第27話 理想のスローライフを送ってます

 お昼になる少し前の時間帯。


「ムーニャ、ムニャムニャ♪」

「ワフ!」

「キュルキュルッ♪」


 モンブランが指揮して、フクマロとココアがリズムに乗り、三匹が仲良さげに歌っている。

 ペット同士遊んでいることも増えて、賑やかになったなあ。


「むふ、むふふ……」


 あまりの可愛い空間に、眺めているだけで変なニヤけ笑いが出てしまいそうだ。

 もう出ているか。


「キュルゥー!」


 ココアも本当に楽しそう。

 うまく馴染なじめたみたいで良かった。

 フクマロとモンブランのおかげだな。


「ん、ん~っと」


 腕をゆっくりと伸ばして、最近のことを思い浮かべる。


 ココアを家族にしてからそれなりに日が経った。

 最近は毎日がこんな日々。

 毎日がチートデイ、いや毎日がスローデイだ。


 ここ最近の生活。

 朝起きて三匹とたわむれ、午後から畑の様子を見たりしながら三匹と戯れ、夕方に三匹と戯れながら配信をする。

 夜はモフ×3のふわふわ抱き枕を抱いて寝る。


「これが求めていた理想の生活……」


 やることをきっちりとこなしながら、マイペースに日々を送る。

 まさに理想の『スローライフ』ってやつだ。


 あと、三匹と戯れること以外と言えば……


「やすひろさーん!」


 目銅佐めどうさオーナーがほぼ毎日来ることぐらいか。


「はいはーい」


 ピンポンのチャイムと同じぐらい大きな声で、外から呼び掛けて来るオーナー。

 やはり今日来たか。


 警備会社も経営する彼女に警備を任せているのだが、一番警備する必要があるのは彼女なのでは?

 もちろん冗談ね。


 でもそれぐらい頻繁ひんぱんに来る。 

 今日も平日のはずなんだけど、仕事はしているのかな。

 俺が言えたことではないけど。


「こんにちは、オーナー」

「やすひろさん! お邪魔しま~す」


 玄関を開けると、明るい声の彼女が陽気に入ってくる。

 初対面時から見たら随分とくだけたよなあ。

 あの強面こわもてな態度は俺の前ですっかりなくなってしまった。


「ワフッ!」

「ムニャッ!」

「キュル!」


「きゃー! お迎え来てくれたの! 可愛い~!」

「……」


 この時間帯になるといつもオーナーが顔を出すので、三匹も一緒に玄関まで来るようになった。


 なんたって……


「今日も持って来たからねぇ~」

「クゥン!」

「ムニャァ!」

「キュル!」


 食べ物を持ってきてくれるからな。

 もうエサをくれるおば……お姉さんと思っているのでは?


「やすひろさんも食べましょう!

「はい! いつもありがとうございます」


 俺の分まで用意してくれるので、すごく感謝をしているけどね。





「ほーら。ゆっくり食べてね~」


 目銅佐オーナーはペット三匹達の前に食べ物を置いた。 


 フクマロには、からあげ。

 モンブランには、ポテト。

 ココアには、焼き栗。

(※実際のペットにはしないでください)


 しっかり三匹の大好物を知ってるんだよなあ。

 これでいて毎日同じ物をあげたりもしないので、本当に好きなんだと思う。

 正直めちゃくちゃ助かってる。


「ワフ! ワフッ!」

「ははっ。熱いからゆっくりな」


 フクマロはからあげをワフワフ(ハフハフ)しながら食べる。

 冷食よりは手作りの方が良いよな。


「ニャフゥ~ン」

「むふふ」


 モンブランは相変わらずポテトを二本ずつだ。

 食事の時の幸せそうな顔は見ててたまらない。


「……キュル」

「あ」


 ココアはリスっぽく焼き栗を一つ隠した。

 おやつにでもするのかな。


 ひとしきり様子を確認したところで、食卓に目を向けた。


「では私たちも」

「そうですね。いただきます」

「いただきます」


 手を合わせて俺たちもお昼にする。

 今日はオーナーの手作りオムライスだ。


 以前、美月ちゃんが「手作りサンドイッチをあげた」とか話した時から、オーナーは家に来て料理をしてくれるようになったんだっけ。

 何でかは分からないけど、本当にお世話になってます。


「そういえば、畑に埋めた種がぷっくらしてきましたよね」

「そうなんですよ! 今からもう楽しみで」

「やすひろさん、毎日見に行ってますもんね」

「ははっ。バレてましたかあ」


 ベランダからも見えるけど、いつも気合を入れ、麦わら帽子を被ってわざわざ外に見に行っている。

 彼女には何度かその姿を目撃されたな。


「でも、ここ数日はあまり変化が無くて」

「あらら。えりとさんには相談したんですか?」

「いや、あいつは最近忙しそうなんですよ」


 えりとはフリーではあるが、研究所に助っ人みたいな立場で所属している。

 何か大きな研究対象が入ったとかでかなり忙しそうにしていて、俺も聞けていない。


「水とかってあげてます?」

「一応は。その辺の川の水ですけどね」

「ただの水ですかあ……」


 オーナーは考えるようにしながら上を向いた。

 やがて何か閃いたのか、再び目を合わせてきた。

 

「それってダンジョン産の水とかじゃダメなんですかね?」

「ダンジョン産の水、ですか」

「はい! 詳しくは分かりませんが、すごい水! みたいな」

「なるほど……」

 

 それは思い付きもしなかったな。

 さすが凄腕経営者、発想が豊かだ。

 考えるとワクワクしてくる。


「それは面白いかもしれないです!」

「本当ですか!」


 うんうんとうなずくと、目銅佐オーナーも嬉しそうにする。

 彼女はさらに続けた。


「それならいっそ、水だけではなく肥料とかも全てダンジョン産にしてしまうとか、どうでしょう!」

「全部……!」


 やばい、それめっちゃ面白そう!

