第24話 お引越しをしよう!

 今日も今日とて俺は配信をしている。

 自宅でのペット配信だ。


「ほ~らモンブラン。こちょこちょ~」

「ニャフ~ン」

「フクマロ! ボールだぞ!」

「ワフッ!」


 モンブランには猫じゃらし、フクマロには小さなボール。

 それぞれ目銅佐めどうさオーナーよりもらったグッズは、二匹にもすごく好評だ。


《かわいいー!》

《無理ぃ》

《日々の疲れが抜けていく……》

《配信ありがとうございます!》

《明日もがんばれるよ》

《この時間の為に仕事がんばってる》


「みなさんありがとうございます!」

 

 感謝をされるけど、それはこちらのセリフだ。

 この人たちが見に来てくれなければ、俺の生活は成り立たない。

 win-winなコンテンツだなあと思う。


 そんな中、最近たまに見るコメントが目に付く。


《家、狭くないですか》


「うぅ、中々に痛いコメント」


《すみません! そんなつもりではなくて!》

《フクマロ君たちにしたらってことだよね》

《それは思ってた》

《今の収入ならもっと良いとこいけるくね?》

《ちょっと息苦しいかも》

《最強種族をこの部屋に置いておくのは無理かも》

《二匹が良い子すぎるだけなんだよな》


「! それはたしかに……」


 フクマロとモンブランを改めて見てみる。


「ワフ?」

「ムニャ?」

 

 一見ただの小犬と小猫だけど、二匹は魔物で、しかも最強種族なんだ。

 この薄給ブラック時代から変わらない狭部屋に、ずっと居させるのも悪いかもな。


 さっきのボールにしても、もっと走れる距離があった方が良さそうだ。


「何か良い物件とかってありますかね」


《ペットOKはマスト》

《ペットってか魔物だけどw》

《魔物OKなんてある?w》

《二匹とも賢いからいけそうだけど》

《不動産屋の視聴者いないかー》

《案件こい!》


「難しいよなあ」


 新たな物件。

 それは頭の片隅に置いといて、配信を続けた。







 数日後。


「お久しぶりです!」

「ほっほ。こちらこそ。低目野ひくめの君も活躍しているみたいで何よりです」


 あるオフィスに招かれて、俺は目の前の人に頭を下げる。

 相手は「安東あんどう会長」だ。


 たまに連絡を取り合ってはいたが、直接お会いするのは退職する時以来になる。

 月日にすると、実に約1か月ぶりだ。


 相変わらず優しいおじいちゃんみたいな雰囲気の方で安心する。


「数日前の低目野くんの雑談配信、見させてもらいました」

「物件の話が出た配信でしょうか?」

「そうですね」


 配信はなるべく毎日やっているが、雑談配信は最近だとそれぐらいだ。

 会長は資料を持ち出して話を続けてくださる。


「やっと私の出番が来たと思いましてね」

「これは!」


 渡されたのは物件の資料。

 パラパラとめくる内に、俺の目が見開いていく。


 少し田舎の方に建てられた一軒家。

 「ドッグラン」ならぬ「魔物ラン」。

 横に広く地下一階を含む計三階の構造。


 まさに「ここで魔物を飼ってください」と言わんばかりの物件だった。


「あの、もしかしてこれ……」

「ええ。ぜひ低目野君の引っ越し先にどうかと思いまして」

「本当ですか!」


 安東会長は不動産業もやっているんだっけ。

 心強い方と関係を持てたものだ。


「それと、警備に関しては目銅佐君の会社にお願いしてます」

「え!? 目銅佐オーナーに!?」

「はい。話を振ったらぜひ、ということでした」


 なんでここで彼女が出てくるんだ?

 

「失礼ですが、目銅佐オーナーとは仕事仲間だったりするのですか?」

「仲間といいますか、経営の上では弟子みたいなものです」

「弟子!?」


 あのいくつも会社を経営する目銅佐オーナー。

 安東会長はその師匠だっていうのか!?


「数年前、縁あって彼女とはお会いしましてね。会社経営者を目指していた彼女からは色々と聞かれました。私なんかよりよほど優秀ですがね」

「いやいやいや……」


 最近、目銅佐オーナーのすごさを再認識したとこだぞ。

 その上に師匠がいたなんて。

 これはたまげたな。


「私の話はこの辺で。それよりどうでしょうこの物件。値段はそこそこしますが」

「いえ、ここに住みたいです!」

「それは良かった」


 自分語りはすぐに引っ込めるのもレジェンド感を出してる。


 こうして、驚きの事実を知りながらも淡々と物件が決定。

 新築の物件なのに優先的に聞いて下さったそうで、他の志願者はいなかった。


 値段はそこそこするが……フクマロとモンブランの快適さには変えられない!

