第17話 初めてのコラボ配信! 前編
「コラボか! いいじゃないか、受けよう!」
家の中にえりとの声が響いた。
今日は休日。
ここまでの大成功も踏まえ、今後の作戦会議だ。
「そう易々と受けていいものなのかな」
「良いだろ! 何を気にすることあるんだよ」
「だって……相手、女子高生だぞ?」
「……」
えりとは俺の顔をぼかーんと見た。
そして吹き出す。
「ぶっ! あっはっは! そんなこと気にしてんのかよ!」
「す、するだろ! もし間違いがあったら……!」
「そうなれば、お前も桜井さんも大炎上して終わりだな」
えりとが笑いながら続けた。
「けど、そんなこと気にしてたら女性配信者とコラボなんてできねえぞ?」
「だよな……」
「それに俺もしっかり責任を持つ。お前が倒れたら俺もお終いだ」
「えっ? それってどういう……」
違和感がある言い方に、思わず聞き返す。
「だって俺もフリーだし」
「んなっ!?」
「俺だけ折半でもらうなんて嫌じゃん」
「いやいやいや! あそこやめるって正気か!?」
「あー、でも退職とはちょっと違うぞ」
えりとは軽く立場を説明してくれる。
フリーの研究職員。
学校で言う、非常勤講師みたいな感じだそうだ。
聞いてる限り、そんなレベルじゃないぐらいで待遇良さそうだけど。
手伝ってほしい研究などがある時、えりとにも仕事が回ってくるそうだ。
「あっちがどうしても手放してくれなくてよ。最低限、所属だけでもしてくれって」
「……」
ガチの有能さにちょっと引いてしまった。
魔物図鑑を作ってる企業・研究者から頼まれるってどういうことやねん。
「ま、これで俺も時間ができたし、研究したい時は自由にあっちに行き来できる。てことで、改めてよろしくな」
「……おう」
俺は控えめに返事をした。
あ、別に嫉妬じゃないですけどね。
「とにかく! 次は桜井さんとのコラボ配信だな」
「ああ! だな!」
俺は美月ちゃんからの誘いを
★
<三人称視点>
数日後。
やすひろと美月、両者が都合の良い日に合わせて、コラボ配信は開始された。
「こんばんは! 桜井美月だよっ!」
配信するのは美月のチャンネル。
どちらがいいかという話があったが、影響力の大きさからこちらに決まった。
「やすまろに出るなんて恐れ多すぎて無理すぎです」などと美月が言ったのも相まってだが。
《こん》
《こんばんは~!》
《美月ちゃん!》
《今日もありがとう》
《生きがい》
《仕事帰りの美月ちゃん沁みるわあ》
「あはは、今日もみんな元気だね! そしてなんと、告知通り今日はスペシャルゲストです!」
美月がやすひろ達に両手を向ける。
高性能なカメラも空気を読んでやすひろを映す。
だがやすひろは、
「こ、ここ、こんばんは! や、『やすまろのモフモフチャンネル』のやすひろです!」
(ぐおー! またやっちまったー!)
当然、
《やすまろだー!》
《やすまろ!!》
《こんばんはー!!》
《コラボ嬉しい!》
《落ち着け落ち着けw》
《安定のかみかみで草》
《これを見に来てるまである》
「それと! フクマロにモンブランです!」
「ワフッ!」
「ニャフッ!」
やすひろが順に撫でると、二匹とも決めポーズを取る。
フクマロは、両腕で力こぶしを作るようなマッスルポーズ。
モンブランは、左腕は腰に右人差し指を上に向ける一等賞ポーズだ。
《きたああああ》
《モフモフたち!》
《かわいい》
《かわいいなあw》
《フクマロ君だあ!》
《モンブランちゃーん!》
《これを見に来た!》
「きゃわー!!」
「え?」
「……え?」
流れるコメントを見ていると、めちゃくちゃ近くから一番のファンのような声が聞こえたやすひろ。
美月の方を振り向くと、彼女は何も無かったかのように、すんと冷静な顔に戻した。
「……コホン。では改めまして、今日はダンジョン配信を行っていきます!」
正気を取り戻した美月が進行する。
二人がコラボ配信するのはダンジョン配信。
最近なにかと話題の『はじまりの草原』だ。
(大丈夫だよな……)
フクマロとモンブランという最強種族を眺めながら考えるやすひろ。
美月の方からダンジョン配信を提案され、ほぼ強引に押し切られた時は驚いたものだ。
それもそのはず、
(『デカスライムの』魔石……!)
