第23話 モフモフとやすひろを争う女の戦い?

 「こちらが正式な製品版です!」

「おおー!」


 東京の街並みが一望できる高層ビルの最上階。

 俺みたいな人間が入れるそんな場所は一つ。

 目銅佐めどうさオーナーの会社だ。


「早速着せてみてください!」

「喜んで!」


 用意してもらったのは、魔物用お洋服。

 彼女が通販サイト『ダンジョンファッション』で正式に売る製品版だ。

 前回のダンジョン配信の時は試作品だった。


 俺たちはこのお洋服の広告塔のような役割をしているので、一番に着させてもらうことが出来た。

 目銅佐オーナーから「そろそろ会いませんか」とかわいらしい連絡が来たのも理由の一つだけど。


 しかし、一つ問題がございまして。


「へー。やすひろさん、随分とお若い社長さんと仲が良いんですね」

「こらこら」


 俺の隣に座る美月ちゃんだ。

 普段は礼儀正しく清楚せいそなのに、今日は一体どうしたっていうんだ。


「社長に年齢は関係ないわ。それよりあなた、やすひろさんとちょっと席が近いんじゃないの」

「あの、目銅佐オーナー?」


 目銅佐オーナーもさっきから美月ちゃんにはつっかかる。


 初対面ではどちらも笑顔で対応していたのに、会議が進むにつれて段々とこんな雰囲気になっていった。

 二人とも一体何を感じ取ったというんだ。


「ぷっ。くくく……」

「おい、そこの研究バカも」


 えりとは、ずっと笑いをこらえているし。

 何がおかしいんだこの野郎。

 間に挟まれる側の気持ちにもなってみろ。


 美月ちゃんは俺同様、今話題のペット持ちインフルエンサーとして目銅佐オーナーに呼ばれたらしいけど、これは失敗だったのでは……?

 なんとなく、二人は会わせてはいけなかった気がする。


 そうして、俺は空気を変えるべくわざと大きめに声を出した。


「おっ! どっちも似合ってるぞー!」

「ワフッ!」

「ニャフッ!」


 製品版のお洋服を身に付けたフクマロとモンブラン。

 ダンジョンで活動する為の機能性は改善されたと言っていたけど、見た目は前回と同じものを着せてみた。


 フクマロは『茶色い毛皮のお洋服』。

 モンブランは『法被はっぴのお洋服』だ。

 

 他にもいくつか受け取ったが、やっぱり最初にこれを見たかった。


「ワフ~ン」

「ニャフ~ン」


 どちらもすっごく満足そうな顔を見せる。

 二匹ともおめかしが大好きなんだよな。

 めちゃくちゃ可愛い。


 すると、声を上げる女性が二人。


「きゃわー!!」

「可愛いー!!」


 美月ちゃんと目銅佐オーナーだ。


「「む?」」


 そして、二人はにらみ合う。

 だから何故そうなる!?


「オーナーさん。失礼ですが、本当にこの子達の可愛さ分かってるんですか」

「あら小娘。あなたこそ、この子達の本当の魅力を分かっているのかしら」


「……」

「くくく……」


 なんだこの状況。

 女性たちは胸を押し付け合って語り始めた。 


「この子達はダンジョンでも輝く可愛さを持ってるんです。ダンジョンに行ったことがないオーナーには分からないでしょうけど!」

「あらあら、ダンジョンに行かないとこの子達の魅力に気づけないんて。普段でも可愛いのに、これだからお子ちゃまは」

「むむむ」

「ぐぬぬ」


 喧嘩口調だけど、どっちも二匹をめちぎってる。

 もはや仲良しなんじゃないか、この二人。


「ワフゥ」

「ムニャ」


 当の二匹もあきれ気味だ。

 両手を横に広げて「why?」と言っている(かも)。


「じゃあ分かりました! わたしと勝負しましょうオーナー!」

「いいわよ。どんな勝負をするのかしら」

「“どっちが二匹に選ばれるか”、勝負です!」

「面白いじゃない」


 って、おいおい。

 事態が思わぬ方向に行き始めたぞ。


「え、ちょっと二人とも?」

「「やすひろさんは黙って!」」

「……はい」


 ここは見守るしかなさそうだ。





 机と椅子は全てよけられ、あっという間に会議室は広間へと変わる。


 美月ちゃんと目銅佐オーナーは、それぞれ距離を取って窓側に座り、入口側にはフクマロとモンブランが。


 どうやらこれが勝負会場らしい。

 今更ながら、今日は何しに来たんだっけ。


「では、はじめっ!」


 えりとが高らかに宣言した。

 で、なんでお前も張り切ってんだ。

 ツッコミ不在すぎだろこの空間。


「ワフー!」

「ニャニャー!」


 まあ二匹がやる気ならいいか。


 先制攻撃をしたのはまさかの目銅佐オーナー。


「わおーん、わおーん」

「!?」


 目銅佐オーナーは四つん這いになり、弱い魔物(?)の真似をした。


 あれは……防衛意識を誘う作戦か!?

 それにしても普段の格好を捨て過ぎだろ!