 急いで準備をした俺は、早速数日後に引っ越しが決まった。







 さらに数日後。

 いよいよやってきた引っ越し日。


「おおー!」


 都心からは少し離れるが、都内のとある一軒家。

 都内にこんな場所があったなんて!


「ワフゥーッ!」

「ムニャニャーッ!」


 二匹は真っ先に走り出す。

 はしゃいでいてこっちまで嬉しくなる。

 自然に我慢させていたのかもな、ごめんな。


「これはガチですげえな」

「だろ?」


 隣で驚いた顔をしているのは、えりと。

 仕事上、こいつも頻繁に出入りするだろうし、何より人手が欲しかったので呼んだ。


「素敵な場所ですね!」

「で、ですね……」


 さらに隣には目銅佐オーナー。

 忙しいであろう彼女には声を掛けてないけど、どこからか噂を聞きつけて付いてきた。

 安東会長から聞いたのかもしれない。


 オーナーなのにフットワーク軽いよな。

 ま、まあ、手伝ってくれる分には助かるだろう。


 ちなみに、平日なので美月ちゃんは学校だ。


「じゃあさっさと終わらせてしまおう!」


 引っ越し業者さんとも協力してみんなでやった結果、作業は意外と早く終わった。


 ペット二匹がすっごく張り切ってくれたのも大きいだろう。

 小さな体だけど、力は人とは比べられないほど大きいので効率も良かった。





 そうして、作業も終わり夕方。


「ここは何を育てようかなあ」


 一番の悩みどころの前で俺は腕を組んでいる。


 それは「畑」だ。

 実はこの物件、外の魔物ランの隣に大きな畑のスペースがある。

 実に田舎っぽくてスローライフ向きだ。


「普通に野菜とかじゃダメなんですか?」

「もちろん悪くはないですが……」


 せっかく「魔物と住める家」なので、何か特別なことをしたい。

 贅沢ぜいたくなのかな? いや、好きなことをとことんやる、俺はそう決めたんだ!


 そんな時、


「おー。あった、あった」

「どうしたんだよ、えりと」


 さっきからタブレットで何かを調べていたえりとが、ようやく口を開いた。


「この畑を見た時に思い出したんだよ。ほれ」

「なんだそれ」


 えりとのタブレットをみんなでのぞき見る。


「“ダンジョン産の種”?」

「そうだ。ちなみに、何が生えるかは分からない・・・・・

「なにいっ!?」


 俺は興奮気味に驚いた。

 でも、目銅佐オーナーは納得いっていないよう。


「何が生えるか分からないんですか? それって確実性が無くて魅力がないように思えますが」

「違うんですよ。なあ、えりと」

「ま、この辺は男心かもな」

「うーん?」


 彼女はリアリストだし、確実性がないのを嫌うかもしれない。


 だが! そこがいい!

 まさに男のロマン!

 ギャンブルってやつだ!


「ちなみに、育てた例はこんな感じ」

「おおおっ!」


 実例には「魔石」、「装備」、「ダンジョン産の食べ物」などが生えたという。

 また、逆に「変なもの」「まずい食べ物」、「魔物が出てきた」なんて悪い例もあるようだ。

 

 割合的には良:悪=1:9ほどらしい。

 かえって面白いじゃないか。


「で、これはどこにあるんだ?」

「手っ取り早いのは『まあまあの密林』だな」

「おおっ!」


 まさに今メインにしているダンジョンじゃん!


「ただし」

「?」

「それを守ってんのはボスだ」

「……ほう?」


 えりとはニヤっとした顔を浮かべた。

 俺も同じような顔をしていることだろう。







<三人称視点>


 『まあまあの密林』最奥にて。


「……」


 ガジガジ、と種をかじる魔物が一匹。

 怖そうな雰囲気をただよわせ、他の魔物を寄せ付けない。


 このダンジョンにおけるボス魔物だ。


「キュルキュル」


 ボス魔物は何かが迫っていると察知。


「キュルッ!」


 その強力な前歯を以て、ボス魔物は種の一つを砕いた──。

 

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