美月は、未だに豊乳効果のある魔石を諦め切れていなかった。
前回はモンブランに
今回はやすひろとのコラボが大の目的ではあるが、やはりそちらも捨てられない。
若くして人気者になるには、この欲望への忠実さも必要なのだ。
「いきましょう! やすひろさん!」
「はい!」
こうして、二人のダンジョン配信は始まった。
「ワフ! ワフフ!」
「グギャアー!」
フクマロの電光石火。
やすひろたちを阻んだゴブリンは倒れる。
《つええええ》
《かわー!》
《安定だな》
《負ける気がしないな》
《安心して見ていられる》
もはや視聴者たちにも見慣れた光景だが、今日は
「ニャオォォ!」
「グガー!」
「ピギャー!」
モンブランだ。
フクマロには負けたモンブランも、ニャイオンキングという最強種族の一角を担う。
『はじまりの草原』の魔物に苦戦はしない。
《つよっ!!》
《モンブランすごーい!》
《かわええ》
《ちっちゃいのに~笑》
《よくやるなあ!》
モンブランもフクマロ同様、小さなままだ。
原因は分かっていないが、あのえりとに研究を任せているので、その内判明するだろう。
そして、
「きゃああ! フクマロ様! モンブラン様ー!」
間近で二匹の様子を
「あの、美月ちゃん?」
「……はい。なんでしょう」
だが尋ねられると、すんと冷静になる。
配信してる側としての意地なのだろう。
(二匹のファンなんだな……。割とガチめの)
《大ファンでわろた》
《叫んでんじゃんw》
《隠せてないぞww》
《美月ちゃんもかわいいなw》
《興奮抑えられてなくて草》
《配信者のプライド保とうとしてるw》
「みんな、何のこと? ほら進みましょうねー」
「ワフッ!」
「ニャッ!」
指摘されても冷静さを保つが、流れの中でさりげなく二匹に触れる美月。
配信者の意地と、ファンの興奮が彼女の中で戦っている姿は、側から見ても面白かった。
さらに、
(美月ちゃんには懐いているんだよな。もしかしたら、彼女にも魔物をペットにする才能があったりするのかな)
なんてことも考えるやすひろ。
「やすひろさん!」
「あ、今行きます!」
二人はまだまだ進んでいく。
それなりに進んだところ。
これまで順調に来ていたのだが……
「美月ちゃん。こっちへ行こう」
「いいえ、こっちに行きましょう!」
いつの間にやら行きたい道が分かれることに。
両者の間には頭脳戦が繰り広げられている。
やすひろは、
(こっち側は危険だ。いくら二匹がいても、美月ちゃんに行かせるわけにはいかない!)
危険なルートは避け、安全に行こうと考える。
それもそのはず、美月が行こうとしているのは森のエリア。
以前、フクマロが対峙したデカスライムがいるエリアだ。
一方、美月は
(こっち側にデカスライムがいるのは知ってるんだから!)
