第14話 大怪獣バトルの行方

 探索者達の避難を完了させた俺は、様子を見に戦場へ。


「ガオオォッ!」

「ニャオオッ!」


 そこではフクマロとニャイオンキング、大きな犬と猫が戦っている。

 まさに大怪獣バトルだ。


「フクマロ……!」


 覚醒したフクマロの姿。

 正直、一方的に勝てると思ったけど、そうはいかないらしい。

 さすがは相手も戦闘力がSといったところか。


 だけど、少し違和感・・・がある。

 さっきから「フクマロが攻撃していない」のだ。


 どうしてだろう。

 ……いや、そうか、もしかしたら!


「フクマロ!」


 俺は大声で叫んだ。


「避難は完了させた! 思いっきり暴れてこい!」

「ワフッ!!」


 途端、フクマロは一気に攻撃に転じる。


「……!」


 フクマロは自ら前進して、ニャイオンキングを翻弄ほんろうする。


 やはりそうか。

 フクマロがあの攻撃を避ければ、後ろに被害が及んでしまう。

 だから盾になることに徹していたんだ。


「──ガオオッ!」

「ニャオッ!?」


 体が大きくても、得意の電光石火は衰えない。


 どころか、小犬の時より速くなってないか!?

 これが本来のフクマロの力なのか!?


「いけ! フクマロー!」

「ガオオッ!」


 決着は早々についた。


「……ニャニャ」


 フクマロが攻撃に転じて一度の攻防。

 見事にニャイオンキングを気絶させたのだ。


 戦闘力がSとはいえ、今のフクマロにはまるで相手にならなかった。


「ワフ」


 前回のように雄叫びを上げることはなく、少し上を見上げて凛々りりしく立つ姿はとても頼もしい。

 気高くただづむ姿は、まさに魔物の王だ。


「フクマロ……」

「ワフ」


 呼び掛けると、ゆっくりと勇み足で俺の方に寄ってくる。

 大きくていつもとは違った風貌ふうぼうに、なんと声を掛けたらいいか少し迷う。

 だけど、やっぱりこれかな。


「よくやったな! モフモフモフー!」

「クゥ~ン」


 両手で首元のモフモフを撫でまくる。

 触れる体積が増えてめちゃくちゃ気持ち良い。

 フクマロも甘い声を出しているし、嬉しいみたいだ。


 なんてしていたら、


「あれ?」

「ワフ?」


 しゅんしゅんしゅん……。

 凛々しく気高いフクマロが、目の前で段々と小さくなっていき……


「クンッ!」


 気が付けば、いつも通りの小犬の大きさに。

 フクマロは腕の中にすっぽりと収まっていた。


「どういうことだ?」

「クゥン?」


 フクマロも首を傾げるだけ。

 もしかして、フクマロ自身もどうやって大きくなったか分かっていないのかも。


 そして、


「クンッ!」

「おっとっと」


 フクマロは俺の腕から離れ、ニャイオンキングの隣にちょこんと座った。


「危ないぞ!」

「ワフ、ワフ」

 

 声を上げるが、フクマロは「悪い奴じゃないよ」とでも言いたげに首を横に振る。

 すると、


「え!」


 しゅんしゅんしゅん……。

 ニャイオンキングの大きな体は、フクマロ同様に小さくなっていく。


「えええ!?」


 やがてフクマロと同じぐらいの猫になった。

 気絶しているからかもしれないけど、今はただの可愛い猫にしか見えない。


 フクマロに続いてこの魔物も……。

 一体、何がどうなってるんだ。


 しかも、


「ワフ」

「ニャイリマシタ」


 目を覚ましたニャイオンキングと会話まで始めてしまった。

 ニャイオンキングにさっきまでの威勢はない。


 フクマロが両手は組み、ニャイオンキングはこうべれている。

 なんとなくだけど、「参りました」と言っているようにも見える。


 フクマロは俺の方に手を向けた。


「ワフ」

「ニャニャッ!」


 フクマロは「俺の飼い主だ」みたいな態度だ。

 俺のことを紹介しているのだろうか。


「ちょ、ちょっと!?」


 それを見て、ニャイオンキングは俺の足元に寄ってくる。

 まだ拭い切れていない恐怖で動くことが出来なかった。


 だが、ニャイオンキングは俺の足に顔をすりすりしてきた。


「ニャフ~ン」

「……!」


 か、可愛いじゃないか……!

 不覚にもそう思ってしまった。


 でもやはり、さっきの恐怖は拭い切れない。

 そんな戸惑っているところに、茂みから人が出てくる。


「大丈夫でしたか!」

「!」


 桜井美月ちゃんだ。

 戦闘音がなくなった事に気づいたのだろう。


「なんとか。フクマロが守ってくれたので」

「ワフッ!」


 フクマロは元気な小学生みたいに右手を上げて返事をした。

 大きな姿もかっこいいが、小犬の姿もやっぱり可愛いな。 


「それなら良かったです!」

「そちらはどうなりましたか?」

「さっき無事にレスキュー隊が到着しました!」


 彼女の話によると、倒れていた探索者は一人も死んでおらず、全員無事に目を覚ましたそうだ。


 そういえば、血がドバドバ流れているなんてことはなかったな。


 ニャイオンキングは意識だけを刈り取っていた?

 てことは、やはり悪い奴ではない?


