メルト

溶けたように映った。

しかし、人間が溶けるワケもなく、そこには脱力する女性が居た。


私は力を込め、それでいて優しく彼女を抱きしめてやった。

弱ったように少し震えながら、私の身体に手を回し返す、その温みに安心する。


…生きている。

彼女も、私も。


孤独でいられないのだ。

難しい事など、何一つない。


球体を坂に置いた時の、も、

朝と夜が事も、

しかしどんな時でも、生物は事も。


「良い夜だわ。」

「良い朝が訪れるでしょうね。」

「なぁに。同じ良い夜を共有してくれないの?」

悪戯に笑う。

「言うまでもなく。」

私はそう言って、頬にキスをしてやった。

嬉しそうに、くすぐったそうに、そこに手をやる彼女。

そこに躊躇いの色は無かった。


私達はこの上なく幸せであったが、

きっと朝はやって来ない。

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