第18話 初めてのコラボ配信! 後編
<やすひろ視点>
「ぽよよっ!」
友好的に美月ちゃんに近づいてきたスライム。
それに気づいてか、フクマロもモンブランも手を出さない。
「私と……来る?」
美月ちゃんが手を差し伸べる。
そして、
「ぽよ!」
「わあ……!」
真ん丸のスライムから、にょきっと出て来た液体の手が美月ちゃんの手を取った。
指はなくて、ただ細長い液体が出てきた感じ。
「かわいいー!」
「ぽよよっ!」
美月ちゃんは思わずスライムを抱きかかえる。
体がぷにぷにしていて、気持ち良さそうだ。
「私、ずっとペットが欲しかったんです!」
「そうなんだね。ということは……」
「はい! 私、この子飼います!」
「ぽよー!」
美月ちゃんは満面の笑みでスライムを撫でる。
スライムも嬉しそうだ。
なんか……見ていてほんわかする。
《かわええ》
《かわいいに溢れてる》
《映画化しよう》
《;;》
《泣いた》
《美月ちゃん良かったね》
《最近涙腺が……》
コメント欄も同じみたいだ。
10万人という、とんでもない視聴者が画面の向こうでほっこりしているだろう。
「それにしても、この子はどこから来たんだろう」
多数のスライムが合体してできるデカスライム。
それに合体せず、ひょこんと森の中から現れたように見えた。
「さあ。デカスライムに合体していたわけではないみたいですし」
「美月ちゃん、随分とデカスライムに詳しいね」
「え、え!? 全然そんなことないですよ! やだなーもう!」
「そうかな」
森の中に行きたがっていたみたいだし、もしかして美月ちゃんの目的はデカスライムだったりするのかな。
けどなんのために?
まあ、深く聞くのも良くないし
「じゃあそろそろいい時間だね。引き返そうか」
「はい!」
美月ちゃんは今日一番の笑顔だ。
帰り道。
ふと美月ちゃんが口を開いた。
「そういえば、ぽよちゃんって戦えるんですかね」
「ん? ぽよちゃん?」
「あ、この子の名前です!」
美月ちゃんは、抱きかかえているスライムを横から人差し指でつっついた。
ぽよぽよ、という効果音も聞こえてくる。
いつの間に付けたんだその名前。
てかそのままだし。
まあ、その辺はツッコまいでおこう。
「戦えるかどうかかあ。うーん……」
言葉を選びながら、チラっとコメント欄を見る。
《スライムだしなあ……》
《戦闘はちょっと》
《負けちゃいそう》
《可愛いとは思うんだけど》
《やめておいた方がよさげだね》
だよなあ。
言わないようにしていたけど、俺と同じ意見がほとんどみたいだ。
スライムは言わずと知れた最弱の魔物。
赤や緑の上位種スライム、もしくはデカスライムならまだしも、普通のスライムに戦闘は厳しい。
「そうですよね……」
「美月ちゃん……」
「でもいいんです! こんなに可愛いので!」
美月ちゃんはスライムを強く抱く。
今の笑顔は、俺でも取り繕ってくろいるのが分かった。
そんな時、
「ぽよ! ぽよよっ!」
「わわっ! どうしたの、ぽよちゃん」
「ぽよっ!」
ぽよちゃんがにょきっと出した手で前方を指す。
「「「ガルルル……」」」
「!」
現れたのは、複数体の狼型魔物『ウルフ』だ。
戦闘力はD。
低いように思えるが、戦闘力がEのゴブリンやスライムよりは一段階上のランクだ。
「フクマロ、モンブラ──」
「あ、ダメです!」
「!?」
うちの最強の犬と猫を呼ぼうとした時、隣で美月ちゃんが声を上げた。
「ぽよー!」
「待ってぽよちゃん!」
「んなっ!?」
なんとスライムのぽよちゃんが、ウルフに向かって一直線に走り出していた。
ぽよん、ぽよんと跳ねながら移動する様は可愛い……けどそれどころじゃない!
「ぽよちゃんを止めてくれ!」
「ワフッ!」
「ムニャッ!」
合図をすると、二匹は一瞬の内にぽよちゃんを捕まえる。
だが、
「クン」
「ニャ」
何かを確認した後、フクマロとモンブランはぽよちゃんをあっけなく離す。
「おいっ!?」
「ワフ」
「ニャン」
「!?」
フクマロとモンブランは、腕を組んだまま「やらせてやれ」と言わんばかりの態度。
お前たち、いつからぽよちゃんの師匠になったんだ!?
「ぽよちゃん!」
「ぽよー!」
「くっ!」
もう間に合わないか……!
歯をギリっとした時、驚きの光景が。
「ガルッ!?」
ぽよちゃんがウルフの顔に
さらに、
「ぽよよよよっ!」
「ガ、ルル……」
そのままウルフを
頭から下まで、ほぼ丸飲みだ。
「なっ!?」
「ぽよちゃん!」
「ぽよー!」
《おおおっ!?》
《スライムがウルフに勝った!?》
《何が起きた!?》
《ぽよちゃん!》
《すげえええ!》
コメントも加速する。
しかし、これだけでは終わらない。
「ぽよー!」
「ガルァッ!?」
ぽよちゃんは体から
これは……ウルフが得意とする攻撃!
飲み込んだウルフの力を使ったのか?
