第二十一話 僕はモブキャラ
「桐谷に、告白したって……?」
僕が問うと安岡は気恥ずかしそうに「ああ」と答えた。
掃除の時間に空き教室へ呼び出されたため、僕は木のほうきを持ったままだった。
深呼吸をすると、意を決して聞いた。
「……それで、返事は?」
興味がないように振舞おうとしたが、声が震えてしまう。
鼓動が早くなる。もしかしたら、僕とかおりはもう彼らに介入する余地はないのかもしれない。
安岡はそんなことに気づくこともなく、窓際まで行くと埃っぽい空気を外へ逃がした。
日差しを浴びる安岡の顔は、普段の恐ろしい雰囲気はなく、遠くを見つめる姿は大人びて見える。
「少し考えるって言ってた。でも今度、二人で遊びに行く約束した」
冬の晴れ間だったが、入ってくる空気はやはり冷たい。
胸がギュッと締め付けられる。無意識にほうきの柄を強く握りしめていた。
安岡は言葉を続けた。
「告白したときさ、あいつすげー顔真っ赤にしてて、」
やめろ。
「それ見たら俺も恥ずかしくなっちゃってさ」
もう何も聞きたくない。
安岡の耳が赤くなっている。嬉しそうに語る安岡の顔は日差しに当たってキラキラ輝いていた。
彼に降り注ぐ太陽は、僕の手前で途切れていた。冷たい風だけが横を通り過ぎる。
「それで、今度どこに行くかって話でさ、」
「安岡!!」
話を遮るため、僕は叫ぶように名前を呼んだ。まぶしすぎて彼の顔を見ることができなかった。
「……僕掃除当番だからさ、そろそろ行かないと」
「あぁ、そうか。悪いな、急に呼び出して」
安岡は僕の存在をすっかり忘れていたようだった。
話足りないという顔をしていたが、僕は無視して安岡に別れを告げる。
教室に戻ると、すでに掃除は終わっていた。
出てくるときは机の上に逆さまになった椅子がのせられていたが、今はすべて元の状態に戻っている。
僕は持っていたほうきをロッカーに戻した。
勢いあまって掃除ロッカーの扉を強く絞めてしまう。ドォンという大きな音が、誰もいない教室に響いた。
その音をきっかけに、僕の閉じ込めていた感情が破裂した。
「あああああぁぁぁ……!!」
居てもたってもいられず、近くにあった机を蹴った。
ガンッという音と共に、机がよろける。
安岡への怒りというより、自分自身への苛立ちの方が強かった。
積極性もない、切り開いていく勇気もない。安岡のようになれない自分が心底腹立たしかった。
僕はいつまでたっても変われない。物語の主人公はやはり安岡みたいなやつなのだ。
床で頭を抱えていると、ふと不安がよぎる。
桐谷は安岡に返事をしてしまっただろうか。
彼女はいつ返事をするのか。承諾の返事をされたらもう、どうすることもできない。
先ほど机を蹴った拍子にケータイがポケットから落ちていた。
僕はそれを拾い、かおりのことを思い出す。
彼女にも伝えておかなければ。
『そっか、分かった。少し考える』
彼女の返事は僕よりもよっぽど冷静だった。
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