第25話 密林の異変
「やってきたぜ、『まあまあの密林』!」
「ワフー!」
「ムニャー!」
俺たちは入口に入って両手を広げた。
周りからちょくちょく「やすひろじゃん」と言った声が聞こえてくる。
有名になったものだな。
そんなところに、イヤホンから声が届く。
『最近はよく行ってるだろ』
「バカめ、えりとお前バカめ。こういうノリが大事なんだ」
『はいはい、そうかい』
無線で繋いでいるのはえりと。
こいつは『探索者カード』を持っていないので、ダンジョンの時はお留守番だ。
今日は裏でサポートをしてくれるみたい。
「じゃあ俺も配信を始めるよ」
『了解』
そうして、俺は配信を開始した。
「こんにちは! やすまろの……いえ! 『やすまろ
《こんにちは~!》
《きたああああ》
《やあ》
《待ってたよ!》
《ん、って付けたね!》
《モンブランの名前も入って嬉しい》
早速視聴者さん達は来てくれる。
それと一つ、先日からチャンネル名を『やすまろ
本来のものに「ん」が入った形だ。
元の『やすまろのモフモフチャンネル』の中に、モンブランの名前も入れたかったからね。
モンブラン=栗=まろん、というイメージで「ん」を入れてみた。
これで、三人のチャンネルというわけだ!
「それと今日の配信なんですけど」
《タイトル珍しいよね》
《たまにはいいかも》
《フクマロとモンブランで楽勝でしょ》
《ガンガンいこうぜ配信》
《良き良き》
《本業の探索者涙目だ》
《探索者の者です。サクサク進んだら引退します》
今日の配信タイトルは『まあまあの密林を攻略するぞ!』だ。
「攻略」は初めて付けたかもしれない。
というのも、今日は明確に目的がある。
最奥に待つボスの元にある『ダンジョン
俺は畑でそれを耕す為、今日は真面目に攻略していく。
「進んで行きます!」
だが、すぐに異変は感じることができた。
「またか!?」
「ワフ!」
「ムニャァ!」
向かってくるのは
それも見たことないような数だ。
何度か
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ポイズンフラワー
希少度:B
戦闘力:C
大きな毒の花をした顔に、
『まあまあの密林』における中ボス的存在。
顔から強力な毒を出し、敵対者を動けなくする。
戦闘力は低めだが、凶悪さでは上位に立つ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ボアァー!!」
2メートルほどの体長を持ったポイズンフラワーが、毒の息を吐いてくる。
それも一体や二体じゃない。
十体ほどのポイズンフラワーが密集している。
「ワフゥ!」
「ニャアァー!」
「くうっ!」
フクマロは俺を背負い上げて退避。
モンブランは得意のかまいたちで、毒の息をこちらに来ないようにした。
いくらこの二匹でも、あの毒を喰らえばたたじゃ済まない。
二匹自身もそう考えたらしい。
「これじゃ進めない!」
《まじかよ!》
《フクマロとモンブラン居て苦戦すんのか》
《今日が異常なんだよ》
《こんなに中ボスいるもん?》
《いや見たことないって》
《何が起きているんだ?》
以前にここまで来たことはあるけど、ポイズンフラワーは一体のみだった。
それがこんなに集まってきているなんて。
耳にはえりとの声が飛んでくる。
『本当に大丈夫か?』
「任せとけって!」
『絶対に無茶はするなよ。命には変えられない』
「そんなのダンジョン潜ってる時点で今更だろ!」
一早く異変に気づいていたえりとは、さっきから繰り返し心配の声を寄せる。
何度か引き返せとも言っていた。
だが断る!
なぜかって?
《がんばれ!》
《男を見せろ!》
《いけえやすひろー!》
《フクマロ君ナイス!》
《モンブラン君良い仕事してるよ!》
《ここが正念場だよ!》
《ハラハラする》
配信が盛り上がっているからだよ!
コメントは追えないほど多く、視聴者は継続的に伸びている。
つまりチャンスだ。
これを逃すようなら配信者失格だろ!
俺もすっかり配信者になったらしい。
ここですんなり引き返そうとは思わない。
さらに、
「グオオオォォォ……!」
「!」
後方からは
しまった、
俺は横目でチラっと情報を確認する。
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ネイチャーゴーレム
希少度:B
戦闘力:B
所々に草木を生い茂らせるゴーレム型魔物。
『まあまあの密林』における中ボス的存在。
速度は遅いが、一度見つかってしまえばどこまでも追いかけ続けて来る。
その追跡力は自然の力を使っていると言われる。
攻撃力・防御力共に優れており、見つかった際にはダンジョンを脱出するのが得策だ。
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先ほど道を抜ける際に見つかってしまったネイチャーゴーレム。
その4メートルほどある巨体で、本当にどこまでも追ってくるのか!
「グオオオォォ……!」
「うおっ!」
ゆっくり振り下ろしたネイチャーゴーレムの腕をなんとか避ける。
万が一当たったら死んでしまいそうだ。
魔石で速さも鍛えておいて正解だった。
だが、状況が良くなったわけではない。
「「「ボアアァァー!」」」
「グオオオオ……!」
前方には十体ほどのポイズンフラワー。
後方には大きなネイチャーゴーレム。
「なんだよこれ!」
通常、中ボス魔物に遭遇しても一体。
それが二桁だって!?