 疑問がいくつも浮かんでくる中、桜井美月ちゃんが声を上げる。


「それと……大変なんです!」

「どうしたの?」


 彼女は後ろの飛行型カメラを指す。

 俺は思わず顔をぎょっとさせてしまった。


「さっきからコメントが止まらないんです!」


《大怪獣バトルだった!》

《リアルゴジ〇》

《フクマロ君さっきの倒したのか!》

《すげええええ》

《フクマロちゃん強いー!!》

《速すぎて見えないとかwww》

《フクマロ君の勝ち!》

《ニャンコも強かったけどな》


「!?!?」


 コメントがものすごい勢いで流れている。

 だけど、それ以上に驚くべきはその視聴者数。


「嘘だろ!?」


『40万人が視聴中』


 見たこともない人数が彼女の配信を見ていたのだ。

 あまりの人数に俺も気が動転してしまう。


「どういうこと!?」

「それが、さっきのフクマロ君のバトルをカメラが映していたみたいで!」

「……!」


 飛行型カメラはAIによって盛り上がりそうな描写を映す。

 それが今回は、フクマロとニャイオンキングのバトルだったのだろう。


《てかその猫なんだ?》

《猫ちゃん?》

《それってまさか》

《さっきの巨大な猫か!?》

《フクマロも小さくなってる!?》

《訳分かんねーぞ!》


 当然、みんなも小さくなったフクマロとニャイオンキングに気づく。

 

「え、それさっきの猫なんですか!」

「はい。そうみたいで」

「フクマロ君も小さくなっているし、何が起きたんですか!?」

「むしろ聞きたいのはこちらです……」


 回答としては不甲斐ないが、俺も状況が良く分かってないんだ。


《懐かれてない?》

《結構かわいくね?》

《かわいい》

《でも人を襲うだろ》

《今はそんな風に見えないけど》

《探索者達も怪我は無かったんだろ?》

《何か理由あったんじゃね》


 コメント欄にも困惑が見られる。

 

 本当に懐かれてしまったのか?

 このニャイオンキングとかいう魔物に?


「ニャニャッ!」

「……」


 離れない。

 足を思いっきり揺らしても、決して離れようとしないニャイオンキング。


 そうして色々な事態が起きているところに、


「桜井ちゃん!」


 彼女のスタッフらしき人が出てきた。

 少し耳を傾けると、彼女も一応レスキュー隊に見てもらうみたいだ。

 まあ何かあってからでは遅いしな。


「ではすみません! 今日の配信は終わります!」


《えー!》

《もうちょっと見たいよー!》

《まあ結末は見れたしな》

《美月ちゃんの体調優先だろ》

《おつ》

《放送事故みたいなもんだし》

《そりゃそうだ》

《フクマロの活躍見れたからいいや》


 桜井美月ちゃんは配信を終えたよう。

 それから、


「やすひろさん!」

「!」


 彼女が俺の元へ寄って来た。


「助けてもらってありがとうございました」

「いや、あれは俺というかフクマロというか……」

「いえ! あの時、とても心強かったです!」

「……!」


 ドキーン!

 桜井美月ちゃんは両手を胸の前で包んで、ぐっとこちらに顔を近づけてきた。

 こんな可愛い子に迫られたら、さすがにドキドキしてしまう。


「それと、私の事は美月って呼んでください! やすひろさん!」

「わ、わかったよ」


 返事をして、そういえばと思い出すことがある。


「どうして俺のことを知ってるんだ?」

「……ごにょごにょ」

「え?」

「ファン! ファンだったんです! あの写真を撮った時から!」


 美月ちゃんは顔を赤らめながら伝えて来た。

 

 そうだったのか。

 てことは、彼女がファン第一号だったりする?

 なんだか嬉しくなるな。

 

 それから美月ちゃんはフクマロにも目を向ける。


「フクマロ君もありがとうね」

「ワフッ!」

「ふふっ。可愛い」

「ワフ~」


 彼女に撫でられて嬉しそうだ。


「桜井ちゃん。そろそろ」

「あ、はい!」


 美月ちゃんがひとしきり感謝を終えると、またスタッフが声を掛けてくる。

 話はこの辺までだな。


「では、本当にありがとうございました!」

 

 美月ちゃんは、俺の足元のニャイオンキングを一瞥いちべつして行ってしまった。


 さて、俺はどうしようか。

 そんな時、ちょうど通話がかかってくる。

 このタイミングでの通知は……やっぱり。


「えりとか」

『よう。大変なことになったな』


 えりとも美月ちゃんの配信を見ていたのだろう。


「悪いんだが、その猫持ってきてくれねえか?』

「はいっ!?」

『大丈夫だ。猫型の魔物は勝者には従順な習性を持ってる』

「本当か……?」


 えりとの事は信頼している。

 たしかに、言われてみればフクマロが倒してからかなり従順だ。


「てか、なんで急に」

『ちょっと調べたい事があってな。どうやら、そいつがその場所にいたのは理由がありそうだ』

「なるほど」


 また足をぶらぶらさせてみる。


「ニャオ〜ン」

「……」


 やはり俺の足にしがみつき、まったく離れそうにもない。

 これならしょうがない。


「帰ったら説明してくれよ」

『ああ、任せてくれ』


 こうして、懐かれた(?)ニャイオンキングを俺は持ち帰ることにした。

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