 さらには左の方から可愛い高い声が。


「キュル!」

「ん? どうしたココア」

「キュルル!」

「今の話が“良い”、ってこと?」

「キュル!」


 当たり前に話を理解しているのはすごいな。

 それより、ココアが言うなら今の話の信頼感も増しそうだ。


「でも、問題はどうやって運ぶかなんですよね」

「あー、そうだなあ……」


 それを考えていなかった。

 バケツに入れたりしても量はたかが知れてるし。


「水とか肥料とか、バーって能力で出せる・・・・・・魔物とかいたら良いんですけど」

「でもそんな魔物が一体どこに」

「「……」」


 ん? 待てよ。

 今、能力で出すって言った?


「「んん!?」」


 彼女と同時に声を上げる。

 もしかしたら、オーナーも同じ魔物を想像しているかもしれない。

 もやもやと浮かんでくるのは、真ん丸で青い液体の魔物。


「「スライム!」」


 また同時に声を出した。

 客観的に見たら恥ずかしい息ぴったりさだけど、それよりも!


美月みつきちゃんのスライムなら!」

「はい! 桜井さくらいさんのスライムなら!」


 あの魔物の「能力をコピーする力」なら、何往復もして持ち運ぶよりずっと効率よくできそうだ!


「早速連絡してみます!」

「それがいいです! やすひろさん!」


 俺は美月ちゃんにメッセージをした。







<美月視点>


 帰りのHRホームルーム


 今日の授業は午前で終わりらしい。

 お昼ご飯の後は眠いからありがたい。


「じゃあ何かお知らせある人?」

「はい!」


 担任の先生が聞くと、一人の男子が手を上げた。

 クラスの学級委員長だ。


「そろそろ文化祭が近づいています!」

「「「あ~」」」

 

 委員長が教壇に立って話し始めると、みんな「そういえば」みたいな声を出した。

 ちなみにわたしもその一人。


「今年は最後の文化祭だ! 最後は一位になって終わりたい!」


「うんうん」

「わかる」

「一位なりたい!」


 委員長の言葉にはみんな同意した。


 うちの学校では売り上げが順に記録される。

 わたしのクラスは去年・一昨年と、学年二位だったんだよね。

 一回ぐらい一位をとってみたいかも。


「そこで! その内クラスで話し合う時間が取られるだろうけど、それに先んじてみんなにアンケートを書いてもらいたい!」


 そう言うと彼は小さめのプリントを配り始める。

 プリントには『第一希望』、『第二希望』、『第三希望』とある。


「それを第三希望までを書いて、三日後までに僕の元に持ってきてほしい! そうすれば、今後の話し合いもスムーズになるかと!」


 おお、やるじゃん。

 設けられた時間にわーわー喧嘩するより、先に総意を聞いておこうって感じかな。

 気合いが入ってるね。


「もちろん友達と話し合ってもらっても構わないので、第三希望まで埋めてほしい! よろしく!」


 彼の話が終わると、クラスみんなでパチパチ。

 仕事ができる委員長だなあ。


「では起立」


 それ以上は特に無かったので、日直の号令でHRは終わり。

 

 それにしても……文化祭か。

 もうそんな時期なんだ、早いなあ。


 なんて考えてボーっとしていると、


「美月!」

「美月ちゃん!」

「桜井さん!」


「わわっ!」


 席を立ったクラスメイトが駆け寄ってくる。

 ちょっと身を引いて話を聞こうとすると、みんなは口々にあの人の名前を出す。


「桜井さん、やすひろさんを呼んでよ!」

「あのモフモフ達!」

「美月ちゃん前にコラボしてたよね!」


 あー、なるほど。

 文化祭でやすひろさんを呼びたいわけだ。


「どうかなあ。あの人忙しいし」


 勝手に返事できないし、一応誤魔化ごまかしておく。


「お願い!」

「そこをなんとか!」

「俺もう、第一希望に「やすひろさんのペット」って書いちゃったよ!」


 最後の男子君、気が早いな。

 まだ聞いてもいないよ。


 けどまあ、たしかに文化祭にやすひろさんを呼べばうちのクラスが余裕で一位になれそうだよね。

 聞いてみる価値はあるかな。

 

 でも忙しいし次はいつ会えるか……


「!」


 そんな時、スマホが震えたのに気づく。

 相手は、やすひろさん!?


『ちょっと頼みたいというか相談事があるんだけど、少し話をできないかな? 代わりにできることがあったら、なんでも言うこと聞くからさ!』


「……ふふっ」


 もう、この人はタイミングが良いなあ。

 でも、なんでもかあ……なにをお願いしちゃおうかな?


「美月ちゃん?」

「あ、ごめんごめん」


 でもしょうがない。

 クラスの為に「何でも」を使ってあげますか!


「わかった。聞いてみるよ!」


 話を終えたわたしは、笑顔で教室を出て行った。

 行き先は早速やすひろさんち!

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