第11話 強くて可愛いダンジョン無双!
「いけ! フクマロ!」
「ガオンッ!」
俺がノリノリで魔物を指差すと、フクマロが目にも止まらぬ速さを生かして魔物を狩っていく。
獲物を狩る時だけに出すフクマロのこの声。
高い声だから可愛いのだけど、どこか最強種族を思わせる迫力もある。
「ブ、ブモォ……」
全体的に黄土色をした、豚のような顔を持つ魔物『オーク』は、腹部を爪で
またフクマロの瞬殺だ。
「すごいぞーフクマロ!」
「クゥ~ン!」
へっへっと舌を出しながら、尻尾をふりふりするフクマロ。
褒めて褒めて! とでも言いたげなモフを目一杯
《フクマロ君すごい!》
《かわいい~》
《まじでつええな》
《無双してて草》
《可愛くて強い!》
《最強じゃん》
コメント欄もフクマロの強さと可愛さに
フクマロの攻撃手段は、切り
単純だけど、それがひたすらに強い。
速さと攻撃力、その二つの要素が飛び抜けているからだ。
「それにしても……」
ふと周りを見渡せば、オークや『ゴブリン』など、数多くの魔物の死体が転がっている。
フクマロにかかればこんなもんらしい。
だけど、視聴者はそれほど気持ち悪さを感じて
というのも、この光景を配信する飛行型カメラには“グロ対策”がされていて、血や傷といった過激な部分は瞬時に修正して映し出されるからだ。
こういった配慮もあり、安心かつワクワクするダンジョン配信というコンテンツがここまで伸びたのだろう。
現在の視聴者数は、なんと5万人。
前回の人数を優に超えていることからも、ダンジョン配信のすごさが分かる。
「お」
そうして少し時間が経てば、魔物の死体はダンジョンへと取り込まれる。
生きている時は取り込まれることがないのに、死体になった途端、綺麗さっぱり死体や血が取り込まれるんだって。
ダンジョンって不思議だなあ。
そして、代わりにその場に残るのが、
「これが噂の!」
綺麗な色と形をした石、通称『魔石』だ。
魔石は、
いま手に持つ魔石はオークから落ちたので、オークの身体的特徴である筋力が上がるみたいだ。
見た目もなんとなく黄土色っぽい。
「これ、どうした方がいいですかね」
それでも、初めてのことなので一応視聴者に聞いてみる。
《使ってもいいと思うけど》
《売却かなあ》
《オークの魔石は結構単価高い》
《強さの割には高く売れるよ》
《売る用と自分用で分ければ?》
「そっか、売却用と分ければいいのか」
コメント欄に教えてもらい、ふと受付で聞いた話を思い出す。
魔石は「割った者が力を得られる」。
つまり、誰が倒したかとかは関係ないのだ。
そのため探索者などにも人気があり、市場価値が高い物だそう。
もちろん倒した魔物の種類や、魔石の大きさによって単価が違うけどね。
「……それなら」
周りにはたくさんの魔石。
多くは持ち帰るとして、一個は使ってみよう。
俺は『オークの魔石』を高く掲げて強く握った。
「出でよ! 最強パワー!」
パリンと音がして魔石が割れると、
その微光は俺の周りをふよふよと浮き、やがて腕に取り込まれた。
おお、これが魔石によるパワーアップか!
「なんか強くなった気がする! ふん!」
そう確信した俺は、思いっきりカメラ目線で力こぶを立てた。
しかし、
《どこが?w》
《いや変わってねえよw》
《フクマロと同レベで草》
《むしろフクマロの方がある》
《す、すごいねー(棒)》
《やすひろさんも強くなってるよ!笑》
「なにっ!?」
コメント欄の反応は鈍い。
それもそのはず、少し勘違いをしていたよう。
《たった一個でムキムキにはならねえよww》
《強い魔物ならまだしも》
《ただのオークだしなあ……》
《それで強くなったら苦労しねえw》
《勘違いで草》
「それもそうか……くぅっ」
オークの魔石はそんなに効果が大きなものじゃないらしい。
よく考えてみればそうだ。
ここはあくまで初級ダンジョンだし、そこの魔石一個でボディビルダーになれたら、熟練の探索者は何になるんだって話だ。
「クゥン」
「おお、フクマロ。お前だけだ
「クン!」
《かわいい》
《かわよw》
《いいな~》
《やすひろのこと大好きだな》
《やすひろさんより大人》
《同情じゃね》
「え、同情なの?」
「ワ、ワファ……」
さ、さあ……じゃねえよ。
俺は現実を知り、少し肩を落としながらまたダンジョンを進む。
俺自身も最強になるのは遠い道のりらしい。
千里の道も一歩から、ということか。
そうして、
「なんだ!?」
「ワフッ!?」
高めの木々が生えるエリアに突入したあたり、俺たちを待ち受けていたのは大きな大きなスライムのような魔物。
目算だが、大体縦横それぞれ5メートルはある。
巨大なスライムが、まるで俺たちを待っていたように
「なんだこいつ……」
俺は取り出した魔物図鑑の情報を見た。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
デカスライム
希少度:C
戦闘力:C
『はじまりの草原』におけるボス的存在。
何匹かのスライムが合体してできる、スライムの上位互換にあたる魔物である。
これより取れる魔石は「女性の胸部を大きくする」効果があるとされ、高い値段で取引される。
なお、通常種スライムからそのような効果は確認されていない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ボス的存在……!」
希少度、戦闘力、共にC。
ランクはEから始まるので、書いてある通り、この初級ダンジョンにしてはかなり強いと取れる。
ここまでの魔物は全て、希少度も戦闘力もEだからな。
だが、
「って、んんん!?」
強さばかりに目がいっていたが、後半にサラっとすごいことが書いてあるのを確認する。
女性の胸部を大きくする!?
