第3話 俺、配信者になります!

 「お前も配信者にならないか?」

「配信者ぁ?」

 

 えりとが、どっかの無限に走る列車での鬼みたいな誘い方をしてきた。

 それあんまりイメージ良くないぞ。


「そう、配信者だ。今ならダンジョン配信とか人気だろ?」

「まーなあ」


 ダンジョンから発掘物を持ち帰ることを生業なりわいとする『探索者』。

 今ではすっかり一職業としての地位を得た探索者だけど、ついにはダンジョンの様子を配信する『ダンジョン配信者』なんてものまで現れた。


「でも俺はダンジョンなんて素人だし」

「別にダンジョンに潜る必要はないぞ」

「え、ないの?」


 俺は目を見開いてえりとに向き直る。


「ま、後々挑戦してもいいかもしれないけどな。それよりも」

「?」

 

 えりとはフクマロに視線を向ける。


「正直、こんな可愛い魔物は中々いない」

「フクマロは超可愛いからな!」


 その発言にはロックのヘドバンのように首をぶんぶん縦に振る。

 えりともさすがに少しあきれ笑いを見せた。


「早速親バカかよ。まあいい、とにかくそういうことなら、フクマロの可愛さを全面的に押し出すコンテンツでも十分成り立つだろうよ」

「なるほど。……でもなあ」


 俺はフクマロを一瞥いちべつする。


「ワフッ?」

 

 確かに魅力的な話だけど、それじゃお金の道具にしてるみたいだ。

 俺はそういう目的でフクマロをテイムしたわけじゃない。

 ただフクマロと一緒にいられればそれでいい。


「ま、やすひろの言いたいことは分かる」

「本当か? そんな提案しておいて」

「まだ話は終わってねえからな」

「?」


 えりとはニヤっとした顔を浮かべた。


 む、なんだか嫌な予感がする。

 でも俺は負けないぞ。


「フクマロのコンテンツを作ればまず確実にもうかる。希少性、可愛さ、それに──」

「そりゃ分かる」


 難しそうな話を始めようとしたので、ちょっと食い気味に返事。

 早く本題に入ってほしい。

 えりとは「ちぇっ」と言いながら続けた。


「じゃあ儲かればどうなると思う?」

「どうって」

「がっぽがっぽだぞ」

「……でも」


 確かに魅力的な話だ。

 えりとの猛攻は止まらない。


「そうなれば、脱サラ・・・できる」

「……ぐっ!」


 まずい、心が傾いてきた。

 完全にエリートの営業のやり口だ。


 あと一歩で弱い俺は崩壊する。

 王手状態で、えりとは会心の一撃を放った。


「そうなれば、フクマロと過ごす時間が増える」

「……ッ!!」


 そうか、そこまで考えていなかった。

 うまくいけば、フクマロと過ごす時間が増えるのか……!


 俺の足は、自然にすっと立ち上がった。

 そして右手を差し出す。


「負けたぜ」

「ま、俺にかかればこんなもんよ」


 こいつの言う事は正しい。

 いつだって俺の数歩先を見ている。


 配信者になろう。


 そう心に決めた。

 ちょろいにも程があるけど、そんなのは知らん。

 俺はもう決めたんだ。


「さすがだな」


 えりとも立ち上がり、俺の右手を取った。


「だろ?」


 こうやって、友達と真正面から握手することも中々ないだろう。

 それでも、気がつけば恥ずかしげもなく握手を交わしていた。


「ふっ」

「ははっ」

「「あっはっはっはっは!」」


 完全にテンションがおかしくなっていた。


 フクマロをお金の道具にするわけではないけど、そうなれば理想の生活だ。


 気ままに配信や動画投稿をして、俺は好きなだけフクマロとたわむれる。

 一時いっときも離れることなく。


 まさにスローライフの完成だ!


「よし!」


 俺、配信者になります!

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