第4話 早くもバズる予感?

 「へえ、すっげー! これ全部機材なのか」

「そうだ。全部見てたら日が暮れるけど、オススメを紹介するよ」

「そりゃ助かる」


 やはりえりとは優秀だ。

 そんな優秀なえりとさんとやってきたのは、配信機材の大手専門店『ダンジョンストリーム』。

 これから配信者になろうというなら、機材は必須になるからな。


「ワフッ!」

「お~、フクマロも気になるか」

「クゥンッ!」


 もちろんフクマロも連れて来ている。

 家に置いてきぼりはまだちょっと不安だし。


「いらっしゃいませ」

「どうも」

「これは高歴こうれきさん!」


 えりとが受付の人に手を上げて挨拶をする。

 どうやら二人は知り合いみたいだ。


 まあ、ここにはえりとの開発チームの物も提供してるわけだしな。

 えりとの会社は図鑑だけでなく、こういった機材も作っている。

 配信関連にも詳しいのはそのためだろう。


 やっぱすげえわこいつ。

 めちゃくちゃ頼りになる。


「……」


 ふと、俺はさっきのことを思い出す。


 俺が配信者になる決心をした時、えりとは裏方を申し出てくれた。

 配信周りから動画制作など、色々とやってくれるらしい。

 

 だから収益は二人で分け、調整してやっていくつもりだ。

 それに関してはもちろん了承、むしろ俺から願いたいぐらい。

 えりとは信頼できるし、へたに人を雇うより何倍もやりやすい。


「いこうぜー、やすひろ」

「おう」


 こいつと二人なら成功する未来しか見えないな。





 そうして、


「結構な量になったな~」

「これぐらいは仕方ない。必要経費だ」


 買い物を終えた俺たちは、中々の量の荷物をを持ち歩いていた。

 値段もそれなりにしたんだけど……。


「なあ。本当に良かったのか?」

「ああ、気にすんな!」

「でも……」


 薄給の俺に代わって、機材の金はえりとが前払いしてくれた。

 後々、バズってもうかった時に返してくれとのことだ。


 でもなあ。

 俺がそんな申し訳ない顔をしていると、えりとは一瞬真剣な顔になる。


「気にすんなって言ってんだろ。こんなもん、あの時の恩・・・・・に比べれば何ともねえよ」

「……そう、かな」

「ったく。お前は軽く考えてるかもしれないけどよ、俺はあの時、冗談抜きでお前に救われたんだ。これぐらいさせてくれって」


 そう言いながら、バシバシと俺の肩を叩く。


「それに、こんぐらいすぐ回収できる。だろ?」

「……ああ。ああ! そうだな!」


 あの時のこと。

 自分で言うのもだけど、俺はあの時えりとを救ったらしい。

 それがあるから、こんな俺と超優秀なえりとの縁は続いている。


「ワ、ワフッ!」

「おっと!」


 少し昔を懐かしむようにしていると、フクマロがかばんから顔を出した。

 買い物中に迷惑がかからないよう、一応鞄から入れておいたのだ。


「ごめんごめん、苦しかったか」

「ワフ、ワフ」


 フクマロは首を横に振る。

 良かった、どうやらそうではないらしい。


「けどま、そろそろいんじゃね?」

「だな。よし、出ていいぞー、フクマロ!」

「ワフゥッ!」


 俺がチャックを全開にすると、フクマロは勢いよく飛び出す。

 おお、「フクマロ、君に決めた!」が出来た気がする。


 と思えば、


「ははっ。早速か」

「クゥ~ン」


 フクマロは俺の足にほっぺをすりすりする。

 甘えたかったのかな、この可愛い奴め。


 そうして、撫でたりモフったり、しばらくフクマロとベタベタしていると、


「あ、あの!」

「ん?」


 制服の女の子に声を掛けられる。

 周りにも何人かいて、女子高生の集団らしい。


 だけど、みんな顔はとろけ、手にはスマホ。

 そして視線は見事に全員フクマロの方だ。


「写真撮ってもいいですか! もう可愛すぎて!」

「きゃー、言っちゃったよ!」

美月みつき、ナイス勇気!」


 声を掛けてきた女の子に尋ねられる。


 なるほど、フクマロを撮りたかったのか。

 俺は小声でえりとに聞いてみる。


「良いと思うか?」

「ま、いいんじゃないか」


 そしてフクマロにも。


「フクマロ、写真だってさ。大丈夫か?」

「ワフゥッ!」


「「「可愛いー!!」」」


 フクマロが元気な返事をすると、女子高生達は一層メロメロになった。


 そうして、俺は快諾かいだくする。

 これから配信者になるなら、名前が売れるのは損にはならないだろう。


「全然良いですよ。むしろSNSに上げてもらっても」

 

