第15話 二匹目!~両手にモフです~

 「ゴロニャー、ゴロゴロニャー」

「……」


 小猫の姿になったニャイオンキングが、膝の上でゴロゴロしている。

 体を回転させて、あっちにいったりこっちにいったり。


 しま模様もようの栗毛色の体毛はモフモフしていて、俺も気持ち良い。


「ニャフッ!」

 

 最後は立ち上がって決めポーズ。

 なんかめっちゃ楽しそう。


「はははっ、まじで懐かれてんな」

「お、えりと」


 そんなニャイオンキングの相手をしていると、えりとが顔を出す。

 

 ここは、えりとの職場の一室。

 なんでも、好き勝手に研究したり仕事したりできる部屋らしい。


 俺はフクマロと共に『はじまりの草原』で美月ちゃんを助けた。

 それがさっきの話だ。


 それから、えりとより「調べたい事がある」があると連絡が入り、俺はこの部屋で一時間ほど待っていた。

 調べたい事というのはもちろん、ニャイオンキングのことだろう。

 

「わりい。ちょっと遅くなったな」

「大丈夫だ。それより何か分かったのか?」

「おう。まだ推測の域を出ないが、多分合ってる」


 こいつの「多分」は実質当たってるようなものだ。

 俺は真剣に耳を傾ける。


「結論、やっぱニャイオンキングは悪い奴じゃないな」

「へー。どうしてそれが?」

「過去のニャイオンキングによる被害データだよ。ほれ」


 説明を受けながらデータを見る。


「怪我人も死者数も0人!?」

「そうなんだよ」 


 これは異常なデータだ。

 あの最弱のスライムでさえ、死者を出すことはまれにあるのだから。


「でも図鑑には『攻撃性が高い』って」

「それは事実だな。対峙した探索者は、まず意識を刈られてる。ただ、それには理由があった」

「理由?」


 えりとに促されて、次のページへ飛ぶ。


「こいつは決まって大災害が起きそう・・だった現場にいる」

「起きそう?」

「ああ。状況から見て起きそうだったが、実際には起きなかった現場だ」

「つまり?」 


 えりとがニヤっとしながら言った。


「ニャイオンキングが止めてるんじゃねえか、ってことだ」

「こいつが!?」

「ニャフ?」


 続く説明を聞く。


「俺の中ではな。さっき情報が入って確信した」

「情報って?」

「ニャイオンキングが出現した近くで、こいつが討伐されていたそうだ」


 討伐されていたのは『爆食いスライム』。

 餌が大量にある場所に現れ、暴食の限りを尽くす魔物だそうだ。


 そいつが、まるで「かまいたち」に襲われたように討伐されていたそう。

 かまいたちは、ニャイオンキングの攻撃だろう。


 複数の箇所は爆食いスライムに食い散らかされていたが、生態系の致命傷にはならなかったようだ。

 そのまま野放しにされていたら『はじまりの草原』はどうなっていたか分からない、と言う。


「今までのデータを見てもそう。ニャイオンキングは、災害の原因になりそうな魔物をそうなる前に狩っているんだ」

「なんの為に?」

「生態系を守る為だろ。捕食者は待ってれば自然と出てくるが、被捕食者が食い尽くされれば復活はしないからな」


 強い魔物を狩ることで、弱い魔物や生態系全体を守ってるってことだよな。


 おお、なんかすげえ。

 小並の感想しか出てこなくてすみません。


「上級の探索者が対峙して、いつの間にか気絶。気が付けば、ダンジョン入口で目を覚ましたなんて話もあるぐらいだ」

「それは、被害を抑えるためにこいつが運んだと?」

「おそらくな」

 

 ここまで聞いて、ニャイオンキングの素性が分かった。

 えりとの言う通り、悪い奴じゃないみたいだ。

 それが分かって俺も嬉しくなる。


 え、じゃあ待てよ。


「あれ? じゃあ俺がやったことって……?」


 俺とフクマロは、てっきりニャイオンキングが暴れていると思って駆けつけた。

 なのに、ニャイオンキングが実は良い奴だったと。


「あー、お前はただバズっただけじゃね?」

「なんじゃそりゃ!」

「まあいいじゃねえか。猫もお前もwin-winだ」


 そうだけど……いいのかな。

 なんだか曖昧な気持ちのまま、えりとが続けた。

 

「それより、結局どうすんだよ」

「結局って?」

「そいつ」


 えりとが首でニャイオンキングを指した。


「ニャウゥ……」

「!」


 ニャイオンキングが仲間になりたそうな目でこちらを見てくる。

 ここにきて「うるうるした目」とかいう武器を持ち出してきた。


「一緒に来たいのか?」

「ニャフッ!」

「……!」


 ニャイオンキングは、ぷにぷにの肉球を向けて元気なお返事。

 くっ、かわいい……!