そもそも、それが狙いであった。
安全を考えるやすひろと、危険を冒してでもデカスライムの魔石が欲しい美月。
意見は分かれる。
「じゃあ、配信者らしく視聴者さんに決めてもらいましょう!」
「どういうこと?」
「アンケートです!」
美月は配信カメラを操作し始めた。
「やすひろさんと私、どっちの道に進むべきか、投票お願いします!」
「美月ちゃん!?」
そして、配信上で投票を開始。
《おおお!?》
《なんか盛り上がってきたなあ!》
《美月ちゃんだろ!》
《敵が強い方が見てて面白いだろ!》
《でも危険だよ?》
《やっぱり安全の方が……》
コメントもさらに盛り上がる。
自分が参加できるコンテンツを提供してくれて、視聴者も面白がっているのだ。
(すごいなこの子……)
配信者としての力も、行動力も驚かされるやすひろ。
「あ、ちなみに私が勝ったら視聴者プレゼントします」
「だから美月ちゃん!?」
「てへっ」
配信者としては勝てない、そう思ったやすひろだった。
そうして、アンケート結果が表示される。
『美月69% : やすひろさん31%』
「やったー!」
「ぐぬっ」
美月の圧倒的勝利だ。
「では森に行きましょう! やすひろさん!」
「う、うん……」
配信者としては、こうなった以上付いて行くしかない。
「大丈夫だよな」
「クンッ!」
「ニャニャッ!」
二匹のペットをそっと撫で、彼女を先導した。
だがすぐに、目的の魔物は登場する。
「ぽよーん!!」
「早ぁっ!」
もはや待ってただろ、と言いたくなるほどに早いデカスライムの登場。
希少度がCのレア魔物のはずだが、やはり人気配信者同士、運は相当持っている。
《きたああああ!》
《またこいつだwww》
《豊乳スライム!!》
《伝説のデカスライム!》
《美月ちゃん狙ってた?w》
「いけるか? 二人とも」
「ワフッ!」
「ムニャッ!」
「よし! いってこい!」
すでに臨戦態勢のデカスライム。
向かってくるなら容赦はしない、とやすひろは二匹を放った。
「ガオォッ!」
「ニャオォォッ!」
戦闘の時のみに出す二匹の声。
最強種族二匹にかかればほんの一瞬……ではなかった。
「ん、どうしたんだ二人とも」
突然、攻撃を止めた二匹。
「ワフ」
「ニャフ」
そうして、二匹は美月にとどめを刺すよう目線を向けた。
魔石をどうするかはパーティーごとに自由だが、基本は最後に攻撃を与えた者に渡される。
もしかすると、美月が『デカスライムの魔石』を欲していることを分かっているのかもしれない。
賢さと同時に、やすひろにそれを伝えない優しさも合わせ持ったペット達だ。
(ラッキー! 二匹ともありがとう!)
「はああっ!」
「美月ちゃん!? ちょっと危な──」
「せいやあっ!」
美月は持参した初心者用の盾でパコーンとデカスライムを叩く。
「ぽ、ぽよよ……」
デカスライムは見事にダウン。
フクマロとモンブランが、あとほんの一発で倒せる調整をしてくれていたようだ。
「やったー!」
「美月ちゃん! 大丈夫!?」
「はい! この通り!」
快活な笑顔を見せる美月だが、お目当ての物が気になって仕方がない。
そして、それすらを察知したフクマロとモンブラン。
「クゥ〜ン」
「ムニャ〜」
「お、どうしたどうした。急に甘えて」
二匹は両側からやすひろに顔をすりすりさせる。
《甘えたくなっちゃったのかな?》
《かわええ〜》
《癒されるわあ》
《ずっと見てたい》
カメラはその姿を映し、コメント欄が盛り上がる。
もちろん美月はその隙を見逃さず。
(イエス! 『デカスライムの魔石』ゲット!!)
カメラから隠れてコソコソ漁っていた美月。
ついに念願の『デカスライムの魔石』を手に入れる。
どこまでもできたペット達である。
「美月ちゃん? どうしたの?」
「い、いえ! なんでも!」
恥ずかしくてデカスライムの魔石を隠した美月。
嬉しさもあり、まだ若干ニヤケ気味だが、念願のものがもう一つ近づく。
「ぷよっ」
「!」
彼女の近くに、一匹のスライム。
「美月ちゃん離れて! フクマロ、モンブラン!」
「……ワフ」
「……ムニャ」
「どうした二人とも!?」
だけど、二匹は動こうとしない。
魔物同士、スライムに
「ぽよよっ!」
「え、私?」
「ぽよっ!」
「……!」
(かわいい……!)
スライムは、美月に友好的だった。
美月はフクマロとモンブランを好きでいると同時に、魔物をペットにするやすひろを羨ましいと思っていた。
そんな彼女の元に、今まさに好機が訪れる。
「私と……来る?」
美月はスライムに手を差し伸べた。
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