ばかすぎるおにぃ
「今日は散々だった」
「聞くから吐きなよ、洗いざらい」
おにぃを促し、カシスオレンジを口に含む。
「今朝、通学中に電車が止まったんだよ。そんで一限に間に合わなかった。あとで教授に遅刻の理由を話したら、『遅延証明は?』って聞かれて、ないって言ったら、『それじゃ遅刻は認められない』って言うんだぜ?」
「当たり前じゃん。で?」
「だから俺、証明ならできますっつって、その時の車内アナウンスを再現したんだよ」
「車内アナウンス?」
「そう。『ただいま人身事故の影響で停車しております。運転再開は9時の見込みです。尚、作業の進行状況により、再開時間が前後左右する場合がございます』って」
「時間は前後はしても、左右はしないでしょう……」
「だろ? そんなアナウンスなかなかない。だから俺がその場にいた証明になると思ったんだ」
「なったの?」
「ならなかった」
「だろうね」
「馬鹿にするなよ。俺だって必死だったんだ。その単位必修だったし、出席回数もやばくて、公的遅刻が認められなけば単位を落とすことになる。だから信じてもらうための証拠だってちゃんと用意してあったんだ」
「証拠?」
「そう、証拠。俺はスマホを印籠のように突き付けて、『本当です、こうしてつぶやいている奴もいるんですよ、ホラ』って教授にツイッターの画面を見せたんだ。そしたら教授なんつったと思う?『君はそのツイートを見て、そんな言い訳を思いついたんじゃないのか? 言い訳するならもっとマシな言い訳をしなさい』ってさ。マジで、そーくるかよぉって、もうガァーッカリだよ」
「ばかだなーおにぃ。普通に遅延証明もらえばよかったじゃん」
「だって、めっちゃ並んでたんだもん。ああー最悪だぁ……。四月からまたあの講義を受けなきゃいけないなんて」
頭を抱えるおにぃ。
「どんまい」としか言えない。
おにぃがやけっぱちでビールを傾け、控えめな喉ぼとけが上下する。
なんで顔は上等なのに頭は底辺なんだろうなぁと思う。残念。いっそ『残念な生〇物辞典』の表紙を飾ったらいいのに。
「その後、舞華とデートの約束してたんだけど、行く気がなくなってドタキャンして」
「うわサイテー」
「謝ろうと思って電話かけたら、『もう我慢の限界!』って怒ってて。『話を聞いてくれ』って頼んだけど、『言い訳なんて聞きたくない』って怒鳴られた」
「それは怒るよ。自業自得でしょ」
「悶々としながら電車乗ってたらバイトの駅を乗り過ごして遅刻するし。店長に謝って事情を説明しようと思ったけど、教授には『言い訳しろ』って言われて、舞華には『言い訳するな』って言われたから、もうどっちがいいのか分からなくなって、『遅れた言い訳した方がいいですか?』って店長に聞いたら、『バイトだからって仕事舐めるなよ?』って、余計怒られた」
「おにぃ、ばかすぎる」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます