第10話 初めてのダンジョン配信!

 「やすひろ。ダンジョン配信をしてみないか?」

「ダンジョン配信かあ」


 ダンジョンヘルス(株)からの案件動画を一旦撮り終えたところで、えりとから次の提案があった。


「まあ、アリだよな。いずれしようと思ってたし」

「だろ?」


 ペット配信でバズったなら、次はダンジョン配信でバズりを狙う。

 フクマロコンテンツとしては、これ以上ないだろう。


「フクマロ。ダンジョンには行きたいか?」

「ワフン!」

「おおっ!?」


 フクマロは二本足で立ち、両腕を内に曲げてマッスルポーズをした。

 力こぶはムキっとはならず、モフっとしている。


 なんか色々とすごい光景だけど、とりあえずやる気には満ちあふれているみたい。


「決まりだな」

「おう。てか、なんなら今からちょっと行ってみようかな」


 時刻は19時。

 ダンジョンには詳しくないけど、軽く行って帰るだけなら出来そうではある。


「まじか。俺はちょっと……」

「あ、えりとは明日仕事か」

「そうなんだよ」


 いくらホワイトとはいえ、明日仕事で夜からダンジョンはきついかも。

 熟練ならまだしも、俺たちも始めてなわけだし。


「じゃあ俺だけで行ってくるよ。配信の仕方は分かったし」

「分かった。わりいな」

「謝んなよ。お前の仕事は何よりも求められてんだから」


 魔物図鑑の作成や研究関連。

 俺としても、えりとには仕事をおろそかにしてほしくない。


 そして、


「収益に関しても後々ルールを決めよう。えりとお前、そういうの気にするだろ」

「! ……ああ、だな!」


 収益に関して言っておくと、えりとは顔を晴れやかにする。


 そっか、これについて考えてたのか。

 今のところ収益は二人で折半という話だったし、自分が行かないことに申し訳なく思ってたんだな。


「じゃ、無理すんなよ」


 俺とフクマロが早速準備を始めると、えりとは空気を読んで立ち上がった。


「軽くから大丈夫だって」

「ワフッ!」


 だが俺は後々、ここで魔物に詳しい人を連れて行かなかったことを後悔する。







「いらっしゃいませ。こちらへ来るのは初めてでしょうか?」

「そうですね」


 やってきたのは『ダンジョン協会』。

 ダンジョンを管理する組織で、探索者として活動を始めたい時はとりあえずここに来れば良いと教わった。


 その中でも今来たのは『初めての方はこちらへ』と書かれた受付。

 だからこその、今の質問だったのだろう。


「でしたら、まずは『探索者カード』をお作り下さい。これがないとダンジョンへは入れませんので」

「わかりました」


 その後、軽く説明を受けた。

 

 『探索者カード』は探索者を識別するもので、通行許可証の役割も果たす。

 それに加えて、探索者ランクの管理や、ダンジョンから持ち帰った物の換金など、様々なことが出来るらしい。


 さらに『魔物図鑑』を持っていれば連動することもでき、実際に出会った魔物などは図鑑にも「見たことあるよ」という情報が更新されるそう。

 

 俺も、もちろんスマホ型の魔物図鑑と連動した。


「ご登録ありがとうございます。ところで、本日はお一人でしょうか」

「いや、ペットが一匹……うおっ」

「ワフッ!」


 自分のことだ! と言わんばかりに、フクマロがかばんから身を出した。


 これには受付のお姉さんが「やっぱり!」という顔を見せる。


「本物ー!!」 

「ワフン?」


 もしかしたら、俺の顔を見た時に少し気づいていたのかもしれない。

 その上でフクマロを見て確信したのかも。


 受付のお姉さんが反応すると、周りの人達も俺たちに気づく。


「本当だ!」

「フクマロちゃん!?」

「やば! モフい!」


「ははは……」


 こうなると分かってて、ここまでフクマロをバッグに隠し、俺も帽子を深く被ってきた。


 それが受付で顔を出した瞬間にこれとは。

 さすがフクマロ、すでに大スターだ。


 そうしてプチ撮影会が開かれてしまい、俺たちがダンジョンに潜ることが出来たのは少し後だった。





「すっげえ……!」

「ワフーン!」


 目の前に広がるのは、視界いっぱいの大草原。

 足元をなぞるような程度の草が生い茂り、遠くにはチラホラ魔物も見える。


 ここは『はじまりの草原』。

 ダンジョン初心者が集まる、最も難易度の低いダンジョンだ。


「気持ち良いな、フクマロ」

「クゥ〜ン」


 何故か上からは陽の光が常に注ぎ、髪をなびかせるちょうどよい風が吹く。

 ずっといたら時間感覚がおかしくなりそうだ。


 こんな場所が門一つで繋がっているなんて。

 ダンジョンって、改めて不思議な場所だなあ。


「よし、配信を開始しよう!」

「クンッ!」


 俺は数分前に告知して、予約枠を取っていた。


 俺の後ろをふよふよ浮く『飛行型カメラ』を操作すれば配信が開始する。

 カメラの上部には、コメント欄・視聴者数も連動して流れる場所もあるという優れものだ。


 配信には映像を映していないのに、すでに待機している視聴者が1万人もいた。

 今流行りのダンジョン配信ということもあり、たくさん集まってくれたのだろう。


 俺は配信を付けて挨拶をした。


「こんばんは〜」

「ワフワフフ〜」


《こんばんは!》

《フクマロちゃん!》

《こんです》

《フクマロくーん!!》

《ワフワフしてて草》

《なんか言ってる〜笑》

《おすわり可愛い!》


 合わせて挨拶をしてくれたフクマロに、早速メロメロな視聴者さんもたくさん。

 それにしても視聴者が増え続ける……。


 それに唖然としながらも、俺は配信を進める。


「なんと今日はダンジョン配信です! お試しなので短めの予定ですが!」

「ワフッ!」


《やったああああ》

《ダンジョン配信嬉しいです!》

《気をつけてください!》

《フクマロ君やる気満々!》

《かわいいw》

《マッスルポーズ草》

《ダンジョンなのに癒されてるよお》

《フクマロ君の強い所見れる?》


 ちょっと怖さはあるけど、コメントと同じようにフクマロの強さにワクワクしてるのも事実。

 サブスク方式の簡易装備で一応防御は固めてきたので、俺自身はおそらく大丈夫だろう。


「よし、行くぞフクマロ!」

「ワフン!」


 まだボディビル態勢を維持しているフクマロを連れ、俺たちはいざダンジョンへ駆け出す。




 そうしてすぐに、


「フクマロ!」

「クン!」


 野生の『スライム』が飛び出してきた!


「ぽよん! ぷよん!」


 まんまるとした、水色の液状の体を持った魔物。

 言わずと知れた最弱の魔物だ。

 フクマロの実力を知るには良い相手だろう。


「いけ! フクマ──」

「ガオンッ!」

「ぷよー!!」


 ……え? 今、何が起こった?

 

 フクマロはいつの間にか少し遠くへ。

 そして、俺とフクマロの間に落ちているのは、水色の液状の何か。

 

《!?》

《えっ?》

《???》

《フクマロ君?》

《何が起きた!?》

《何かが通ったような……》


 コメント欄も困惑している。


「フクマロ?」

「クンクンッ!」


 俺が呼びかけると、フクマロは「見てて!」と言いたげな顔付きになり、姿勢を落とす。

 四つん這いのまま、手足に力を入れているような態勢だ。


 そして、


「ガォッ!」

「……!」


 またたく間にもう一体のスライムの横を通り過ぎ、その際に右手でスライムを切り裂いた。

 体の大部分を失ったスライムはその場で形状を保てなくなり、地面に水色の液体が広がった。


「!!」


 この液体はスライムの跡だったのか。

 さっきは咄嗟とっさのことで、目が追いつかなかったらしい。


「クゥ〜ン。クンクンッ!」


 そうして、フクマロは褒めてほしいような声を出して、顔をすりすりしてきた。


「すごい! すごいぞフクマロ!!」

「キャンッ!」


 フクマロがやったことが分かり、ようやくフクマロの強さを実感した。

 俺は思わずその小さなモフモフを持ち上げる。


《そういうことか!》

《速すぎて見えないとかwww》

《強すぎて草》

《本当に強いんだ!!》

《フクマロ君すご!》

《探索者だけどこんなの見たことない》

《ガチで最強だろ……》


 視聴者もフクマロがしたことを理解したよう。

 なにしろ、さっきはカメラが追えてなかったみたいだからな。


 あらゆる魔物の行動データを網羅もうらするカメラが、フクマロを追えなかった。

 それは、“今までのどの魔物のデータよりも速かった”、ということなのかもしれない。


《いけいけー!》

《ワクワクする!》

《フクマロ、電光石火だ!》

《どんどん進んじゃおう!》

《フクマロ君がんば!》

《やすひろも戦え!》

《無茶言うなww》


 フクマロの強さを確認した視聴者も大いに湧き、どんどん進めという雰囲気になる。

 もちろん俺もそのつもりだ。


「こうなったらどんどん行くぞ! フクマロ!」

「キャンッ!」


 フクマロの張り切り具合からも行けると判断した俺は、さらに先へと進んでいく。

 だが、この行動が思いもよらない結果に繋がるとは、今はまだ知るよしもない──。

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