「けど、俺にそんなすごい魔物飼えるかな」

「フェンリルを飼ってんだ、今更だろ。それに猫型の魔物は負けた相手に従順だ。今のこいつの中の格付けは、多分こうだ」


 えりとが画面にメモ書きをする。


 やすひろ>フクマロ>ニャイオンキング(自分)


 ニャイオンキングはフクマロに従順。

 それを飼う俺はさらに上なのだそうだ。

 だからこんなに懐いているのか。


「そういうことなら!」


 俺は決意した。

 先週に続いて二度目。


 この子、飼います。


「じゃあ早速」

「ムニャ?」

「ふむふむ」

「ニャァ~ン」


 ニャイオンキングの腹あたりをなでなで。

 ほう、中々にモフいな。


 フクマロのモフモフには少し劣るが、その分肉付きが若干勝る。

 枕の低反発派か高反発派かみたいな、好みが分かれるとこだろう。


 そこから得たインスピレーションで思いつく。

 出た答えをニャイオンキングに伝えた。


「君は今日から『モンブラン』だ!」


 栗毛色の体毛が特徴的だったので、名前は『モンブラン』。

 

「ニャフー!」

「ははっ、嬉しいか!」


 ニャイオンキング、改めモンブランが飛びついて来た。

 フクマロといいモンブランといい、「名前」を認識しているのは賢いな。


 こうして、俺はモンブランも飼うことに。

 配信で紹介したり、『はじまりの草原』での事を説明する必要はありそうだけど、今はこのモフモフと可愛さに負けた形だ。


 そして後日、えりとの研究発表によりニャイオンキングの図鑑情報に文が足されることとなる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ニャイオンキング

希少度:EX(規格外)

戦闘力:S


ライオンのような体を持ち、猫のような顔と特徴を持つことからその名がつけられた。

生息地は不明。

一説には、一匹しか存在しないとも。


非常に攻撃性が強く、見つけた場合はすぐさま逃げるのが鉄則だ。


(以下、new!)

ただし、これは人々を守る為であり、傷つける為ではない。

悪い奴じゃニャイ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 テッテレー!

 ニャイオンキングが仲間になった!







 次の日。

 モンブランと過ごし始めた最初の朝だ。


 早速、困ったことが起きる。


「モフモフモフ~」

「クゥン」


 フクマロを撫でると、いつものように甘い声を出す。

 相変わらず可愛いなあ。


「ニャニャッ!」

「おっと、ごめんごめん。モフモフ!」

「ニャ~」


 ニャイオンキングが「次は私!」と言わんばかりの主張。

 謝りながらかまってやると、腹を上にして喜ぶ。

 可愛さは互角といったところか。


 結果、


「ワフン!」

「ニャニャッ!」

「うわー!」


 同時に甘えてくる。

 甘えてくるというか、どちらもかまってもらおうと必死になる。

 二匹とも俺の腹の上で相撲状態だ。


「ちょっ、わかったわかった! 順番にな!」

「ワフ、ワフ」

「ニャ、ニャ」


 今の言葉、絶対「やだ、やだ」だ。


 そう、困ったこと。

 それは「どちらも自己主張が激しい」ことだ。

 モンブランはフクマロに従順なはずなのに、俺にかまってもらおうとする時だけはなぜかゆずらない。

  

 フクマロをかわいがる → モンブランをかわいがる → 互いに嫉妬 → フクマロをかわいがる……。

 完全に無限ループにおちいっていたのだ。


「まったく。お前たちはしょうがないなあ」

「ワフッ!」

「ニャフッ!」


 同時に抱えて立ち上がると、どちらも満足そうな顔をした。


 二匹とも腕に収まるサイズなのは良い事だな。

 「両手に花」、ではなく「両手にモフ」ってか。


「おっと、もう時間か」 


 モフモフとたわむれていたら、すぐに時間が経ってしまった。


 今日は大事な予定がある。

 まとめていた荷物を取り、家を出た。


 向かう先は、案件をいただいたダンジョンヘルス(株)だ。

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