言い訳娘は人造人間?
ちかえ
え? 私、ロボットちゃん?
「あなたはどうせ人造人間なのでしょう? あの女に弟子なんておかしいと思っていたけど、こんなものを作るなんて!」
ひどい言い草だ。私は静かに目の前の女性の罵倒を聞いていた。
私はただ、ちょっと機械的に『オシショウサマハチョットデカケテオリマス』とか、『ヤクソウガキレテオリマシテ』とか、『ソレハガイジュウヲカリニイカナイトムリデス』とか言っていただけなのに。
大体、目の前の女性の頼み事は、大体、面倒事だから、真面目にとり合わなくてもいいと私の師も言ってたのに。
ロボットごっこは楽しかったけど、言ってる事は結構まともだったのに。お師匠様が留守とか、材料が足りないとかは全部嘘だけど。
あーあ。御用聞きは弟子の仕事だって知ってるけど、もう嫌だな。師は貴族夫人なんだから、屋敷の侍女とか執事とかがやってくれればいいのに、なんで私が!
女性がぷりぷりとしながら帰った後で、私は奥で魔法の実験をしていた師に現状を訴えた。
師は楽しそうにその話を聞いている。
「じゃあ、あなたのために少し仕置きをしてあげましょうか。いい加減鬱陶しいしね」
それは本当にありがたい。
「それにしても人造人間なんて現実にあるのかしら。面白そうではあるけど」
「異界にはありましたよ」
私は元はこことは違う『異界』に住んでいて、ひょんなことからこちらの世界に転移してきた人間だ。そして、このお屋敷にご厄介になっている。おまけにその奥様である魔法使いに弟子にまでしてもらった。将来は安泰だ。
「ではその異界の知識を教えて頂戴」
「はい!」
師の言葉に私は元気よく答えた。
****
一ヶ月後、またあの面倒な夫人が現れた。暇なのだろうか。
「こんにちは、人造人間さん」
完全に、私、人造人間にされてますね。前に普通に話した事あるのにな。あれは何だと思われてるんだろう。ま、いいけど。
「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか」
私はきちんと人間のように返事をする。
って心の中で自分にナレーションをつけてから『いや、私、普通に人間だから!』と思い直す。
「さて、エインピオ夫人はいらっしゃるかしら。さっさと出しなさい」
来た。
『イイエ。オシショウサマハチョットデカケテオリマス』
私は言い訳ロボットになりきる。その途端に私の右腕がロボットのものになった。金属質に。無機質に。
「ひっ!」
女性が悲鳴をあげる。
おお、さすが私のお師匠様! 完璧じゃないですか。
面白いのでカクカクと動かしてみると、目の前の女性がさらに悲鳴をあげる。楽しい!
「な、何よこれ。馬鹿な魔法を使ってないでさっさと惚れ薬を……」
『チョットソレニハザイリョウノガイジュウヲゴジュッピキカラナイトムリデスネ』
今度は右足がロボットのものになった。何で左腕じゃないんだろうって思うけど、まあいいや。でも片方だけだとちょっと動かしにくい。あ、でもそれもロボットらしくて面白いかも。
「ぎゃあ!」
女性がまた悲鳴を上げた。面白い。
「あらあら、わたくしの弟子に何てことをしてくれるのかしら」
私の師が楽しそうに笑いながら登場した。
「エインピオ夫人! 一体、何なのよ、これは!」
女性が師に怒鳴っている。
「あなたがうちの弟子を人造人間だなんて言うから、この子が本当に人造人間になってしまったのでしょう?」
可哀想に、なんて言いながら私の金属質の腕を撫でる。冷たくない? 大丈夫?
「そんなわけないでしょうが! あなたが何かしたのでしょ!」
女性の言葉に私の師はうふふ、と笑ってごまかす。
「それより、ずっと頼んでいるでしょう? バカなことをしていないでさっさと惚れ薬を作りなさいよ」
「それで? その惚れ薬、何に使うおつもり?」
師の声が低くなった。確かに、私は断ってくれとは言われてたけど、その理由は聞いていなかった。
「あなたは既婚者でしょう。夫との仲も良好。好いているお方もいないはず」
そうなのか。だったら彼女が惚れ薬をあんなに欲しがるのはどうしてだろう。他に欲しがっている人でもいるのだろうか。
……他に……欲しがっている……人が?
そこでさすがの私も気づいた。
「……転売ヤー」
そう呟く。
こちらの言葉で言ったから女性にも伝わったようだ。ギクリとしたように震えている。
「ち、違うのよ! 私は……」
女性がそう言った途端、今度は女性の右腕が金属質に変わった。
「ひっ!」
女性の顔が引きつる。
「『私は』何かしら。説明していただける?」
「だから私はそんな転売とか、そういう事では……。ただ、私はお友達に渡そうと……ウワァ!」
今度は左腕がロボットになった。
……ねえ、私の時は右手、右足の順だったのに、何でこの人は順当に両手からなの? 別にいいけど。
女性の慌てぶりと、私の苦笑を見ながら、師は楽しそうに笑っている。
「さあ、続きを言ってごらんなさい?」
師が優しく促す。でも、それは恐ろしい捕食者のようで……。
「ご、ごめんなさい! ごめんなさいぃー!」
ついに女性は降参した。土下座して泣き喚いている。ちょっといい気味だ。でもそのガンガンと地面に打ち付けているロボットの手、元々は彼女自身の手だけど、戻ってから傷とか大丈夫かな?
「さっさと失せなさい」
師は泣きじゃくっている女性を冷たく一瞥する。
そして、警備の者に夫人を追い出すように命じてから、私を連れて部屋に戻った。
この人には絶対に逆らわない方がいい。いや、私も共犯者だけどね。
「何?」
私の体を元に戻してから師は妖艶に微笑む。
「いいえ、何でもありません」
私も微笑みを返してからいつもの業務に戻った。
言い訳娘は人造人間? ちかえ @ChikaeK
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