第20話 【ノーシス】策

 ロッド達がエーベルソのダンジョンに入った頃。


 ナムシとファラは、馬上にいた。


「……ナムシ様、そろそろ、どのような作戦だったのか、全貌を教えていただけると……」

 ファラは欠伸を噛み殺しつつ、そう言った。馬はゆっくり、と歩き、やさしく揺さぶられて心地よい。徐々に睡魔がファラを襲っていく。


 なだらかな地形に草原が広がる。道も細く、雑草の間、というように、道がないのも同然だった。そこを一列で進む。退屈な風景だった。


 目的地まで近道だというので進んではいるが、進むごとに足に草が当たり、ナムシは不快に思っていた。


「ん……そうですねぇ……」

 今は、どのような進捗だろうか。見事にハマってくれると、これほど面白い事はないのだけど、とナムシは思う。


 エーベルソは、わざと弱いプレイヤーを配置している。ダンジョンに集めようとしたNPCを輸送するプレイヤー、エーベルソを守るプレイヤーもレベルが低い者を選んだ。


 全て、ミレミアムに油断と慢心をさせるためだ。


 そして、何度と執拗に輸送しようとする事で、慢性化させる。日常となると、誰もが油断する。そして、NPCとローカストのプレイヤーを捕らえさせる。


 NPCは、善意で協力という形でミレミアムに情報を運んでくれる。


 プレイヤーは、不満から愚痴という形で情報を運んでくれる。


 善意と愚痴という情報は信憑性が高い。両方、本人たちは嘘をついていないのだ。そして、その両方が同じ事を言っている。ミレミアムは信じるに違いない。


 プレイヤーの愚痴は、ローカストの上層部への不満であり、ミレミアム側に無能だと思わせる事ができる。作戦は、ナムシからファラへ、そして、数人のプレイヤーを介して行った。

 執拗と行われる輸送。これも、ローカストの上層部を無能だと思わせる為であった。


 ローカストから送りたい情報はこれだけではない。


 別ルートで、確実にダンジョンへ輸送したミハエルの存在。ロッドとミハエルの関係。執拗な輸送は、別ルートを隠す為にも役立った。


 ミハエルとルピナスは餌。特に、ミハエルは、リーダーのロッドの飢えさせる上質の餌である、とナムシは調査で知った。


 ルピナスの死というミレミアムへの起爆剤、そして、リーケへの挑発に使える情報。


 ローカストの偽りの目的であるダンジョン。


 様々な情報を与え、ミレミアムを揺さぶる。

 特に、ロッドチームをいかに釣るか、にナムシは注力した。その為、ロッドチームにたいする情報収集を行い、何度とロッドチームにNPCを救出させ、彼らの役割や戦法を確認する。


 餌は巻き終わった。布石は打った。


 戦法を確認すると、ハツメが場を混乱させ、バンで一掃。残党をケインが対処。ロッドが高レベルのバフをチーム単位で付与し、一気に場を鎮圧する。ロッドチームの必殺、とも呼べる戦法だった。


 懸念材料が何点か合った。


 問題は、ケインの存在で戦法の手段が広がりつつある。ケインは高い機動力を持ち、場を荒らす存在が二人に増えた事。


 ダンジョンに行くチームがロッドチームではなかった場合。

 が、ロッドチームが罠に掛かれば大当たり、掛からなくとも幾つかのチームを壊滅できればローカスト側の利益となる、とナムシは計算した。

 複数のチームが動くとして、どれかにロッドチームは参加さえすれば、損害を与える事が出来るだろう。


 最大の外れくじは、ダンジョンの入口を守るのがロッドチームだった場合。この場合、エーベルソを失う事になりかねない。取り返すのが、厄介になる。ミハエルを直接、ロッドが助けるだろうか。ナムシには、イエス、な気がしていた。


 結果は、大当たり。ロッドチームはダンジョンに入ってしまった。


「と、ケインの機動力を封じます。ダンジョンでは馬は使えないですから。ケインの騎馬を封じるとどうなると思いますか?」


 ファラは、紅潮し、多少息が荒くなっていた。目がトロンと落ちている。息も絶え絶えに「流石は……ナムシ様……」と呟いている。ナムシは、そんな様子のファラを意に介すことなく、質問する。


「……どうなりますか?」


「一番、基本で、確実性が高い戦法に頼ろうとします」

 ナムシは得意げになって言う。


「つまり、ハツメが出てきます。その対策も、ちゃんと用意してきました。ただ……幹部会議には遅刻しそうですが……」

 ファラとナムシは、ローカストの幹部会に出席する為、エーベルソを離れたのである。距離的に、今出ないと間に合わない。が、無理を承知でナムシは、あの人に頼んだ。


 今頃、どうなっていますかね……と自身の仕掛けた罠が、どのように作用しているか、彼はその想像を楽しんだ。


 全ては、ナムシの思惑通り。

 日暮れが近い。2人は馬を走らせた。

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