言い訳は舌の上で溶かして。
あしわらん
おにぃとねーちゃん
「どうしたの?おにぃ。そんなカッコで寝てたら風邪引くよ?」
バイトから帰って早々、半裸の死体を見つけたと思ったら、おにぃがソファにうつ伏せになって死んでいた。
大学進学を機に二人揃って上京。郊外の2LDKで二人暮らしを始めて早一年と十か月。暖房がついているとはいえ、このくそ寒い二月の末に半裸でいるなんて信じられない。
「ねーちゃん、お帰り。遅かったじゃん」
「バイト、遅番だったの。おにぃはなんで裸なの?」
「それ聞いちゃう? 聞きたいなら話すけど」
おにぃが怠そうに体を起こしてソファの背もたれに寄り掛かる。
「聞いてもいいけど、先に服着てよね」
そう言って、床に脱ぎ捨ててあったロンTを拾って投げつけた。
去年のクリスマスに彼女が出来て以来、筋トレするようになったおにぃ。それでも元が細身だから、多少二の腕が頼もしくなって前より腹筋が引き締まっただけ。でもそれがやけに艶めかしくて、見慣れているはずなのに目のやり場に困る。
下手にイケメンなのがいけない!
私はひとりで勝手に憤慨し、おにぃが服を着る間、キッチンで冷蔵庫から缶ビールとカクテルを見繕う。おにぃが服を着たのを見計らってソファに戻ると、一人分のスペースを空けて隣に座った。
「はい、ビール」
「サンキュ。あれ、ハイネケンは?」
「切らしてる。今日はこれで我慢して」
「しょうがない」
プシュッ、プシュッ――と互いのプルタブが開く。
おにぃが缶から噴き出た泡に慌てて口をつけるのが可笑しくて笑った。
ちょっとムッとするおにぃ。
「そうやってみんな、俺のこと馬鹿にするんだよな」
しまった。
どうやら本日の地雷を踏み抜いてしまったらしい。
「どうしたの? 私が今更おにぃをばかにするわけないでしょ? おにぃがばかなのは私が一番よく知ってるんだから」
「傷口に塩を塗るなよ、しみるから」
そう言ってビールをもう一口。
おにぃはお酒に強い方ではない。飲めるけどすぐに酔っぱらう。そして、酔うと普段話さないようなこともぺらぺらしゃべるのだ。
今日もビール二本でもう出来上がった。
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