第4話

 写真屋へと歩きながら、祖父の言葉を何度も思い返す。

 母ちゃん、すなわち亡くなったはずの祖母が、写っている“かも”しれない。

 祖母が亡くなった後に撮った写真のはずなのに?いや、生前の写真が残っているのか?

 幽霊の類かとも考えたが、昔気質の祖父がそんなことを言い出すとはとても思えなかった。


 写真屋に到着し、案内された待ち時間は約2時間。

 母に連絡を入れ、現像されるそれらを想像しながら店内をうろつく。

 チェーン店らしく、田舎の写真屋にしてはカメラの品揃えも豊富で、思わず手に取りたくなる。幸い店内に店員の姿はなく、対応してくれた男性はフィルムを持って奥へ行ったっきり姿が見えない。

 無駄に勧められる恐怖を考えると、ショーウィンドウ越しに触ることができない残念さなんて可愛いものだ。自嘲するように探索を続けていたが、2時間の待ち時間を潰すことは出来なかった。

 一旦店の外に出て、自販機を探す。慌てて出て来たからか、とりあえず喉を潤したい。


「あれ、太一くんかいね?」






 出されたお茶を一口いただく。麦茶にはない程よい苦味と、すっきりとした後味。見た目の緑と相まって、渇いた喉にこれ以上ない清涼感が通り抜ける。高校生の僕でも飲みやすいのは、香りからも感じるしっかりした甘さのおかげだろう。

 祖父の住むここ、広島県世羅郡は隠れたお茶の産地であり、こだわりの茶葉が密かな人気を集めているらしい。


「すっかり男前になって、丈さんの若い頃にそっくりじゃわ」


 歓迎してくれたのは、写真屋の裏手に住む新井さん。歳は父とそう変わらないように見えるが、祖父の貴重なカメラ友達であり、僕も小さい頃に一緒に写真を撮りに行ったことがある。


「ちょっと待っときんさい」


 新井さんはそう言って、一冊のアルバムを持って来た。いかにも年季の入ったその中には、祖父の若い頃の写真が何枚も入っていた。自分で言うのも何だが、髪型さえ合わせれば確かに僕と似ている気がする。

 一緒に写っている男性は、どことなく新井さんに見える。と言うことは、新井さんは父よりもっと歳上だったのか?そんなことを思いながら、ページをめくっていく。


「あぁ、初江はつえさん、残念だったね。」


 祖父に寄り添い笑顔で写る女性を見て、新井さんは誰にともなく呟く。ぼんやりと面影を感じる祖母は、記憶にある溌剌とした印象とは少し違う、おっとりした笑顔をこちらに向けている。


「丈さん、初江さんのこと大好きやったけぇねぇ、ちいとすこし心配じゃわ」

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