……ぽよんぽよん繋がりってか?
図鑑に書いてあるからきっと本当なのだろう。
そりゃあ高い値がつくのも
《これは!》
《きたああああ!》
《デカスライムだ!》
《これが噂の!?》
《盛りスライム!!》
《おっ〇いスライム!?》
視聴者も割とみんな知っているそうだ。
女性と思われるコメントは見えないが、視聴者数はさっきから増え、7万人を超しそうだ。
黙って見守っているということなのだろうか。
「いけるか? フクマロ」
それなら一層、この機を逃すつもりはない。
俺は期待の目を持ってフクマロを撫でた。
「ガウッ!」
「よし!」
本能を表に出した力強い返事が返ってくる。
ここはフクマロに任せてみよう!
「頼んだ! フクマロ!」
「ガオンッ!」
フクマロは勢いよくその場を
得意の速さを生かし、爪でデカスライムの体を引っかく。
だが、
「ぽよーん!!」
元の体が大きいからか、大して効いていない。
むしろ攻撃をされて怒っている様にも見える。
「フクマロ!」
「ワフ、ワフ」
「……!」
声を掛けるが、フクマロは「問題ないぜ」と言わんばかりに首を左右に振った。
そして、今度はより姿勢を落とし、より手足に力を入れた。
「ガウウウ!」
「おおおっ!?」
周りにあるのは高い木々。
フクマロは木々を生かし、得意の電光石火をしては木を蹴って方向転換、また地面や木を蹴って方向転換。
それを繰り返して、フクマロが上から下から、前から後ろから、次々とデカスライムの体を削り取っていく。
「すごい! すごいぞフクマロ!」
速すぎる切り返しがフクマロを何匹にも見せる。
まるで影分身をしているようだ。
「ぽよよー!!」
デカスライムは声を上げるだけで、なす
そうして気づいてみれば、
「クォ~~~ン」
デカスライムは倒れ、フクマロはその上で雄叫びを上げていた。
《うおおおおお!》
《すげえええええ》
《フクマロくーん!!》
《つっっっよ!》
《フクマロ最強!》
《やべええええ》
《これがフェンリルか……》
《こいつ、ワシより強くねー?》
フクマロの無双ぶりにコメ欄も大盛り上がり。
「フクマロ!」
「ワフッ!」
俺は嬉しさを爆発させてフクマロに駆け寄る。
「本当によくやったぞ!」
「ワフ~ン」
俺が抱き上げると、さっきまでの迫力とは打って変わって、すっかり懐く態度になるフクマロ。
こんなに甘えん坊で、こんなに小さなフクマロがあれほど強いなんて。
フクマロの強さに配信は最高潮に盛り上がり、なんと同時接続数はついに10万人を突破。
こうして、初のダンジョン配信も最高の形で終えることができた。
もちろんデカスライムの魔石は持ち帰った。
高く売れたよ。
★
<三人称視点>
やすひろがデカスライムと
「クォ~~~ン」
たった今、フクマロがデカスライムに勝利し、雄叫びを上げた。
そして、
「グガッ!?」
「ギャギャギャッ!?」
「ブモー!!」
それが聞こえた魔物たちは一斉に騒ぎ立てる。
雄叫びが、魔物の最上位種のそれであると本能で自覚したからだ。
「グゴゴゴゴ!」
「ギャヤヤー!」
「カーカー!」
魔物達はすぐさま駆け出した。
あてもなく、ただフクマロの雄叫びから一歩でも遠くに逃げようと。
結果、魔物達は普段の生活圏よりも狭いエリアに集まり始めた。
そうなれば、そのエリアは強い魔物にとっては絶好の餌場所へと化すのだ。
「──グオオオオッ!」
美味しそうな餌の匂いが一挙に集まったことで、眠っていたある魔物が目を覚ました。
★
同時刻、ここはとある少女の家。
超人気インフルエンサー『
彼女は、やすひろが配信機材を買いに行った際、フクマロの可愛さに惚れて写真を求めて来た女子高生。
また、それによってフクマロが人気となる火付け役になった子だ。
「ドキドキするなあ。私がダンジョン配信なんて」
彼女は企業案件により、今週末にダンジョン配信を行うことになっていた。
普段とは違う活動に胸を躍らせると同時に、少しの不安を持っている。
「でも『はじまりの草原』だし、護衛の人もいるから大丈夫だよねっ!」
美月がダンジョン配信を行うのは、たった今魔物が騒ぎ立てている『はじまりの草原』だ。
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