しかも、みんな
ツタや全身が小刻みに動いているからだ。
まさに、前回来た時からは想像もつかない光景が広がっていた。
《まずいまずいまずい!》
《やすひろさん!》
《ピンチになるとは》
《ペット達なんとかして!》
《お願い!》
そんな時、
「キュルゥゥゥゥ!!」
「!!」
奥の方から大きな咆哮が聞こえてくる。
これは……ボス魔物の鳴き声だ!
と同時に、
「「「ボアアァァーッ!!」」」
「グオオオオォォォ……!」
中ボス魔物達も合わせて咆哮を上げる。
さらに、それらはより一層体を震わせた。
「……?」
いや、違う。
今の咆哮で気づいてしまった。
中ボス魔物達は荒立っていたんじゃない。
この奥で待つボスに。
「近づけさせるな」と咆哮を上げるボスに。
だからこのありえない数が集まっているのか。
けど、それって……。
「ちょっとワクワクするな」
「ワフ」
「ニャ」
俺の呟きにフクマロとモンブランは頷いた。
それほど何か重要なことがあるなら、なおさら到達してみたい。
今日じゃなければ見られない何かが、ここを突破すれば見られるかもしれない。
「フクマロ、モンブラン。行けるか」
久しぶりに二匹に確認を取った気がする。
ピンチなんていつぶりかすら分からないからな。
「「……」」
「あれ?」
だけど二匹は応えない。
「……! まさか!」
いや、俺の早とちりだったか!
「ワフゥゥゥゥ……」
「ムニャァァァ……」
二匹の体は段々と
《!?》
《おいおい!》
《まさか!?》
《あれが来る!?》
《久しぶりに見れるのか!》
《きたああああ!》
《まじかああ!!》
《最強フォルムきたあああ!》
コメント欄も気づいた人がいるようだ。
「クォ〜〜〜〜ン!!」
「ニャオオオオオ!!」
「……! ははっ!」
二匹は最高の形で応えてくれた。
モフモフの白い毛を逆立て、周りに電流のようなものを走らせるフクマロ。
栗毛色の毛は黄金が混じって光り、爪や牙が大きく伸びたモンブラン。
この二匹がいれば、もはや怖いものは何も無い!
《巨大化だあああああ!!》
《かっけええええ!》
《いけええ!!》
《最強フォルム!!》
《生配信で見れたー!》
《ライブで見れて感動;;》
《ボスに共鳴した?》
《モフモフが増えたー!》
「ワフ」
「ああ!」
乗れ、と言ったフクマロに飛び乗る。
ここは前と同じ。
だけど、今回はもう一匹!
「ニャフ」
「任せたぞ!」
道を開く。
モンブランが言った。
怯えていた中ボス達は、魔物を頂点を目の前にしてさらに体を震わせる。
それでも引かない。
「ニャ……」
それを見たモンブランは、すぅっとゆっくり右手を上げる。
「──ブニャッ!」
「「「……!!」」」
そして、一閃。
前方のポイズンフラワー達の
「ニャ」
次は当てる。
再び右手を構えたモンブランはそう言っているように見える。
ポイズンフラワー達は完全に動きを静止させてしまった。
動けばやられる、そう直感したのだろう。
それでも向かってくるものが。
「グオオオォォォ……!」
後方のネイチャーゴーレムだ。
これを見てまだ反抗するとは。
よっぽどボスのところに何かあるらしい。
「ワフ」
「頼んだ!」
掴まっていろ。
めちゃくちゃイケメンなフクマロに言われて握る力を強めると、フクマロは高く跳び上がった。
「グオォォォ……!」
「ガオオッ!」
フクマロは迫る腕をひらりと避け、ネイチャーゴーレムの体に横向きに
そのままネイチャーゴーレムの体を蹴り、ボスの方向へジャンプした。
「ワフ!」
「ムニャ!」
それにひっつくモンブラン。
巨体をぶら下げてなお下降しないフクマロの身体能力には驚くばかりだ。
そして、地面に着いた。
視界に入ってきたのはボス魔物。
「キュルゥゥゥ!」
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シマリスクイーン
希少度:A
戦闘力:???(未知数)
平均約3メートルという大きな体長、ぷくっとした頬とお腹を持つリス型魔物。
焦げ茶色のモフモフな毛並み、縦に入った黒い線が特徴的だ。
『まあまあの密林』のボス的存在。
ランダムな物が実る『ダンジョン
その為、戦闘力は個体ごとに異なり、未知数。
一般的には、体長が大きいほど強い個体と言われている。
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図鑑で調べてきた通り、最奥にはシマリスクイーンが居座っていた。
だけど、
「おいおい……デカ過ぎんだろ」
体長平均3メートルのはずが、目の前にいるのは明らかに5メートルは越える。
体長が大きいほど強い個体だと言うし、これはもしかしてまずいのでは……?
いや、それでも!
うちの二匹は最強だ!
「フクマロ! モンブラン!」
「「……」」
「どうしたんだ?」
二匹は急におとなしくなった。
シマリスクイーンの姿を見てからだ。
「キュル、キュル……」
「!」
なんだ?
シマリスクイーンの息遣いが荒く……?
「キュルゥ……」
はっ! もしかして!
俺のその予想は当たっていた──。
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