「ニャフー」


 生態系を守る役割を持つモンブラン(魔物名:ニャイオンキング)。

 モンブランは目銅佐オーナーの方に歩き始める。


「おっと、これはオーナーは優勢か!?」


 相変わらず張り切ったえりとが実況まで始めた。

 お前、まじどの立場だよ。

 

「くっ! こうしちゃいられない!」

「美月、ちゃん……?」


 美月ちゃんバッグから何かを取り出す。


「からあげダンスはじまるよっ!」

「ぶっ!?」


 取り出したのはからあげのストラップ。

 さらに美月ちゃんはダンスをし始める。


「からから、あげあげっ。からっから!」


 そういえば、最近美月ちゃんはからあげの新CMに抜擢ばってきされてそこでダンスを踊っているんだった。


 しかもそれは、


「ワフッ!」

「フクマロ君も一緒に? からっから!」

「ワフッワフ!」


 フクマロが大好きなからあげだ。

 当然、フクマロは美月ちゃん側に飛び込む。


 しかし、目銅佐オーナーは欲張りだ。


「いかせません!」


 そう言いながら手拍子をパン、パンと二度。

 すると入口から、秘書さんらしき人が皿を持って来た。

 その上には……本物のからあげ・・・・・・!?


「ほーらフクマロ君。社内食だよ!」

「ワフッ!」

「フクマロ君、待って!」

 

 フクマロは方向転換をして目銅佐オーナーの元へ。


 き、きたねえ……。

 ただの謎勝負に大人の権力を持ち込みやがった。


「ちょっと! ずるいですよ!」

「ずるくなどない。ここが私の会社ホームだっただけだ」


 まだ決着が着いていない中、美月ちゃんが目銅佐オーナーに迫ったことで、二人がまた口喧嘩を始めそうになる。


 これはもうそろそろ止めなければ!


「お二人ともストーップ!」

「わっ!」

「えっ!」


 そこで目銅佐オーナーの肩を強く止めてしまったのか、彼女が持っていた皿が宙を舞い……


「? うお! あっち! あっつ!」


 からあげが俺の頭の上・・・へ。

 飼い主のピンチを助けようと二匹は動く。


「ワフッ!」


 俺の頭の上のからあげはフクマロはパクッと食べ、


「ニャフッ!」


 モンブランが見事に皿をキャッチしてくれた。


 二匹は俺の元にやってくる。

 いつもの褒めてほしそうな顔だ。

 こういう時は目一杯撫でてやるのが一番。


「さすがだなあ。どっちもえらいぞ!」

「ワフゥ~」

「ニャフゥ~」


 二匹とも撫でられて幸せそうな顔を見せた。


「「……」」


 それを見た女性二人はお互いを見つめ合う。


「やっぱりやすひろさんが一番なんですね」

「ええ、そうみたいね」


 さっきまでとは違っておだやかな声色だ。


「今回は引き分けにしましょう」

「私もそう言おうと思っていたところだわ」

「おぉ」


 そして、二人は握手をし合う。

 やっと仲良くする気になってくれたみたいだ。


 今度は目銅佐オーナーから口を開く。


「あなたのその……ぽよちゃんだったかしら」

「はい。それがどうかしましたか?」

「ずっと言おうと思っていたんだけど……すごく可愛いわ」

「……! 本当ですか!」


 目銅佐オーナーはぽよちゃんを褒めた。

 タイミングを見計らったかのように、えりとに抱えられていたぽよちゃんも二人の元へやってくる。


「ぽよー!」

「ふふっ、喜んでいるみたいです。オーナーも触られますか?」

「いいの? 私は今までひどいことを」

「お互い様ですよ!」

「! ……ふっ、そうね」


 目銅佐オーナーはぽよちゃんに触れた。

 スライム系は初めてなのか、その手は恐る恐るだ。


「ぽよっ」

「……!」

「どうですか、オーナーさん」

「すごく可愛いわ」

「良かったです!」


 いつの間にか、どちらも笑顔になっていた。

 さらに目銅佐オーナーはブツブツと呟き始める。


「この形状ならどんな形にも収まるかしら。それとも服を上から被せるような形にして……」

「もう! すぐに仕事の話ですか、オーナーさん!」

「あ、ごめんなさい! つい癖で」

「オーナーさんっぽくていいですけどね。これからは何度だって来ますよ! 同じ・・ペット好き同士として!」

「……! ええ、よろしく頼むわ!」


 二人は再び握手を交わした。

 なんだか良い雰囲気だ。

 

「雨降って地固まる、ってか」

「お前は相変わらず頭良いな、えりと」

「俺としては、もうちょいやり合ってくれても面白かったけどな」

「そんなとこも変わんねーな」

「「あっはっはっは!」」


 俺たちはいつも通り笑い合う。

 そんな中で、女性二人もこそこそ話していた。


「ほんと、仲良いですよね」

「そうね。やすひろさんもちょっとはこっち向いてくれればいいのに」

「オーナーさんも、やっぱりそう・・でしたか」

「ええ。そっちはお互い“ライバル”ね」

「「ふふっ!」」


 こうして、最後はなんだかんだ良い終わり方となった今日の会議。


 ペットの癒しは人間関係をも癒すのだろう。

 これからも、この癒しを広めていけたら良いなと思う。


 そして、俺とペット二匹に加えて、美月ちゃんとぽよちゃんという新たな広告塔を得た目銅佐オーナーの『ダンジョンファッション』。

 それは連日売り切れが続出する事態になり、目銅佐オーナーはさらにビジネスを築き上げることになったという。

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