「すごい! すごいよぽよちゃん!」
「ぽよー!」
スライムがウルフを連続で倒すとは。
これは正直驚いた。
だが、最後に残るのは一際大きなウルフ。
この集団のリーダー的存在だろう。
「ガルアァァ!」
「ぽよよ……!」
ウルフの
そこに、
「ニャフ」
「ぽよ!」
「使え」とモンブランが猫の手を出す。
ぽよちゃんは、モンブランの手をぱくり。
「ちょっ!?」
「ニャフ」
「ほっ、大丈夫なのか」
一瞬びっくりしたが、食べたわけではなかったらしい。
一度口の中に入れただけみたいだ。
でも、それで何ができるって言うんだ?
ぽよちゃんは大きく息を吸った。
それに合わせて、体もぷっくらと膨らむ。
そして、
「ぽよー!」
「ガ、ガルゥ……!」
放ったのは
モンブラン、つまりニャイオンキングが得意とする“飛ばす斬撃”だ。
「まじかよ……!」
かまいたちにより、スパパッと体中を斬られたウルフのリーダーは、その場で膝から崩れ落ちた。
ぽよちゃんの大勝利だ。
《うおおおおお!》
《まじかよ!》
《ウルフの集団に勝ったぞ!》
《ぽよちゃんつえええ!》
《本当にただのスライムか!?》
《これなら戦えるんじゃね!?》
《なんなら結構強いぞ!》
美月ちゃんのチャンネルともあって、彼女のペットが活躍して大盛り上がり。
「ぽよちゃん……!」
「ぽよー!」
勢いよく跳ねたぽよちゃんを、美月ちゃんがキャッチした。
本人たちも勝利を称え合って抱き合う。
「これはすげえぞ!」
「ワフ」
「ニャ」
ぽろりと呟くと、うちのペットたちは頷く。
二匹が師匠
魔物同士、何か通じるものがあるのかもしれない。
「私、ぽよちゃんを大事に育てます!」
「ええ、そうしてやってください」
きっと美月ちゃんは、ぽよちゃんが弱くても大切に育てていただろう。
それでも魔物のペットという以上、やっぱり戦わせたい場面はある。
ただのスライムにしては強すぎるぽよちゃん。
結果的には良かったのかもしれない。
《ぽよちゃんかわいいw》
《完全な魔物ペットブームだな》
《新たな癒しが》
《美月ちゃんに可愛い魔物とか神か?》
《鬼に金棒》
《美月にスライム》
そうして、ほんわかな空気のまま入口まで辿り着く。
美月ちゃんは配信の締めに入る。
「視聴者のみなさん! 今日は楽しんでもらえましたか!」
《楽しかった》
《もう終わってしまうのか》
《またやってねー!》
《やすまろもまたコラボ頼むな》
《ぽよちゃんかわ》
《フクマロくーん!》
《モンブランちゃん!》
「すっげえ……」
ここにきて一番のコメントの流れの速さ。
視聴者数は、なんと15万人。
平日のただのダンジョン配信でこれは異常だ。
最後までこの人数を維持できたのは、本当に楽しんでくれたからだろう。
「では、また次の配信で! ほら、やすひろさんも!」
「ま、またお会いしましょう!」
「クンッ!」
「ムニャッ!」
「ぽよー!」
いつの間にかの大所帯で、配信を終えた。
そして美月ちゃんは、改めてこちらを向く。
「今日は本当にありがとうございました!」
「こちらこそです」
配信が終わっても丁寧な美月ちゃん。
こういうところが、彼女の人気の
「ほら、二匹も挨拶しな」
「ワフフッ!」
「ニャフッ!」
フクマロとモンブラン、それぞれが手を向けて美月ちゃんにバイバイをする。
手が小さくて可愛い。
「ふふっ、こちらこそです! じゃあほら、ぽよちゃんも」
「ぽよっ!」
「ははっ」
それに応えるよう、ぽよちゃんも手を振ってくれた。
スライムもぷにぷにで可愛いなあ……。
「あ!」
「どうしました? やすひろさん」
「そういえば、デカスライムの魔石を取ってきていない!」
しまった。
ぽよちゃんが出現して、完全に失念していた。
売れば20万円のあのデカスライムの魔石を!
「あ、あー……そうですね。いやでも、大丈夫じゃないですか」
「大丈夫とは?」
「大丈夫は、大丈夫です」
「……!?」
一瞬、「これ以上会話を広げるな」という雰囲気を感じ取った。
勘違いかもしれないけど、ここでやめておこう。
「ところで、やすひろさんの登録者もかなり増えたんじゃないですか? 私、ちょくちょく宣伝したりリンクも貼ってましたし」
「たしかに……って、えええ!?」
彼女に言われるがまま、登録者数を確認して驚く。
「よ、40万人……?」
このコラボ配信開始前は30万人。
今回の放送だけで10万人増えただと!?
それほど、このコラボ配信が大成功だったのだ。
「すごい! でも、やすひろさんならもっともっと伸びていくんでしょうね!」
「そ、そうかな……」
「そうですよー! お互いに頑張りましょうね!」
両手でガッツポーズを作る美月ちゃん。
今日、彼女とコラボ配信をして本当に良かったと思う。
フクマロ・モンブランの活躍、ぽよちゃんの発見、バズり……。
色んなことを含めて、初コラボ配信は大成功に終わった!
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