「本当ですか!」

「やったー!」

「もう可愛すぎ!」


 女子高生集団は一斉に写真を撮り始める。


「ほーら、フクマロ。みんなお前のファンだってさ」

「クゥン? キャンッ!」


「「「きゃー!」」」


 女子高生達はもう何かの舞台みたいなリアクションだ。

 そんな流れで、撮影会が開かれた。


 しかも、なぜかは分からないが


「すみません! お兄さんも一緒に!」

「え、俺も?」

「あとそっちにお兄さんも!」

「なんでだ」


 俺やえりとも加わって写真を撮られる。

 それからというもの、その様子を見た周りが騒ぎ、さらに騒ぎを呼ぶ。


「すみません! 私も撮らせてください!」

「本業カメラマンの僕にも!」

「俺にも撮らせてくれ!」


 いつの間にか、俺たちは完全に囲まれていた。


 え、なにこれ、大人気コスプレイヤーのコミケ?

 そう思うほどに向けられた大量のスマホ。


 もちろんみんな目的はフクマロだが、中には女子高生集団のように、俺やえりとも含めて撮りたいという人たちもいた。

 飼い主にもそんなに興味あるのだろうか。


 そしてここでも、えりとは優秀だった。


「今度、このフクマロと一緒に配信始めます! どうぞよろしく!」


「うそお!」

「絶対見ます!」

「アカウント作ったらSNSに流してください!」

「待ちきれないです!」


 ここぞというタイミングの宣伝。

 配信業をやってるわけでもないのに、さすがの頭の回転。

 むしろ、こうなるのが分かって撮影を許可したのかもしれない。


 だけど、えりとも苦笑いを浮かべていた。


「まさかここまでとは」

「フクマロが人気になるのは俺も嬉しいよ」

「ま、だな」


 えりととこつんと腕を合わせた。







<三人称視点>


 SNSにて、とある女の子が複数の写真と共に投稿をしていた。


『今日、ダンジョンストリーム前で見かけたフクマロ君です! ちょー可愛い! でも魔物なんだとか? 人懐っこくてまじで癒されちゃった!』


 やすひろに声を掛けた女子高生だ。


 彼女の名前は『桜井さくらい美月みつき』。

 実は彼女、SNSで100万人を超えるフォロワーを持つインフルエンサーだったのだ。


 その投稿には多くの人々が反応した。

 

『可愛すぎる!!』

『魔物なの!? 超癒される』

『モフモフだ~!』

『触りたい』

『良いなあ~!』

『美月ちゃんぐらい可愛い』


 投稿は数時間で5万リツイート。

 10万以上のいいねがついていた。


 彼女の中でも上から数えて手に収まる程のバズり具合だ。


 さらに、その影響は『#モフモフ』、『#小犬』など、美月が付けたハッシュタグでさらに広がり、美月以外のフクマロの投稿もバズりにバズっていく。


『なんかめっちゃ可愛い犬居た』

『フェンリル?とか言ってたけど可愛すぎ』

『人だかりが完全にコミケで草』

『なんか近々配信始めるらしい』

『撫でたらくそ気持ち良かった』

『この小犬はくるぞ』


 投稿されたフクマロの写真付きのツイート。

 その可愛さに、多くのフクマロ関連のツイートがバズる。





 そして、


「え、えええええっ!?」

「クゥン?」


 家に帰り、やすひろはようやく話題に気づいた。


 アカウントを作ったり、リサーチをする為に開いたSNS。

 だが、たった今それどころではなくなった。


「さすがに話題になり過ぎだろ……」


 『フクマロ』、『モフモフ』といったワードはSNSのトレンドに入り、フクマロの写真がこれでもかというほどRTリツイートされている。


 つまり『バズる』を体験していたのだ。

 これでもかというほどに。


「まだ配信アカウントすら作っていないのに」

「ワフゥ?」


 フクマロの可愛さ。

 それがすでにSNSで広がり始めていた。




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