまとめようとしている。

 解説をやったりまとめ役になろうとしたり。

 最近キャラぶれてない? 大丈夫そ?


「ありがとな、やすひろ」

「え、なにが?」

「ココアを引き取ってくれてだよ」

「それのことか」


 ふとココアを見た。


 フクマロとモンブランが早速遊びに誘っているみたいで、ココアは付いていこうとしている。

 可愛い。


「俺こそだって。新たな家族・・が増えたわけだし」

「はっ、そうかよ」


 えりとは目を逸らして笑った。


 フクマロにモンブラン、そして新たにココアを家族にして、畑には楽しみな『ダンジョンだね』を植えた。


 まだまだたくさん楽しみなことが起こりそうだ。

 これからも、この楽しくのんびりなスローライフを満喫していきたいな!





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